2021年12月8日水曜日

11月書評の7

11月は14作品。もう12月。年間大賞の準備をしなければ。

帰り道、木星と土星と金星が一直線に。壮大な冬星夜。気分がいい。

この週地震があり、会社でいきなりの縦揺れにびっくり。免震構造高層階でしばらくゆらゆら揺れていた。

あー、ちょっとストレスたまってるかな。レオンとクッキーどっちも胃捻転で苦しむ。犬も年老いると大変だ。


◼️ 原田マハ「サロメ」

夭折の挿絵画家オードリー・ビアズリーとオスカー・ワイルドの「サロメ」。この題材は意外で、興味深い。

昨年オスカー・ワイルドの「サロメ」を読み、今夏「怖い絵」展でビアズリーの挿絵を見て来た。今回本友がこの本を持って来た。薄い縁があるかのようだ。


言うまでもなく原田マハは絵画を題材に数々の有名作をものしている。モチーフがピカソや印象派ばかりではないのは知っているけども、今回はなかなか意外で、いいとこ衝くな、なんて思ってしまった。


世紀末のロンドン。天性の才能を持つオードリーは少しずつ認められ、モノトーンの細い線で題材と装飾に凝った悪魔的な絵で少しずつ認められ、やがて時代の寵児オスカー・ワイルドの目に止まる。

弟思いの売れない女優、メイベルは役をつかむためなら有力者と寝ることも厭わない。弟オードリーに関心を向けるワイルドを利用するつもりだったメイベルは、やがて近づいた者を破滅させかねない怪物ワイルドに弟オードリーが傾倒することを危惧するようになる。

背徳の「サロメ」はワイルドが書き、挿絵をオードリーが描くことになったー。

オスカー・ワイルドの作品といえば、「サロメ」と未読の「ドリアン・グレイの肖像」くらいしか知らない。しかしシャーロック・ホームズと同時代人のワイルドはパロディやパスティーシュによく登場する。その扱い方にはかなり前面に押し出すような感覚があり、当時の、母国でのエキセントリックな存在感が窺えて、正直違和感さえ覚えていた。

この作品は全編が姉メイベル目線で語られている。弟想いの誠実な心持ちとしたたかでかつ野心的な性格の二面性。


大胆な時もあるけれど、細い糸にすがるかのような淑女性は読者を惹きつける。現実の肌触りを醸し出す。そしてメイベルが奇怪で、妖しく、エロくなっていくのが読みどころでもある。

題材としてのワイルドとビアズリーと「サロメ」。ビアズリーの絵は線の細い白黒の絵、花、羽根、幾何学の繊細な模様から描かれるものの身体の線、顔に表れる、えぐるような表情。背徳的な風情を掻き立て、デモーニッシュな魅力を放つ。

その時代の寵児2人の邂逅と、ワイルドが男色の法律違反で逮捕され、その余波で仕事を失ったビアズリーのエピソード。時代の喧騒が聴こえて来そうな題材を選び脚色したことには、やられた感がある。

おもしろかった。作中にも登場しているサラ・ベルナールとミュシャの物語を次は読みたいな、なんて思ったりした。

余談だけども、ビアズリーの絵を見ようと検索してて、魔夜峰央がビアズリーに影響を受けたとwebで読んで深く納得した。「怖い絵」展でビアズリーグッズが完売してたのは解説を読んで初めて知りほおお〜と思った。


◼️ 豊島ミホ「花が咲く頃いた君と」

花のグリーンエイジもの、豊島ミホはやっぱりいいなと。ひまわり、秋桜、椿、桜。

中高生の淡く切ない、恥ずかしいくらいの物語はけっこう好きで恩田陸から湊かなえ、朝井リョウ、辻村深月、島本理生、初期の柚木麻子など興味深かった。

長めのスパンで言う最近の好みは豊島ミホ。「檸檬のころ」「リテイク・シックスティーン」「エバーグリーン」なんかはとても良い。著者が秋田出身で舞台を東北の、電車が1時間に1本くらいの町にしてたりするのも逆にうまくいかない青春の陰影を助長しているような気がして懐かしさを刺激する。

単行本刊行時「今年最高の小説」恋愛部門で2位となったそうだ。でもこのランキング?1位を調べようとしてもパッとは出てこなかったりして笑。

さて、60ページほどの作品が4つ。
「サマバケ96」
「コスモスと逃亡者」
「椿の葉に雪の積もる音がする」
「僕と桜と五つの春」

夏、秋、冬、春という順番で季節が巡り、ヒマワリ、コスモス、椿、桜と季節を代表する花が印象的に織り込まれている・・実はヒマワリはあまり記憶に残らなかった。

「サマバケ」は女子の友情と成長、よくありそうな、でも理解できて生感が新鮮なストーリー。「コスモス」はちょっと変わった19才の女の子が主人公で、R-18文学賞出身の著者らしい?エロがちょい入ったもの。

後半の2つは感動へのテンプテーション。だいたい先が分かる気がするけれど、自然で、表現がさらっと卓越したところがあって、さりげなく美しさを感じるのがやはりいい。

「椿」親や祖父母の布団の温かさ。冬の寒さ、微妙な3世代の雰囲気。凛とした椿、病室、和室の空気。すべてが主張しすぎず並び立っている。柔らかで緊張した筆致がラストで結実。

「桜」は、なによりきれいで孤立した、小さな桜の木。いじめられっ子の冴えない男の子と美しく気が強い女の子。いじめていた女の子がいじめられるようになり、それぞれの道を辿り、時が過ぎ、成長して、再会し、終わって始まる予感。型通りのコースを進むし、幕切れもそこまで劇的ではないけども、ありがちだけども、道が分かれる、新しい道へ踏み出すところがじわっとする。

言葉数が多くなって、ちょっとかぶれたようになってまうな・・未読のものを読みたくなる。ちょっとしたごひいき作家やね。

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