2023年11月24日金曜日

10月書評の6

東京出張。東京庭園美術館に行って大樹のプロジェクションマッピングを楽しむ。旧朝香宮邸はモダンな照明がたくさんあって目を惹かれた。



◼️ 平岡陽明「素数とバレーボール」


最後の大会、バレー部員が足りず急遽加わったメータージャンパーにして素数を愛するガンプくん。23年後、部員に謎のメールが届く。


母が好きで、幼少の頃からバレーボールは代表戦、実業団とよく一緒に観ていた。いま息子が大学体育会系バレーボール部で帰ってきたらきょうはディグいいの1本上げたとか、毎日バレーの話。高校バレーはインターハイに春高と情報を追いかけ、当人は中学生の大会まで動画を観ている。もちろん「ハイキュー‼︎」はマンガアニメとも完読完視聴。先月はVリーグの堺ブレイザーズvs名古屋ウルフドッグスを観に行ってきた。


バレーボールの小説なんかないかと探したところ、これが引っ掛かかった。たぶんバレーボールの描写は少ないだろう。まあ読んでみようと。それにしても、おもしろいタイトルだ。平岡陽明は「ライオンズ、1958。」を読んだことがある。


県立岸高校のバレー部員たちは、最後の大会を前に員数合わせのため、垂直跳びで1mを記録したという里中灯を勧誘する。3カ月だけの、灯、通称ガンプ君とのブカツ。23年後、気象予報会社に勤める気弱な慎介、カリスマ的な女性編集長のもとで働くフリーの編集者の新田、生保会社でエリート道から外れ左遷された元キャプテン、陽一郎、旅行社の添乗員で世間を斜に見ながら調子を合わせているタクローはそれぞれ41歳の誕生日に、ガンプ君から妙なメールを受け取る。


5万年後に岸高バレー部を再結成することになったら入部してほしいこと、プロの麻雀士になり現在音信不通のチームメイト、みつるを探してほしい、その条件が満たされたら1人あたり28000万円を贈与するー。


数学や天文学に卓越した才能を持つガンプくんはアメリカに渡って成功し億万長者になっていた。それぞれ仕事やプライベートに葛藤を抱えた4人はいぶかしみながらも久しぶりに集まり調査を始める。


視点は次々と変わり、それぞれの問題が語られていく。パワハラ上司、休職した同僚、仕事のやりがいに向き合う慎介、新田は慕っていた女性編集長が深刻な病に倒れて編集長になってしまい、優秀だが生意気な若い部下を持て余す。同期一番出世だった陽一郎は不倫相手の部下に騒がれ、妻子とも大きな溝が出来る。タクローは愛のない家庭と仕事上の心無いお世辞や付き合いに虚しいものを感じていた。


素数に魅力を感じるガンプ君、愛読書は天文年鑑。バレーボーラーには憧れのメータージャンパーでありながら、ボールを捉える能力はさっぱり。しかしどもりがちで友人のいない自分を受け入れてくれた仲間への愛は深い。


タイトルもさることながら、ガツンと最初にわけわかんない謎を持ってくるのはGOOD。冴えない中年の生活を送っている部員たちに、普通の県立校の部活にあった淡い、おもはゆい日々が蘇る。


それぞれの生活も、もちろんドラマ上なんだけれどリアルだな、と。社会はいまやセクハラパワハラに敏感だし、病んで休む人も多い。社会は進んでいるように見えるけれども、会社人はそう簡単に進化せずモーレツだった前時代を引きずっていたりする。新田の中間管理職的な立ち位置も、タクローの、仕事に対して割り切って構える対処もなんか分かるな、と思わせる。突然の病魔のことも、この年になると身近にもあるものだ。


ラストの方はそれこそ非現実的な展開で、手塚治虫的でもある物語感がだいぶ盛り込まれている。やや冗長な風味もある。


私はバレー部ではなくバスケット部だった。同窓会をきっかけに現在は男女隔てなく仲良く、一緒にバスケの大会を観に行ったり情報交換したりしている。だから、年月を経てそれぞれの社会人として、またプライベートな来し方も分かって付き合うことをまさに実感している。自分を見つめる、ということも。


だいぶ盛り盛りなエンタメ、しかし地道なエピソードの積み上げ。我が身に照らしながら静かに読み終えた本でした。








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