東京で食べたランチの鯛めし定食が美味かった。下記「ブルックナー団」はひさびさのスマッシュヒット。ラノベはやっぱ好きだね。
◼️ 高原英理「不機嫌な姫とブルックナー団」
やばい面白かった。ブルオタ=ブルックナーオタクたちと作曲家本人。くすくす笑える佳作。
私はクラシック好きだけども初級編から先に進めない感覚を持っている。チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ベートーヴェン、モーツァルトの有名交響曲とコンチェルト、ショパンのピアノ曲。あまり単体の楽器演奏は聴かないし、室内楽にも不案内。東京にいた時に「分かりやすい曲ばっかり聴いて」とクラシック好きたちにマーラーは習ったがめっちゃ立派そう、長くて難解そうなブルックナー、聴いたことないとは言わないけどさっぱり手をつけてない。
実はブラームス1番も苦手だったりする。本格派苦手。岩城宏之氏はクラシック指揮者界にはブルックナーわかって振れて1人前、のような雰囲気があると書いていたと思う。
だからブルックナー好きの立場が弱い?ような設定には少々驚いたりした。でも図書館で目が合ってしまったブルックナー題材のライトノベル。苦手に親愛の情が湧くかな果たしてとっつきやすそうだしと楽しみに読んだ。
図書館非正規職員、32歳の代々木ゆたきはブルックナー5番のコンサートの後、「ブルックナー団」を名乗るブルックナー好き男3人組と出会う。小説を書くタケ、変な言葉をつかう小太りのユキ、小柄メガネのポン。いかにも非モテなオタクたち。
3人が行きつけというマクドナルドでなんとなく意気投合してしまったゆたきはブルックナー団公式サイトを紹介され、タケが書いているというブルックナー伝(未完)を読み込んでいくー。
まあとにかくウソかほんまかブルオタというのがおり、クラシックファンの中でもとりわけオタク臭い、特有の行動を取るものとして区別されると。曲が終わって数十秒は余韻を楽しみたく、拍手もしてほしくない。ブラヴォーなどと叫ぶのは言語道断で、フライングブラボー、フラブラと呼ばれ軽蔑されるとか。
会話の若くオタクっぽい喋り方行動もリズム良くくすくす笑える。
ブルックナーの性質と音楽活動、その情けなさ、オタク臭さ、バカにされやすい性格などを再現し、時の革命児ワーグナーとの交流、ブルックナーを取り巻くクラシック界の環境をも描きこんでいく。生涯独身、奇行あり、神経質で楽団の演奏拒否や要求に屈して改稿を重ねる姿。ハンスリックという批評家にこき下ろされ、それを極端に恐れる態度。
それはブルオタたちが、どこか自分たちになぞらえている姿でもあったりする。ゆたきもまた本好きで洋書の翻訳を諦めてしまった過去や現在の境遇への鬱屈を募らせる。
驚くことにブルックナーの弟子たちは、マーラーを筆頭に、後々出世した優秀な者たちが多かった。通常2つの主題を3つ入れ込んでみたり、同じフレーズをしつこいくらい繰り返したりと前衛的だったブルックナーは後世の評価を信じたー。ゆたきもまた新しい、小さな決心を固める。
150ページくらいと長い作品ではない。人物の掘り方もやはり深くないと言わざるを得ない。ほんわかといい感じに落ち着いて終わっている。もっと読みたい感じではある。
でもブルックナー聴く気になった。こう言っていいのなら、扱いにくそうなモチーフを、おもろかしくなじませてしまう日本のライトノベルの底力はすばらしいと思う。
小説は寡作な、意外に年配の作家さん。シリーズで続きを書いてくれたりしないかなあ〜。ブルックナーじゃムリかな笑。
非モテのオタクっぽいブルックナーが身に覚えのないセクハラの嫌疑をかけられ怒り狂うセリフがいいので最後に。方言とオタク言葉?
「がああす冗談じゃねえっつぜ。わしぁかっちかちのカトリックでよさぁ、やるわっきゃねえっつだろうよ、そがほどの地獄落ち」
ああ面白い。今夜はともかくブルックナー聴いてみよう。
◼️ 平野啓一郎「ある男」
夫は別人ー。ミステリ部分は宮部みゆきのよう。ドラマの描き様は白石一文のよう。
平野啓一郎といえば最近「マチネの終わりに」が映画にもなった。妻が持ってるがまだ未読。そんな折、本友女子がいやー平野啓一郎もこんなん書くようになったか〜という感じよ、と持ってきてくれた一冊。
東京で幼い次男を亡くしたことから離婚し、宮崎の実家へ帰った里枝。当地で林業に携わる谷口と結婚し幸せな家庭を築くも夫は事故で亡くなった。写真を見た夫の兄は、これは弟じゃない、と断言したー。
離婚の際に依頼を受けていた弁護士の城戸は今回も里枝に相談を受け、この入れ替わりに興味を抱く。自身の人生や家庭不和と重ねながら、城戸は真相に近づいていく。
亡くなった男はなぜ過去の自分を消し、他人の人生を騙ったのか。魅力的な謎があり、最後まで読ませる。
調査中の城戸の思いを膨らませ、世間でヘイトスピーチや対するカウンターデモの動きが広がる社会で在日3世である自身の感じ方、夫婦のすれ違いを語る。蠱惑的な美人や身勝手な男をも出演させて色気や欲望を織り込み、はては死刑廃止論議にまで踏み込む。
先に書いたように、ミステリそのものの仕掛けは宮部みゆきみたいだな、という感覚がある。また社会の動きや歪みを組み込み、男そのものを硬派っぽく描写していくのは白石一文の筆致に似てるかな、という印象だ。
むかあし芥川賞の「月蝕」を買ったけれど、内容は忘れ、難解だな、という気分だけが残っている。今回はそれなりに量のある長編で、カクテルや音楽に粋な情報が入り、また小難しい理屈もあり、いろいろ盛り込んで格好もつけている感じがある。
ちょっと出した情報を回収してないところもあり、醸し出そうとする雰囲気がややこちらとズレがあったりした。熱を持って書いている現代ものをやや醒めた目で見てしまい、自分もトシをとったのかな、なんて思う。
男は、うん身勝手かな。あまり良い男は出てこないし笑、幸せを築いていた、里枝の夫だった男も、どうしようもない人生上の不幸はあれ、不実なのかもしれない。里枝の心情に少し心惹かれる。
没入はできないが、興味を持って読み切れる作品だった。
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