◼️ 桜庭一樹「青年のための読書クラブ」
ある意味これが桜庭一樹だなあと思う。乙女の学園の美醜、ヅカ的物語。
桜庭一樹は気付けばそこそこ読んでいる。発表順に書くと「荒野」「赤×ピンク」「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「少女には向かない職業」「少女七竈と七人の可愛そうな大人」「赤朽葉家の伝説」「私の男」「伏 贋作・里見八犬伝」読んでる読んでる。
直木賞の「私の男」は背徳的でシュール、卓越した作品、しかしそれまでのテイストとは一線を画している。今作は「赤朽葉家」と「私の男」の間に書かれたもので、前者の、桜庭一樹本来のコミカルさ、妖しさ、極端さ、エロさが引き続きよく出ている。
1919年に設立された聖マリアナ学園。幼稚舎から高等部までが同じ敷地内にあり、良家の子女が集まる花園。高等部では政治を動かす生徒会は黒煉瓦造りの旧校舎「西の官邸」にあり、華のある生徒のみが集まる演劇部は「東の宮殿」と呼ばれていた。新校舎には「北のインテリヤクザ」新聞部がいて、本作の主役となる読書クラブは崩れかけた赤煉瓦ビルに部室があり「南のへんなやつ等」と蔑まれていた。
学園の女子たちは気位が高く、男には嫌悪感を持ち、しかし捌け口として毎年「王子」が選ばれ、学内のスターとなるのだった。
戦中から現代、時代ごとの短編が連作の形で収録される。5つのコミカルでコケティッシュなコント集。
1969年、自らの醜さのため生徒会への入会が叶わなかった妹尾アザミは、背が高く気弱な美少女の転入生・烏丸紅子を王子に仕立てるべく、夜の街に出して不良性を身につけさせ、「シラノ・ド・ベルジュラック」のフランス言語版を持たせ、態度や言葉遣いなどすべてを教え込む。妹尾は新聞部の協力を得るため、いわゆる「S」の部長に豊満な後輩を差し出すなど次々と手を打っていく。紅子の人気は沸騰するー。(烏丸紅子恋愛事件)
冒頭作の時代は1969年、神田カルチェラタン闘争の末東大安田講堂が陥落し世は騒然としていた。世情の表し方、それぞれの時代感を作品に反映させるのが上手いと思う。
次は戦争の時代のパリに遡り学園の由来が語られ、バブル期の学園に飛ぶ、さらにバブル崩壊後しばらくの2009年、ラストは2019年。
それぞれの短編は世界の名作を下敷きにして演出されている。「シラノ」そして「マクベス」ホーソーン「緋文字」オルツィの「紅はこべ」といった文学的趣向が大変GOOD。
きれいは穢ない、穢ないはきれい。
さあ、飛んで行こう、霧のなか、汚れた空をかいくぐり。(マクベス)
さらに独自の掟を持つ女子校の閉鎖された世界の蠱惑的な魅力、なんでもできちゃうマンガ的に極端な虚構性、大河ドラマ的に大仰、それがおもろかしさを醸し出す文調を併せ持つ。
この伸び伸びした桜庭一樹らしさにほくそ笑みながら読み進める。
相変わらず名前もヘンでそれがまた小憎らしい。「赤朽葉家」には製鉄天使という暴走族が出てきて後にスピンオフ作品もものされているが、こちらでも、理科室を根城とするバンド名が「人体模型の夜」。これも、らしい、お楽しみ。人名も五月雨、とか十五夜、とかまあ飛ばしていて宝塚風味をさらに煽って跳び越えちゃってるような。
疾走、いや暴走するハチャメチャなおふざけ感、もっとやって欲しい。楽しい読書でした。
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