2014年12月1日月曜日

11月書評の1




今週は久々に土日とも休み。のんびりした。土曜は単独で、日曜は息子と近くにお出掛け。また本買っちゃって、年内に消化できるか状態。やれやれ。

11月は8作品8冊。10日ばかり読めない日があったからまあこんなもんか。ではどうぞー!

有栖川有栖「ダリの繭」

アヤツジストの私。しかし有栖川有栖は初めて。

1993年の作品である。携帯電話が出てこない、というのは微妙にまだるっこし感がある。関西空港が開港している描写があるが、あれは1994年のことで、ちょっと不思議だったりする。

全国展開をしている宝石チェーンの名物社長は画家のダリを信奉し、髭もそっくりに真似している。その社長が自宅にある、リラクゼーションカプセルの中で死体となって見つかった。彼の顔からは自慢の髭が剃り落とされていた。

大阪、灘を舞台に繰り広げられるミステリー。関西の説明がそこかしこに見受けられる。ワトソン役の「作家アリス」は関西弁だ。

まず、ダリについての興味で購入したのだが、少しは言及があったものの、さすがに多くはなかった。謎も、一見エキセントリックで、頭脳的な犯人像を思い描いてしまうのだが、解明されるにつれもうひとつ魅力的でなくなってしまう。立ち回りが、ハデすぎるわりには、動機も実際の犯罪もあまり面白くなかった。

キャストも、探偵役を含めあまり惹かれるものではないかな。もうひとつふたつ読んでみよう、という気がしている。

伊東潤「義烈千秋  天狗党西へ」

お初の伊東潤。これは、先の直木賞受賞作、朝井なつみ、じゃなかった、朝井まかて「恋歌」と合わせて読むといいのではと思う。

時は幕末、攘夷思想の先駆けとなった水戸藩は、内部分裂を繰り返し、身分の高い保守派の武士達で作る「諸生党」は、藩内の激派に対し、志士の家族にまで過酷な弾圧を行った。それを女性的な、残された家族側からの視点で綴ったのが「恋歌」である。

今回は水戸天狗党の道行き、家族を残しての遠くへの長い行軍の話。水戸藩の内部分裂と幕府の関係がややこしいので、訳が分からなくなった部分もあった。

外国から安い綿糸や綿織物が流入、水戸の木綿栽培農家は壊滅的打撃を被り、心中が相次いだ。藤田東湖の息子、藤田小四郎ら天狗党は、「攘夷実行、横浜鎖港」を唱え、筑波山で蹶起する。討幕を目指したものではなかったが、幕府からの追討令のため、小四郎たちは戦いながら、京都の徳川慶喜の元へと長い行軍を始める。

天狗党ものは、島崎藤村の「夜明け前」など多くの作品に取り上げられている。これまで読んだことがなかったが、「恋歌」で初めて読み興味を惹かれた。また伊東潤は、直木賞候補となり、注目していたので、文庫が出て、迷いなく買った。

幕末好きのはずが、水戸を発して、栃木、山梨、果ては信州、越前を経て愛知、岐阜、福井に至る、こんなに長い行軍をしてたなんて全く知らなかった。長い旅の中、同志たちの姿は生き生きと描かれ、戦の中で倒れていくのに寂しさをも感じる。数ヶ月のことなのに、大河ドラマを見ているようだ。

一冊ものとしては長めで時間もかかったが、特に行軍が始まってからは面白く読めた。「恋歌」と違って、既存の歴史小説の枠をはみ出すことはないが、それなりに得心のいく作品だった。

森沢明夫「虹の岬の喫茶店」

サクサクと読めることがポイントか。

タイトルから想像する内容の、期待を裏切らない、ほんわかした話である。

妻に先立たれ小さな娘と2人残された男。就職活動に悩むライダー、夜逃げしてお金が尽き泥棒に入る元研ぎ師。岬にぽつんと立つ「岬カフェ」には様々な人たちが集まり、店主の悦子さんに癒されていく。

どんなもんだろうな・・と思って読み始めたのだが、美味しいコーヒーと音楽、絵画。美しいであろう岬の風景にキレのいいエピソードの連作短編で、トントン読めた。もちろん舞台設定はなにかしらファンタジーめいてもいる。しかし、重いが、重くなりすぎない程度に人間性も炙り出している。

冒頭にも書いたが、このサクサク感がポイントなのだろう。いくつか、ん?と頭を捻る場面があったのも確かだが、けっこう熱中して読めた。

万城目学「鴨川ホルモー」

初の万城目学。いやーけっこう予想外だった。

最初にタイトルだけ聞いた人はやっぱり「ホルモン」を思い浮かべるだろう。これほどタイトルで判断されちゃう本もないかもしれない。

京都大学に入学した安倍は、帰国子女の高村とともに、「京大青竜会」というサークルに入ることになる。安倍はそこで美しい鼻梁を持つ早良京子と出会い、恋に落ちた。杳として知れないサークルの活動だったが、やがて京都の3つの大学と「ホルモー」という不思議な競技をすることが見えてくる。

両方一作ずつしか読んでないが、一言で言えば森見登美彦にそっくりだ。京都が舞台、大学生、そこここに京都の心惹かれる地理案内と知的なウィットを絡めながら、勢いで不思議な世界を押し切る姿勢の青春小説。

中盤はベタな展開に大笑いしたが、なかなか進まないうじうじした部分にはちょっと焦れったかった。

鬼は私は好きだし、不思議な世界に押し付け感がないことにも好感が持てる。映画向きの話で、DVD借りて来ようかな、という気になった。

このデビュー作が話題を呼んだからか、次作「鹿男あをによし」が直木賞候補になり、その後の作品も直木賞候補作となっている。

正直「夜は短し歩けよ乙女」を読んで、森見登美彦はちょっと敬遠してたのだが、この作品に触れ、なぜか彼らの次作も読んでみたくなった。

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