土日は午前だけ出て病院や図書館、本屋。あとはのんびり。イケフェスや京都モダン建築祭で歩いたこと、また内田光子で刺激が強かったこと、ほかもろもろが少し身体へのダメージとなって出ていて、やや根が深そうな気もする。お休みおやすみ。
阪急はちいかわのデザイン。土曜からいきなり寒くなりライトダウン。まあそういう季節だね。体調に気をつけよう。
◼️ 朝井まかて「グッドバイ」
幕末・明治、長崎の女傑商人、大浦慶。著者得意のフィールドかな^_^
朝井まかて。直木賞作の「恋歌」はいまだ白眉の小説として人に薦めることがある。後輩女子にも貸したところ、彼女が朝井まかての本を買うようになって当時よく貸してもらった。
「ちゃんちゃら」「すかたん」「ぬけまいる」「恋歌」「阿蘭陀西鶴」「眩(くらら)」「残り者」・・最近はすごく多作なイメージがあり、なかなか追いきれていない。
今作は幕末から明治初期に活躍した長崎の商人・大浦慶が主人公。「恋歌」で樋口一葉の師の歌人中島歌子を、「眩」で葛飾北斎の娘・応為を描いたように、歴史の大きな波の間に垣間見える女性を題材とした時、独特の活性、活き活きとした筆致が見えるのは気のせいだろうか。
幕末ものの大河ドラマでちらりと登場したのを観た記憶がある。大浦慶は日本茶貿易の先駆者で、九州産の茶をアメリカに輸出し幕末に財を成し、グラバーら欧米の商人や志士たちと交友し、志士たちの活動資金も融通してやっていた。
小説で目立つのは、等身大の筆致だ。弱冠19才で油商の跡目を継いだ慶は、寄合でも番頭にも軽んじられる。しかしわずかなチャンスをつかみ茶葉商売へと乗り出す。わずか7日間で大量の茶葉を揃えねばならならず大苦戦。その後の人生も七転八倒。商才も貫禄もあるが失敗も多く、騙されて大きな借金を背負い家財を売り払って支払いに汲々とする。そうそう威張るわけでもない、変人でもない、ちょっと好奇心旺盛な、どこか信じたくなる人柄といった描写に徹している。最初の成功以外は劇中で大望を果たすわけでもない。色恋とも無縁だ。
「眩」では、家事をしない妻へ向けた夫の小言に対して言い放った応為のセリフ、
「妾(わらわ)は筆一枝あらば衣食を得ること難からず何ぞ区々たる家計を事とせんや」
つまり私は筆1本で食っていけるのさ、ちまちまと家事なんかしないよ。
このシーンにはスカッとさせるものがあった。しかし「グッドバイ」では、ところどころ啖呵っぽい言葉はあるものの、大立ち回りのシーンはなかったのではと思う。こなれた筆で、才に恵まれた超人ではない、人間らしい身近な姿を描く。そこに朝井まかての進化した深さを見る、というのはうがちすぎだろうか。
難点としては、色付けの知識が少々いき過ぎているなという気がしないでもない。また多くの幕末ものが陥りがちな総花的な面も否めないかなと。
朝井まかての小説を読む時は、最初、「恋歌」を読んだ時に感じたような、透き通った浅い緑の光線をイメージする。読書友の先輩は「眩」に惹かれ、応為の「吉原格子先之図」を観たがっていた。
どこかに読み手の心を盗む不思議な力のある朝井まかて。今回大浦慶の姿がダブった。
0 件のコメント:
コメントを投稿