だいぶ長い間さぼってしまった。
3月、法事で福岡に帰った。博多駅から在来線に乗る時、鹿児島本線の待ちは25分。西鉄二日市から太宰府線の待ち時間も30分近く。福岡は電車少ない、都会なのに、と思う。
金曜日の太宰府天満宮は人出が少ない。梅ヶ枝餅は参道の店で梅昆布茶。やっぱいいね。最高。
◼️ 春江一也「ウィーンの冬」上下
外交官・堀江亮介シリーズ完結編。壮大特盛り。一気読み必定。
何年前のことか、さる社会的地位のある女性の方とお仕事した時にふと本の話題になり、春江一也のデビュー作「プラハの春」が面白かった、と聞いてすぐ読んだ。その後しばらくして続編でベルリンの壁崩壊を描いた「ベルリンの秋」を通読、ようやく本作で完結した。
チェコスロバキア、西ドイツ、ジンバブエなどの在外公館に勤務し、東欧の専門家と目されていた堀江亮介は外務省を退職して外郭団体へ出向するよう斡旋され受け入れる。裏があることを匂わされていた堀江のもとに、ウィーン行きの片道チケットが届いた。
国際的にマークされている武器商人のロシア人と日本のカルト宗教幹部が連れ立ってフランクフルト国際空港に現れ、ウィーンにはその宗教団体の支部が設置されて急速に信者を増やし、北朝鮮の工作員や日本人の出入りが確認されていた。ウィーンで諜報捜査班に組み入れられた亮介は特別の身分と武器を与えられ、情報収集にあたる。時折しも湾岸戦争が勃発しようとしていたー。
ドイツとオーストリアの防諜機関にCIA、イギリス情報部も登場、湾岸戦争、ビンラディンに北朝鮮、オウム真理教に擬した宗教が複雑に絡み合い、核爆弾争奪戦を繰り広げる壮大な物語である。大盛りだ。
著者はプラハの春と呼ばれる民主化運動で日本にソ連軍侵攻の第一報を打電した外交官だった。
その小説の特徴は外交官の経験からしか知り得ず説得力と臨場感あふれる描写である。今回も外務省の体質を含めてふんだんに取り入れられている。日本の防諜、警備の甘さへの痛烈なアイロニーをも含ませている。
亮介は「プラハの春」では東ドイツ人のカテリーナと熱烈に愛し合う。また「ベルリンの秋」ではカテリーナの娘で美しく成長したシルビアとも恋人関係となる。この2つの作品は歴史的事件、当事者たちに課される厳しい制約の中、愛欲をも描くラブ・ロマンスの性格も強い。
今回も亮介はドイツに恋人シルビアを残し帰国しているが、前2作に比べてラブロマンはない。タイトルの冬、は亮介の人生が冬に差し掛かったということと思われるが、わずかにのぞくエロな描写はなかなか煽情的でもある。
オペラを鑑賞したり、美術館に行ったりウィーン市街の風情と地理関係を織り込み、工作員との暗闘、元タカラジェンヌ監禁、核爆弾を巡るダイナミックな動きに次は次はとページをめくってしまった。ところどころ著者の外交官、防諜要員としての心象、また人生観が醸し出されるのもいいアクセント。
都合の良さも多少気になり、ミステリーではないのだけれど、ラストの方は釈然としないものも感じたし、エピローグにもっと幅があってもとは思った。ラブロマンも欲しかったかも。
堀江亮介は別の作品「カリナン」にも少しだけ出演する。これで完結。私的にも長い期間に及んだ3部作の読了には感慨もある。シリーズ最終作のエンドのあっけなさは、私の心の寂寞感でもある。
寡作の著者はすでに故人で、新作はない。「上海クライシス」は読んだかどうか忘れてしまった。いつか「プラハの春」を再読しよう。
◼️ 内田康夫「イーハトーブの幽霊」
宮沢賢治に触れたくワイド劇場のヒーロー・浅見光彦を読んでみた。
本屋でタイトルを目にした瞬間、宮沢賢治いいね!と買ってきた。見立て殺人でないはずがないよね、と思ったし、辰巳琢郎の浅見光彦はイメージ良かったし。花巻の、賢治の作品に出てくる場所のことも知りたい。1995年の作品が2018年に新装版で出たものらしい。
花巻祭りの取材に出向いた浅見光彦は、地元の人々が山車を作るテントを訪ねる。そのテントにいた主婦・侑城子の夫、40代のブティック経営者の郡池の遺体が、宮沢賢治にゆかりのある「イギリス海岸」で見つかる。さらに3日後、郡池の小中学校の同窓生で特定郵便局長の代田が毒殺され、「さいかち淵」で見つかった。浅見は調査に乗り出していく。次は銀河鉄道なのかー。
祭り、地域の特徴、方言、人間関係、どんでん返し。そしてなんと言っても宮沢賢治。おまけに浅見につくガチガチの刑事や、おなじみ刑事局長の弟と捜査本部長が知った時の分かりやすい軟化など、クスッとくるようなコミカルさもある。ワイド劇場的でやっぱり面白い。
仕掛けは万端。90年代のサスペンスものの匂いというか、浅見の行動や物言いは強引にも思える。どこかしらポワロっぽい、裏付けなしの推論の印象を受けるが、最後まで宮沢賢治で上手くまとめてある。
もと担当編集者さんによる故・内田康夫氏の取材から内田流サスペンスが出来上がるまでの話も興味深い。警察の近くをうろうろしていて、警官に声をかけられたらしめたもの、面白い話が聞けます、というのがなかなかウケた。それは作品に活かされているのがよく分かる。
やっぱり浅見光彦は続き物ワイドドラマとして楽しい。ネタに興味がある「戸隠伝説殺人事件」や「飛鳥の皇子」「平城山を越えた女」なんかも読んでみようかな。
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