2014年12月1日月曜日

11月書評の2

来月は年間大賞の発表!
お楽しみに!

北林一光「ファントム・ピークス」

そう来たか、というネタだった。迫力はやはりある。

三井周平の妻、杳子は地元安曇野の山中で失踪し、半年後、少し離れた地点で頭蓋骨が発見される。それから程なく、山に来ていた若い女性、祖父の元に来ていた娘と孫が相次いで行方不明となった。

ちょっとぼかして書いているが、私は一昨年の年間ランキングでネタとして関連のある話を最上位にしているし、この物語中にも紹介されている、別の作家の、実在の惨劇を扱ったものも読んでいる。これらの話を現代に持って来たパニック・エンタテインメントだ。

これはブックオフの文庫人気ベスト100を見て買ったものだ。なるほど、迫り来る生々しい危険の迫力を感じるし、また「釣りキチ三平」も思い出すし、アラスカの写真家、故星野道夫氏の自然観に基づく考え方も導入されているようだ。

ここまで言うと何だか分かってしまう方も居るだろう。否定はしないし、ゾクゾクし、夜を徹して一気読みしちゃったし、会話に非常に力点が割かれ、映画の台本のようになっているところにも特徴がある。面白いことは間違いない。

ただまあ、最初の一行が正直な感想だったこともまた間違いない。

松岡圭祐「ミッキーマウスの憂鬱」

これもお初の松岡圭祐。ネタがなかなか興味深い。

ディズニーランドに準社員として入った後藤は、美装部員として仕事を始めるが、着ぐるみの着付けや部屋の掃除など、期待外れの仕事ばかり。さらに、運営会社の正社員と準社員とが、はっきりと色分けされている現実を知る。

この作家さんは、取材が上手なようだ。本の場合、本の内容は実在の事件をモデルにしたものなのか、どういった取材をして、取材先とのようなやりとりがあったのかは、シビアなものになるにつれ、何も書いていないのが通例だ。

普通に読んで、決してプラスばかりではないことやバックステージの描写もあるが、内容からして、ちゃんと取材してデフォルメしているのだと思う。恐らくは史上初のTDL小説としてひとつの価値を放っている。

物語の芯は明確で、だからこそポンポンと物事が進んでいくが、やはり展開が映画的で善悪と、キャラクターの性格付けがはっきりし過ぎている部分は合わなかった。

でもタイトルも含め、ひとかどのトピック小説であることは確かだろう。

北村想「怪人二十面相・伝」

いやあ〜好きだから、買っちゃうんだよね。ブックオフにPARTⅡまであったんで、まとめて買っちゃった。数年前に二十面相の映画があったが、その原作になった作品らしい。

昭和8年、妻を刺した父親に心中を迫られた8才の平吉はなんとか逃げ出し、市井のサーカス団に入る。平吉はそこで天才的な腕を持つ、丈吉に芸を教わる。やがて丈吉はサーカス団を足抜けし、行方知れずとなる。

江戸川乱歩さえ言及しなかった、怪人二十面相の正体についてアプローチした本である。戦前戦後の混乱の中、二十面相も明智小五郎も人間くさい描かれ方をしているので、新鮮ではある。

私は今でこそシャーロッキンだが、小学生の頃は二十面相とルパンの大ファンで、図書館にあるシリーズは全部読んでしまった。

その当時の、神出鬼没、というイメージとは、描かれている天才性、というところでは結びつくが、庶民性、という部分では、見てはならないところを見てしまった気分である。このアプローチに触れたのが、子供の頃でなく今で良かった、などと思ってしまう。

明智小五郎の生い立ちなり探偵を志した動機などは無いが、子供の頃は正義の味方だっただけに、こんなに自信家だったかしらと感じたりする。小林少年の性格まで記憶は無いが、今回のキャラクター設定は、なかなか気に入っている。

んー巡り合ったなあ、という感想で、嬉し楽しく読めた。

北村想「怪人二十面相・伝 PARTⅡ」

続編も一気読み。「青銅の魔人」の舞台裏もあったりする。

特攻を志願したが果たせず、平吉は戦後、サーカス団での義兄弟、吉三に再会、やがて吉三が世話になっている中国人、張大元の後ろ盾を得る。ある日、平吉のもとを、病のため余命幾ばくもない明智小五郎が訪ねて来て、先代二十面相に関する資料を渡し、自分の後を継ぐ小林は冷酷な面があるから気をつけろ、と警告する。2代目同士の勝負は。また師の丈吉や、行方不明の母サヨと、平吉は巡り会えるのか。

天才で指向性の強い先代と違い、どちらの2代目も欠点を持つ人間として描かれている気がする。先代に対しクールな割り切りを見せる2代目明智小五郎と、丈吉とサヨに会いたい平吉が奇妙な対比を見せる。

まさに舞台裏、という感じなのだが、やはり人間臭さに焦点を置いているのだろう。最後はメデタシ。シャーロッキンものは多いが、二十面相の本格パスティーシュは初めて読み、それなりに楽しめた。

犯罪者も、探偵も、天性が強い。ホームズは誰にもない天性がありながら、さらに実務的な研鑽を積んでいる。次はそれに向かわざるを得ない、強い動機でも読んでみたいかな。

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