2026年2月15日日曜日

2月書評の6

◼️ 上橋菜穂子「明日は、いずこの空の下」

良かったなあと読後感。うん、なんかカチッとはまるものがある。味わい深い海外旅のエピソード、思い出エッセイ。

言わずと知れた国際アンデルセン賞の上橋氏。文化人類学者の視点のみならず、広く豊かな想像力が詰まった「守り人」シリーズは私も完読した。氏の旅エッセイは、女学校の英国研修旅行、宮古島や名峰・祖母山で地元の方に親切にしてもらったことから、研究者時代のオーストラリア・アボリジニについての長期フィールドワーク体験でその筆致に想いを馳せる。そして老いた母親さんと行く、年に1度の海外旅行が心にハマる。

女学校時代はバグパイプが欲しくてエディンバラで買い物し、ケンブリッジでは憧れの「グリーン・ノウの子どもたち」の作者ルーシー・M・ボストンさんに手紙を出して会いに行ったくだりには、その好奇心旺盛さに微笑ましく感心。面白い本を読んでこれがしたい、あれが欲しい、となるティーンを好ましく感じる。

アボリジニはカンガルーやエミューを狩る民族で、衛生のため切り落とす子羊の尻尾の肉、また狩ったカンガルーの尻尾の肉も大好物だとか。上橋さんには美味しいとは思えなかったらしい。そんな彼らは、日本人が鮎に串を刺して焼くのは残酷で気持ち悪い、と思うそうだ。なかなか面白い。

シドニーと対角線上にあるような北インド洋に面した北部の港町ブルームは真珠の養殖が盛んで、移住してアボリジニの女性と家庭を持った日本人がドラム缶の風呂を毎日沸かして入ったり、新年には手製の門松を作っていたとか。

当地で久しぶりに和食に触れる悦び、その新鮮さと価値は外に出ないと分からないかもしれない。筑紫の国出身の私は、食べられるものなら、関西でかしわおにぎりを食べたい、なんて読みながら思うが、切実さが違うな、とすぐ本に戻る笑

合間にエアーズロック、茫漠とした砂漠の黄昏時の色の変化、圧倒的な月光などの光景描写が入る。オリオン座が北半球と逆さまに見えるオーストラリアの満点の星空って、憧れるな。

なぜ母親さんと毎年海外旅行へ行っていたのか、その理由は「単純に楽しいから」だそうだ。こちら側から見れば、母娘よく似て好奇心旺盛で無鉄砲。でも多分、興味の方向が合うんだろうなと思う。

イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、ブリテン島の4カントリーの旅、アーサー王の墓があるとされるグラストンベリー修道院、ゴッホ終焉の地、オーヴェル・シュル・オワーズの麦畑、イランでの好奇心あらわな少女たちとの交流、また古都イスファハンの美しさの中に2人。

イランはかつてサッカージャーナリストさんがワールドカップアジア予選で訪れた際、脚を延ばした旅日記を読んで以来興味を持っている。イラン英語大好きだし、ペルシャは歴史的にも惹かれる部分もある。

私の友人の女性も色々なところに母親さんを連れて行く。私も同席したことがある。闊達で積極的、興味の範囲が広そうな方だった。今回のエッセイを通じて、どこか理解が進んだ気がしている。うん、こういう親子関係、いいな、と。

ローズマリー・サトクリフ「闇の女王にささげる歌」を読んだばかりで、序盤にサトクリフへの言及があった。なるほどと思いつつ、なんかまた、この流れに導きを感じたりする。

上橋さんのエッセイは、興味深く、かわいらしく、単純におもしろく、考えさせる。穏やかで、だからなのか深みを感じさせる。この人、やっぱり超人だ。

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