2022年8月28日日曜日

3月書評の8

この本はとても良かった。シェイクスピア好き。

◼️ 小田島雄志「シェイクスピアへの旅」

訳者とともにシェイクスピア劇の舞台をめぐる周遊旅。写真もきれいで、いい旅に浸れました。

イタリア諸都市、ギリシャ、デンマーク、スコットランド、ウェールズにイングランド。シェイクスピアは有名なのはだいたい読んだ。それぞれストーリーと印象を探りつつ未だ見ぬ舞台に思いを馳せ、読んでない戯曲に興味が湧きと、とても楽しい。

「お前もか、ブルータス!」

ローマから入って「ジュリアス・シーザー」。シーザーの遺体が置かれ、アントニウスが劇中の有名な演説をしたという祭壇を見て、暗殺現場の元老院、また実行者たちが集合したというポンペイ劇場の表廊下はどこか探索する。

「ジュリアス・シーザー」はシェイクスピアの中でも気に入っている作品のひとつ。つかみはOK、なにせローマだし、歴史にかかわる観光情報もたくさん。代表的なコロッセオのほか、写真が載っていた長く巨大な水道橋にも感嘆
未読の「コリオレーナス」もローマの話だそうで興味津々。

作品との関連を無機質にただ説明するものではまったくなく、ダジャレの好きな英文学者と含蓄があるのかないのか、の元哲学青年の編集部員、積極過激派(?)カメラマン、イタリアでもイギリスも旧知の在留邦人のナビゲーターとともににぎやかで楽しい旅。とりわけイギリスの武闘派(?)ユリコは勇ましい。

「じゃじゃ馬ならし」のパドヴァ、そして水の都ヴェネツィアは「ヴェニスの商人」「オセロー(第一幕)」さすが写真映えするな。ピアノ曲の舟歌はヴェネツィアのゴンドラをイメージしたもの。ショパン・コンクールで聴いた舟歌、バルカロールをイメージする。聴きたくなってきた。

ひとしきり、物語の話が織り交ぜられる。裁判官に変装したポーシャの大岡裁き。当時のイギリスの世相を反映したとはいえちょっとかわいそうなシャイロック。シェイクスピアは、理屈だけでなく、極めて人間らしい憎悪をも取り入れている。いいなあヴェネツィア。

ぜひ読みたいと思っている「冬物語」にはハーマイオニというシチリア王の妃が出てくる、という話が。おお、ハリー・ポッターのハーマイオニーってひょっとしてここから?と反応。

ヴェローナは「ロミオとジュリエット」。なんといってもジュリエットのバルコニーが観光名所で、別の本でも観たことがある。銘菓は「ジュリエットのキス」だそうだ。徒歩すぐロミオの家、ジュリエットの墓。私も京都で紫式部の墓、というのに行った折に感じたけれども、観光名所でも厳粛な気持ちになるんだろうなと。言及のある「ヴェローナの二紳士」もおもしろそう。

ミラノから空路ナポリへ。シチリアは「冬物語」「間違いの喜劇」。エトナ火山の写真はないが、夜のナポリの古城風景が青く美しい。

ローマに戻り、ギリシャへ。アテネは"恋の三色スミレ"のエキスを妖精が勘違いしてふりかけたためにラブ・てんてこまいとなる「夏の夜の夢」や「アテネのタイモン」。アクロポリスにパルテノン神殿。写真だけで詳細はないが、エジプトにも立ち寄っているのだろうか。なんといっても「アントニーとクレオパトラ」。激動のローマ史。

まだまだ続く。第2部はデンマーク、といえばやっぱり「ハムレット」。
To be,or not to be:that is the question:
小田島氏は
「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」と訳しておられるとか。

舞台となるクロンボー城はコペンハーゲンから北へ離れたヘルシンオアの町にある。しかし城も町もまったくハムレットを売り物にしていないところは清々しいくらいだそうだ。ふむふむ。

フランスの聖女ジャンヌ・ダルクもイギリスでは魔女扱いされていた。未読の「ヘンリー六世」で登場するという魔女ジャンヌから、ジャンヌ・ダルクを追う旅。「リア王」で彷徨う王様が身を投げようとしたドーヴァー海峡の白亜の崖の写真からは、やはり宮沢賢治を想像する。イギリス海岸。これで合ってるんだろうか?

そしていよいよグレートブリテン島。イギリスである。

シャーロッキアンだから?多少この島には詳しい。スコットランドは島の北側一帯だ。

「マクベス」

今年の年初に、デンゼル・ワシントン主演の最新の映画を観に行った。映画館で観た、初めてのシェイクスピアだった。

登場の地フォレスに向かう途中馬に乗った3人の美女とすれちがう。実に暗示的。観光のためのサクラだろうか。マクベスは3人の魔女に出逢い、国王になるという予言を信じてしまうー。

Fair is foul,and foul is fair.

坪内逍遥は

清美は醜穢 きれいはきたない
醜穢は清美 きたないはきれい

と訳している。いろんな意味にとれる言葉。でもやっぱ好きだな原文もこの和訳も。

ダンカン王を殺害したマクベスの居城はインヴァネス。ホームズのコートのインヴァネス。ネス湖の近く。当時の古城ではないらしい。

魔女は予言する。

「マクベスは決して滅びはせぬ。バーナムの大森林が、ダンネシーンの丘に立つ彼に向かって大進撃をせぬ限り」

バーナムを訪れ森を見る。劇中では兵士が森の木の枝をかざして進む。ダンネシーンには何もないそうだ。映画でもけっこう荒れ地ばかりのイメージ。

カタストロフィは哀しく虚しい。映像で観たからかもだが「マクベス」はやはりコンパクトで奇怪で黒く人間的で、好きな作品だ。

この後旅はウェールズ、島の南西部からイングランド、ロンドンへと進み、シェイクスピアの生家などを訪ねて大団円へ。

シェイクスピアのヨーロッパ巡り、観光名所も多く、シェイクスピアならではの場所にも行き、作品の一部を紹介したり、背景について考察したり。

浸れましたねー。実はもう40年前の旅なのです。最近のものではないけれど、写真がきれいで内容が充実してそうで、街に新しくできた、こぢんまりした古本屋で買った。店に置いてあった「お気に召すまま As You Like It」人形劇のチラシはがきを栞代わりに、ゆっくり読んで書評も長くなった。

シェイクスピア読みたいね。ヴェネツィアとスコットランド、行ってみたい。

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