2023年2月19日日曜日

2月書評の6

◼️ アナトール・フランス「バルタザアル」
芥川龍之介訳

東方の三賢人の1人、バルタザアルについての創作。アナトール・フランスの短編読んでみた。

先日アナトール・フランス「舞姫タイス」を読み、調べてたら傾倒していた芥川龍之介訳の短編があると知り青空文庫で探してみた。ごく短いお話。

エチオピアの若き王バルタザアルは駱駝の隊列を組んでシバの女王バルキスを訪ねる。バルキスの美しさに心を奪われたバルタザアルは、庶民に身をやつして夜に外出したいというバルキスの誘いで、奴隷を装って出かける。場末の居酒屋で食事をし、金を持ってなかったために踏み倒そうとしたところ乱闘となりバルタザアルは頭に怪我を負い、その血はバルキスの胸に流れる。しかし水のない川床で2人は抱き合い夜を過ごす。

通りがかりの盗人の一隊が、美しいバルキスを売りとばそうと2人を縛り上げる。暴れたバルタザアルは悪党のナイフで腹に深傷を負ってしまう。やがて護衛兵が来て2人を救出、バルタザアルは15日間人事不省に陥るが、その間にバルキスは新たな恋人コマギイナの王を作っていた。激昂したバルタザアルにバルキスはにべもない。傷が開いて再び倒れたバルタザアルはエチオピアへ帰り、学問に打ち込み、新しい星を発見する。

バルタザアルの愛がなくなったと聞いたバルキスは馬象駱駝を連ねてエチオピアに向かい、バルタザアルはその姿を見て心を動かされる。しかし星が王の中なる王が幼な児となって生まれる。汝を導いてその幼な児の下へ導く、われに従へ、とバルタザアルに告げる。

バルタザアルは星の語った通り、没薬を持ってユダヤのベツレヘムへ出発、途中メルキオルとガスパアと落ち合って三人でマリヤのもとへと辿り着いたー。

バルタザールは黒人として絵に描かれることもある。この物語でも黒人の設定である。イエスが誕生してまもなくやってきて拝んだという東方の三賢人については新約聖書にも詳細は書かれていない。正直よく知らないけれども、この設定も創作だと思われる。

血気盛んな王が移り気な女との経験を経て、側近の魔法師や宦官の望むような立派な王となる成長物語、というところだろうか。また教訓を含む寓話でもある。

シバの女王は同タイトルの曲を小学校の学習発表会で演奏し、メロディも未だに覚えている。今回でなんとなくシバの女王のイメージが出来てしまったかな。バルタザールは佐藤亜紀氏の小説「バルタザールの遍歴」等書き物のタイトル、また多くの絵画の題材になっていて、三賢人、三博士の1人と言うことは知っていた。

「舞姫タイス」とパターンは違うけれども、キリスト教に男女のことが絡むパターンは同じ。その関係性が物語の主人公に与える影響をうまく史実に落とし込む、という作品性がおもしろいと思う。

芥川の頃には東方の三賢人というモチーフが目新しく、小説の種になりやすかったのかも知れない。太宰も「駆込み訴え」などでキリスト教を題材としている。

遠い西洋の歴史のエピソードはやはり物語性に富む。新約聖書の世界ならなおさら神性が際立つ。

短く、啓発されるおもしろいお話でした。

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