◼️森博嗣「喜嶋先生の静かな世界」
理系学生と理系助手の数年間。大学、大学院修士課程、博士課程、学会。ふむふむ。
著者は工学博士。名作「すべてがFになる」は当時ガチガチの理系ミステリー小説が少なかったこともあってか、リーダビリティがあり、謎そのものも、解決に向かう過程もおもしろかった。
今回の小説はまだPCなどカケラもない時代の話で、自伝的小説だろうとのこと。
理系大学生の橋場は卒論を書くにあたり、最も不人気な講座だったある力学の研究室を選ぶ。担当の助教授はいたが、その講座は実質的に万年助手の喜嶋先生の研究室であり、彼の指導で橋場は研究に目覚め、修士課程、博士課程と学究の道を歩んでいくー。
多くはあの頃の理系学生はどのような活動、研究生活をしていたか、といったものだ。研究室に入ることとは、学生、研究者、教官の実態とは、学会とは、などなどが羅列されている。院に進まず就職する者、修士課程を終えて社会に出ていく者の姿も挟まれ、薄くだが恋愛模様も出てくる。
主人公は基本的に研究に最も興味があり、大学生らしい遊びはほとんどなく、サラッとした性格の男子。才能を鼻にかけることもなく、ぼく、という一人称がよく似合う、俗世間と一線を画している、あくまで、サラッと。
喜嶋先生はまったくの学究の徒であり、自由に研究をするために、学内の雑事や教育をしなくて済む助手に自ら留まり、周囲もその実績から一目置いている。言うなればキャクターとともに、主人公とはウマが合った、ということか。様々な意味で。
いくつかクスっとする部分はある。それなりのエピソードもある。理系学生、研究者の説明と行く末は読んでそれなりにおもしろいものではあった。また最後にショックがあり、ちょっとグッと来た。
しかし私は主人公がここまで喜嶋先生に入れ込む強い理由がもうひとつつかめなかったかな。サラッと、のまま最後まで行ってしまったかな、という感想でした。
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