2021年4月17日土曜日

4月書評の4

3で書き漏らしたが、友人と藤田真央のラフマニノフピアノ協奏曲3番を聴きにシンフォニー・ホールに行った。

迫力というよりは音の美しさで勝負するタイプかなと。オケともよくコミュニケーションを取った後が見えた。満足。

さて、まだいまと写真の差がつまらない。緊急事態宣言から1ヶ月で、大阪・兵庫は感染者が激増し、最高は大阪で1200人、兵庫に至っては500人を超え、第3波の倍近くの過去最多。まん延防止法で減るかどうかは適用2週間後の次週で見るが、すでに3度目の緊急事態宣言は避けられないと見られている。

原因は、感染力の強い変異株。ここに先の宣言解除後、気候の良さ、例年より早い桜の開花、歓送迎会、ストレス発散が重なったと思う。

去年の今頃はとにかく会社に行くな、出歩くな、で緊張感がすごかった。いまは落ち着いていられる。その差はあるけれど、1年経ってもむしろ状況は悪化している。コロナが収まったら行こうな、と言うのも、それっていつ?と思ってしまう。今からアフターコロナなんていうの、どっかおかしくないか?って気持ちにもなるね、

まあだいじょぶだけれどね。

◼️ 宮下奈都「つぼみ」

宮下奈都らしさにふれる短編集。

司書さんと中学校に購入する本のことで宮下奈都の話題になり、最近の作品が読みたくなった。一時期児童小説とか柔らか系の本ばかり読んでて、あなた、チョイスが女子系ねえ、と言われてから数年、久々の柔らか系のような気がする。

6つの短編が収録されている。実験的に、主役と登場人物を挙げつつ。

「手を挙げて」・・和歌子は華道教室の先生。姉と彼氏と彼氏の母親。

「あのひとの娘」・・美奈子は推定40代で華道教室の先生。高校生の頃の彼氏の娘・紗英とその友人の千尋、腐れ縁の男友だち・森太。

「まだまだ、」・・高校生の紗英、友人の千尋、中学で野球部だった朝倉くん、2人の姉、母、祖母。

「晴れた日に生まれた子ども」・・福利厚生が充実し女性の勤続年数の長い堅実な会社に勤める性格の晴子と何事も長続きしない弟・晴彦、春子の彼氏、母。

「なつかしい人」・・亡くなった母の実家へ。東京から鄙びた地へ転校した園田と本屋で出会った黒いセーラー服の「中村」さん。野球部の上別府、やさしい祖父祖母、研究職の父。

「ヒロミの旦那のやさおとこ」・・30歳の美波、ずっと仲良しのみよっちゃん、ノシノシ歩きガッチリした体型で数々の武勇伝を持つヒロミ、ヒロミが行方不明だと探しにきた夫、幼い息子。

最初の3篇は、名作「スコーレNo.4」と地続きの物語らしい。さすがに忘れてしまった。多感な女の子の感性と人生の成り行きを、細やかで、かつなかなかダイナミックな文章で組み上げた長編で、撃ちぬ抜かれてしまった感じがした。

この間短編集「よろこびの歌」、またその続編「終わらない歌」も佳作で、いいなと思っていたら「羊と鋼の森」が本屋大賞となりひとつの結実を見て、ただの一読者ながら良かったなあ、とか思ったもの^_^

まあその、私的にはハズレも正直あるんだけど、それなりに読んできた。今作は凡庸な主人公が多く、すごく練っていてテクニカル。でもひさびさにその筆致の、柔らかく細やかな、いい部分に触れた気がしている。

「あのひとの娘」は世慣れてはいるが、高校生のとき付き合った津川を30年近く想い続けている美奈子の教室に津川の娘・紗英がくる。腐れ縁の森太を通じて、逐一情報は入っていた。紗英は天才型で、物怖じしないタイプ。娘を見つつ、意外に、その友達・千尋がポイントとなる。

