「闇の女王にささげる歌」
イギリスでは知らぬ者のない、ケルト伝説の女王・ブーディカ。紀元60年、帝国ローマに対し大反乱を巻き起こしたー。
どこかで書評を目にして、内容もあまり知らずに、読みたいと思っていた。女性の歴史小説家として名を馳せるローズマリー・サトクリフの作品に触れて、また読書の世界が広がったようで嬉しくもある。
紀元前後から数百年間、ローマ帝国はグレートブリテン島を支配していた。島には地域ごとの部族がそれぞれの領土を保持していた。東部、ケルト地域の馬の民であるイケニ族は、王女の夫に選ばれたものが王となるしきたりだった。
王の娘、金髪に紺碧の目のブーディカは友好部族パリシの勇士・プラスタグスを夫に迎える。赤い羽根を兜につけたローマ人たちの侵攻が近隣に及び、ブリテン島の諸部族は戦うことなく従う道を選んだ。やがてプラスタグスが亡くなると、女王を認めないローマはイケニを直轄の属州にする。兵を連れた無礼な使者団の1人がブーディカの娘の姫に手をかけた時、幼なじみの男が相手の喉を掻き切り、それを合図にローマ人たちは暴虐の限りを尽くした。
ブーディカと馬の民に、復讐の炎が燃える。
遥か遠いブリテン島やアイルランドにはほのかな憧れがある。「マクベス」のスコットランド、神秘的な響きのケルト、アイルランド映画も多く観た。行ったことはないが、だからよけいに想像が働く。
時代も古く、決して世界史の表舞台には出てこない戦い。日本でも古代が好きな身には魅力的だ。ちょっとジブリっぽくもある。王女に婿して王となる、一族は女系で支える、女家長制は鉄器時代にしばしば見られるとか。
物語は女王付きの竪琴弾き、歴史を歌にして歌う男、カドワンの回想モノローグで哀しげに進む。凛として勇壮、どこか人ならぬものが憑いたようなブーディカは反乱軍の長として、周囲の引き止めを入れず、常に馬が引く戦車に乗って突撃する。
イケニ族の風習やその周囲の部族たちの状況、ロンドンはロンディニウム、などどこか北海道のアイヌ語源地名を思わせるような地名もおもしろい。
古来より戦は残酷だが、ローマ兵も、復讐に燃えるブーディカも残虐で無慈悲な面がある。負けたらとにかく終わり、槍を投げ、剣で突撃する白兵戦、戦士は血に飢えている。
ブーディカの人間性もほの見える前半の描写と、迫力と魔性を漂わせ、底深い恨みの心を胸に強く抱き、最後の砦としてバラバラの部族をまとめあげるカリスマ性に惹き込まれる。そして無駄がなく、よく分かる最後の決戦シーンには止めようのない、不可逆的な奔流を感じ、やがて喪失感に打ちのめされる。ぽっかりと空いたような、絶望的な未来。
テムズ河畔には戦車に乗ったブーディカの大きな像があるそうだ。世界的にはあまり知られてないがかの国内では知らない者のいない古代の気高き女王。圧倒された。
サトクリフには有名な児童文学の古典的存在「第九軍団のワシ」「銀の枝」「ともしびをかかげて」というのがあるとか。古代らしいし、こりゃいつか読まなくちゃ。
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