今年の干支、兎のような国立国際美術館のデザインは、あべのハルカスも手がけたシーザー・ペリ。竹の力強さを表しているとか。
かつて関西にあった芸術集団の作品群らしく、説明を寄せ付けない絵画造形とかいう話で、私は詳細を解説する言葉を持たない。具体と言いながら抽象に見える作品たちは、全くわけが分からないというものは意外にもなかった。色ペンの線だけで創作する人、記号にこだわる人、絵の具を垂らしたりこぼしたりして描く人などさまざま。絵本「もこ、もこもこ」の絵を描いた画家さんの作品も出品されてました。
◼️ 宇佐見りん「推し、燃ゆ」
ふむふむ。興味深いモチーフ、みずみずしい筆力。
芥川賞。帯によれば2021年最も売れた本だそうだ。私の読書の師匠も買ったと言ってたな・・と思い出した。息子が買って読まないまま。んじゃちょうだい、と手にした。
いきなり事件から始まる。「推しが燃えた。」
主人公の女子高校生、あかりの推し、であるアイドルがファンの女性を殴ったとの報道があり、本人も認めた。
SNSは炎上、好感度も落ちる。しかしあかりは変わらず推し活動を続ける。あらゆる情報に目を通し、しゃべったことはすべてルーズリーフに書き起こし、すでにファイルが20冊に達している。DVDや写真集は常に保存用、観賞用、貸し出し用の3つ買う、人気投票の権利を得るためCDを50枚購入する、などなど。ちなみに推し情報を書き込むブログも人気だ。
対象の真幸というアイドルは男女で構成されるグループに所属、イメージカラーは青、で少年のような可愛さと、心中の葛藤をうかがわせる言動、抑制しているのがわかるような態度を見せる。あかりは、幼少の頃、舞台のピーターパンを観に行き主演の真幸が心に残り、高校に入った頃再認識して、推し活を始めた。
のっけから事件、そしてもちろん事態は動く。あかりの私生活も変わっていく。
テレビで推し活、とはどんなことをしているのかを観たことがある、入れ込み方が半端なく、消費が多い。はたから見たらそこまで?と思うのが推し、だ。もはや推し活するヒト、という固有の生物のような捉えられ方がなされている。まあそうだよね。昔からある追っかけ、という言葉よりなんか前衛的かつ急進的。
世の中には好きなことにのめり込んでいる人、ちょっと好きすぎやろ、と周りが思うくらい、も結構いるだろう。多くの人はまた、没頭する趣味を持っていて、社会生活とバランスを取りながら取り組んでいるだろう。その限り好きなことを思い切りやっているのだからほっといてほしい、という心持ちもあると思う。推し活は、自分のメリット、という点では、借金のほうが多いかも知れず、新しく異質な感も漂う。10代と若いあかりにの有り様に、羨望という見方もあるのだろうか。
推し活とはなにか、をまず描く。主人公あかりも参加しているSNS、家族、バイト先の店の騒々しさ、喧騒が際立つ。もちろんあかりも積極的に動く。しかしあかりが求める静かな境地が醸し出されている気がする。
推し活が最優先で、やがて学校にも家族にも見放され、荒れた独り暮らしをする。ここに来て昭和の香りが漂ってきたな、と思う。
日常よくある細かなことを印象的に、時に思い切って表現して、織り交ぜている。それもまたあかりを取り巻く喧騒のひとつ。
率直に感じたのは、朝井リョウはじめ先行の作家さんに似たテイストかな、ということ。また、近年アメリカを中心に人気が高まっているという「コンビニ人間」ほかのように社会に適合しない、ちょっと怪しい人ものでもあるかな。
物語の成り行きとしてはその道だな、とどこか合理性も併せ持つ。全体としては、やはりみずみずしさが魅力と言っていいかと思う。
次に著者の本を読んだ時、どんな印象を受けるのか、ちょっと楽しみだ。
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