宇治十帖のヒロイン・浮舟が死体で発見された。紫式部と清少納言が推理で競う。国文学者の源氏物語ミステリー。
昭和25年の作品と読んだ後で知って少し合点がいった気がする。まずワールドの構築、原点の設定を利用した、矛盾する「謎」の提示、捜査の不自由さなどふむ、と思いながら読み進めた。また冗長さも「紫式部日記」によく出ている、才気はあるが煮え切らない性格を表しているような。
薫大将の妻・浮舟の死体が宇治川の橋の近くで見つかった。水は飲んでおらず、額は鋭い刃物で割りつけられたような深い傷跡があった。この運命は自分のせいではないかと苦悩する薫大将は紫式部に胸の内を訴える。そして、匂の宮の妻・中君の変死体が全く同じ状況で発見される。自殺か、他殺か、犯人は薫大将では、と世間が噂するー。
薫は表向き光源氏とその妻の1人女三の宮の子とされているが、実は光の盟友・頭中将の長男柏木が女三の宮との間に設けた子で、何もつけていないのにえもいわれぬ香りを持つ美男子で性格はカタめ。匂の宮は源氏物語本編で天皇の息子のプレイボーイ。この2人は宇治で浮舟という皇統の娘を巡り恋の鞘当てを繰り広げ、思い悩んだ浮舟は宇治川に身を投げたが助けられ、人知れず暮らすー。ここで原典は終わっている。この推理小説は出家していた浮舟を還俗させ、薫が妻にしたという設定からスタートしている。
世界観は、物語中の登場人物である薫と匂の宮、浮舟らがいる世界に作者たる紫式部がいる、という不思議な設定でスタートする。式部さんは源氏物語の執筆者としてすっかり有名人で薫からも匂の宮からも胸中を吐露される。心根は薫びいきである。
行くところどころに香りを残す薫、そして香を調合して、薫に対抗して焚きしめており、嗅覚が異常に発達した恋のライバル匂の宮。互いの妻が変死体となり、さらなる悲劇も起きる。そして紫式部のライバル・清少納言がまた薫が間接的に犯人なのではないかという論を展開する。式部は薫を信じたい。そして清少納言にも負けたくない。やがてエウレカ!の時が訪れる。
まず、紫式部探偵が謎を解く、というけれども、式部さんは表立って自分が動くような捜査などできないんだな、とつくづく実感。いまの推理ものとのギャップにはその点が大いに関係していて、新鮮だ。だから、謎解きが楽しみになる。
しかしながら、個人的にオチは、もうひとつ。確かに意表は突かれた。でもなぁ〜。いくつも突っ込みどころがあるなと。昭和25年の作品にして現代でも新鮮。
作者さんは国文学者で、その学術的によく理解されているのだろう筆致に渋みを感じさせる。やたら紫式部の考えがややこしく情緒的であるのは紫式部日記、で煮え切らない態度をとる本人をパロっているのだろうか。そして清少納言から厳しい条件を突きつけられる。切羽詰まり、真相にふと気づくー。
他収録の短編も収録されているが、清少納言のパロディや原典の六条の御息所の謎、などなかなか王朝文学マニアックだ。まあなんか、謎におもしろい。
願わくばやはり皆が待っているオチを採用して欲しかったかな。どうも論理も足りない気がするし。まあ、いいか。源氏物語になぞらえてよくここまで書いてくれました。
秋に京都へ行った時、香の店で商品をぶらぶらと見回っていたら、宇治十帖ゆかりの香があったけども「匂の宮」という商品しかなかったので、つい、「薫はないんですか?」と訊くと「あります」とのお返事。その場はやっぱりあるんですね、そうですよね、で終わったけども、店を出てすぐ、店員さんが追いかけてきて、いま薫の香出しましたんでぜひ体験していってください、とのこと。これが薫の香りの創造か、とちょっと感慨深かった。京都での出来事でした。ややこい客?ご対応ホンマに感謝です。
m(*_ _)m
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