気遣いができる千尋を美奈子が褒める。千尋の言葉。

「私は取り柄がないから。真面目にやるしかないんです。」
(中略)
「でも、だいじょうぶです。特別な才能がなく生きるっていうのはけっこうむずかしくて、だからこそやりがいがあって、私はわりと気に入ってます。」

まあ華道の先生になるだけでもそれなりに才能開花だとは思うけれど、このセリフは、平凡な人、を主人公にしているその短編集を強く特徴づけているのかも知れない。

直後に戻ってきた紗英がたんぽぽのような笑顔で「先生の花、大好きです。」

よくそんなことが言えるもの、と美奈子は思うが、いやいや千尋のセリフもあんまし言わないな、と。ただ、この対比は実に上手い。さらに高校生の光を描きながら、美奈子たちの物語にして、締めも小粋でニクいくらいGOOD。

短編なのにちょっとネタバレしすぎかな^_^

集中で最も、いわゆる面白いのがラスト、「ヒロミの旦那のやさおとこ」

遅刻でつかまった時、風紀委員全員に頭突きをかまして逃走した、などの伝説を持つヒロミは20歳の時に家を出て、音沙汰なしだった。しかし・・。

ヒロミの旦那のやさおとこは女性の気を惹くフェロモンを出していて、すでに子持ちのみよっちゃんも美波もすぐに意識する。ヒロミは見つかるのか、出てこないのか、出てこないパターンの話は最近多かったりするのでやめてよ、などと思っていたら、ちゃんと10年ぶりの邂逅を果たす。

こちらも出している要素の噛み合いが実に良い。よくも捻出できるものだというエピソードも入っている。

もはや手練れの感覚。さほど大きな波があるわけではないが、清冽だったり、ダルッと停滞してたり、ホロッとさせたり。シーンをつなぐパッセージはちょっとトガッてほのかに光っていたりする。

まずまず満足でした。

◼️ 坂口安吾「風と光と二十の私と」

青空文庫続きで。興味出てきた、坂口安吾。

webで行きあたった青空文庫で読める佳作特集を参考に、有島武郎「一房の葡萄」を読みました。同じ特集にあった作品を続けて。

本当は他のものを読もうかと思ってましたが、書評欄の"読んでいてこんなに愉しい作品は久々でした。本当に明るく希望に満ちた作品です"という口コミを見て、変更しました。書評って大事ですね〜。

坂口安吾はミステリの「不連続殺人事件」くらいしか読んでませんでした。どうも無頼派の代表っぽくてなんかイメージ悪く(笑)、世間の評価を尻目に敬遠してました。読了して、短編もっと読んでみよう、という気になっています。

ほぼ自伝のような形で、小学校の代用教委として過ごした経験を描いています。生徒には荒っぽく字は書けないけれど力仕事に長けた、愛嬌のある牛乳屋の息子、姉と実の父との関係を噂されている独りぼっちで過ごす女の子、色っぽいが嫉妬や意地悪心のない石津、再婚した母の連れ子で、身体ががっしりして運動能力はあるが無口で笑わない山田。

山田の母は主人公のもとに相談に来る。姉弟のうちこの子だけが父が違うが、別に差別はしてないんだからもう少し現在の父になつくように娘に諭して欲しい、と。

それに対して主人公の答えは明瞭。「あなたの胸にきいてごらんなさい」他にも言葉はあります。青春教師ものドラマを地で行ってますが、これが若さを表すかのようにハマってます。

また金持ちの地主の息子、萩原は主人公に甘えたいがために、先生に叱られた、とウソをつく。主人公は萩原の性格や目的がよく分かっていたから直に話してすぐ解決する。

「坊っちゃん」のように主人公を取り巻く騒動もあり、定番的な先生方の描写も面白く、ちゃんとマドンナも登場します。

その中、妙に老成した主人公は風景と戯れ、なんの欲もなく過ごし、周囲の事象について思索を深めているかのよう。石津には思い入れがあるようで、結婚してもいい、なぞとのたまってます。

安吾も使っている言葉を用いていうと、作風は思いの外、カンジダ(キャンデイード 無垢という意味)っぽい。もう少し読みたくなりました。

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