2021年4月17日土曜日

3月書評の4

法事は毎度ながら糸島へ。会食は明治の商家をリフォームした店でテーブル分かれて。おしゃれかつモダン、柳川にあった母の実家を思い出した。


◼️ 岸本佐知子「ねにもつタイプ」

ホッホグルグルとかフェアリーランドとか。ミョーでオカシイ。

講談社エッセイ賞。ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引書」等の翻訳者・岸本佐知子氏の著書は秘かに本読みに人気らしい。

本友の司書さんが本読みの人に聞いて、程なく本読みの息子さんに本書を薦められたとかで試しに図書館検索してみたら3冊とも貸出中。これは読まねばとなぜか強く思って購入。


3〜4ページほどのエッセイが26に、間には文庫本だけだというクラフト・エヴィング商會の挿絵。クラフト・エヴィング商會って確か文豪の犬にまつわる小説を集めた本、その名も「犬」を出版してたな確か。

中身は軽くぶっ飛んだ感じで笑、日々の生活や妄想、幼児体験などを面白おかしく展開している。そのショートショート風味やかわいらしさに笑ったり、あるあるとうなずいたり。

「ホッホグルグル問題」は十数年前に"ホッホグルグル"という看板の店を見た、という同僚の話から、今になってその言葉を何度もつぶやく心の声がするらしい。さらに「プリティウーマン」の前奏が心で鳴り出すと無限のリフレインでものが考えられなくなったり、思い出したら同じ作用を及ぼすランナウェイズの「チェリーボム」を対抗のために召喚し闘わせたら混乱して収拾がつかなくなることもある、という話。

「お隣さん」では国会図書館の待ち時間に自分の隣の人の書籍分類カードが炭にまつわる本ばかりだったからどんな人か妄想して遊ぶ。

「フェアリーランドの陰謀」では、シャンプーとシャンプーを買わないようにシャンプーとリンスだとしっかり確認して買ったはずなのに家に帰って見るとやっぱりシャンプーを2つ買っている。これは妖精の陰謀だ、と。なんか深くうなづいてしまったりする。私もうっかりミスを責められた時、どっかの小人が動かしたんだよ、なんて言い訳することがある。

あとがきで「ホッホグルグルは成仏したのか、あれきり現れない」なんて読んでぷっと噴き出した。

もとは雑誌「ちくま」の連載だったらしい。
これがあってこう思う、例えば旅に出てこんなことがあった、とか最近の時事について自分にはこう影響が出た、式の随筆的な文章とは違い、内容はやはり妄想的、SFチックだったりちょいホラー?だったり。ツクツクボウシの鳴き声を聴いていたはずなのに実際は年末だったりと不条理さも漂わせつつドライブしている。

本読みが好きな理由を把握できたわけではないが、サラサラ読む分には確かに面白い。

なるほど、って感じです。


◼️ 宮部みゆき
「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」

よく出来た怪異譚たち。リキ入ってます。

やっぱり上手すぎる。今回はオチのはっきりした昔話のようで、微笑ましさと迫力が交錯している。

17歳のおちかは神田で叔父伊兵衛と叔母のお民が営む袋物屋・三島屋に住み、叔父の思い付きで江戸の怪しく不可思議な話の聞き役を務めている。ある日、少年を連れて商家の番頭風の男がやって来た。その少年・染松がいると家中の水が無くなるという。おちかは、染松を預かることにしたー。(第一話 逃げ水)

おちかの百物語シリーズの2作め。
第一話はお旱(ひでり)さまの可愛らしいとも言えるエピソード。
第ニ話「藪から千本」は打って変わって長い間終わらなかった怨念の話。
第三話「暗獣」、タイトル分かりますね。いかにもなんか江戸川乱歩ふうに黒くグロいものを想像したりしますが、となりのトトロを思い起こさせるような、老夫婦と暗獣のお話。
第四話「吼える仏」はまた陰惨な、閉じられた里のお話。

交互に重たい話と微笑ましさのある話が展開される。最終話では「楢山節考」にも通じるような、クローズな里の掟が生んだ悲劇と、信心が産んだ狂気が語られる。全編を通じて人の心の身勝手さが露わになるように作ってある。

第二話は長くて、ちと作り込みすぎかも、なんて思ったかな。第三話と第四話は読み応えがあった。

出てくる人々のキャラも良い。お旱さまと共に過ごす少年・染松(本名:平太)とお旱さま、第二話に出演し三島屋に雇われる「縁起物」のお勝。第三話の隠居夫婦、とりわけ妻の初音が賢くて情が深くて柔らかい性質が気持ち良い。最終話を語る偽坊主・行然坊と、おちかをちょっとときめかせる塾の先生で凄腕の侍・青野、そしてベイカーストリート・イレギュラーズをも想起させるやんちゃ小僧たち。

なんだか一気に周りのキャラが出て来たかんじでにぎにぎしい。まあ楽しいシリーズは周囲の人々が大事。初音さんまた出て来て欲しいな。

宮部みゆきは、上手すぎる。その文章は柔らかく艶やかで、洗練されている。ただ私には合わない気もいまだにしている。

でも、今回のお話たちには、アニメや集団催眠のような混乱が取り込んであり、なおかつ昔話の不思議さ、面妖さ、また矛盾や不明点をも含み込んでいるようでリキが入っている。その色はなかなか好ましかった。

先々も貸してもらってるのでゆっくり読んでいこうと思う。京極堂以来怪談といえばぶっとくなるのか620ページの文庫には少々骨が折れるな^_^

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