◼️恩田陸
「ブラザー・サン シスター・ムーン」
最初エッセイかな?と思う。文学部、ジャズのビッグバンドに所属していた恩田陸が、経験をベースにして創った物語。
恩田陸の経歴といえば、仙台のイメージがまずある。またやはりワセダの、作家編集者を本気で目指す人の学部じゃないか、とも記憶している。やっぱワセダ、ジャズ研のトップが相当なレベルだと業界にも認知されライブハウスの枠を持つ、だなんて、世界の成り立ちを感じたりする。
楡崎綾音、箱崎一、戸崎衛(まもる)の3人は高校の同級生で同じ大学。綾音と衛は一時付き合ったが自然消滅、綾音と一は、部屋に単独でも遊びに行く気のおけない友人。一と衛も会えば話す仲。3人は高校の屋外授業で同じ班になったとき、人が消えたようにいなくなった田舎町で、空から川に落ちた蛇を見たー。
大学時代の4年間、というものテーマに3人それぞれの目線で捉えた作品。巻末の対談で著者本人が語っている通り、綾音の目線の第一部「あいつと私」では貧乏で地味な女子学生ライフときっかけ、への出逢いが語られる。リアルすぎるし、あれ?これって小説じゃなくてエッセイだったっけ?と思ってしまう。
「あいつと私」は石坂洋次郎の小説タイトル。また、ちょうど兵庫は芦屋の谷崎潤一郎記念館に行った帰りに読んでて谷崎も出てきたから暗合に嬉しくなったりした。
第二部「青い花」は衛のモダンジャズ研究会での4年間。「レギュラー」と呼ばれるトップチームは業界でも評判となり、ライブハウスの枠も持つ。レギュラーを目指してしのぎを削る衛たち。しかしトップチームでアルトサックスが抜群に上手い先輩もまた一般就職の道を選ぶ。
ジャズは好きで、なかなか楽しめた。アルトサックスが、どれくらい上手いのか聴いてみたくなる。しかし私も楽器の才能が欲しかった。恩田陸みたく、ジャズバンドなんかに挑戦してみればよかった。やっぱみんなポジティブだなあ、なんて思ったり。衛のバンドのリーダー、オズマが京都のボンボンで、その関西弁が入っていることがリアリティを強めていた。
第三部「陽のあたる場所」は前の2話にもちょいちょい出てくる箱崎の話。時代は移り、金融系に就職した一は、高名な映画監督になっている。主語を揺らす、短いブロックごとに変えたりして、少し物事に距離を置き冷静な一のスタンスをある意味人間臭く炙り出している。大学での年月は回想。工夫が見て取れる。
うーん、ちょっと腹黒いかも笑。インタビュアーを刺しまくり。「陽のあたる場所」は綾音、衛と観に行ったイタリア映画のタイトル。
最終の「糾える縄のごとく」は3人をつなぐ校外活動の篇。最後に大学の先輩、第二部でアルトサックスのモデルとなった方と恩田との対談となっている。
私は地元の大学で、友人と大学の時くらい、東京に出て感性を磨きたかったね、と話したこともある。ことに東京六大学というのは特別感があって、こうやってテーマの小説や人の話を聞いていると、日本の中心にぐっと近づいているような雰囲気を感じる。作家編集者を本気で目指す者たちが作家デビューした恩田にやっかみの態度を向けた、というか述懐も、さもあらんと思える。
大学4年間はなんだったんだろう?総括の機会も必要もいまのところないし、ショボかったなあと思うが、懐かしく思い出す。あまりスケールの大きい話ではないが、感慨を新たにした作品だった。
◼️小林剛
「テレワークの『落とし穴』とその対応」
コロナ禍で一気に導入が進んだテレワーク。
労使双方の戸惑いと細かい難点を捉え、社会の状況を概観する。ふむふむ。
帯の文言がなかなか刺激的。アメリカのIBMはリモートワークのパイオニアでそのプログラムを数十年続けてきたが、2017年に突然、地域のオフィスに移るか、辞めるか、と在宅勤務者に迫った。アメリカのヤフーは2013年に在宅勤務禁止。在宅勤務は協同、コラボレーションに向いてない、集団でいた方がイノベーティブ、という理由のようだ。
この現象は、両社とも業績悪化に直面しており、打開のための大きな方針転換に絡んだもののようだ。時期も状況も全く違う。ただ理由が参考にはなる。
さて、コロナ禍で企業は出社率を極端に下げなければならなくなった。未知のウィルス、外国では毎日何百人も死んでいき、病院は野戦状態・・。状況が見えない中、テレワークを導入する際、充分な準備が出来なかったところも多いのではと推測される。
勤怠管理はどうするのか、また導入コスト、削減できるコストは?リモート会議の特徴と進め方、情報セキュリティの問題、私の会社でもあった「ハンコ出社」、電子契約の問題点等々、導入時に会社が迷ったであろう点の現象と対策などが紹介されている。
5月に実施された、在宅勤務の効率についてのアンケートでは、3割強が効率アップと答えているのに対し、効率ダウンは6割以上となっている。
そりゃそうだ。だっていきなり出社基本のあり方が社会ごと崩れたのだから。あまり驚きはしない。
自分にしてみれば、会社というのはやはり環境が整っていて、コミュニケーションに時間がかからない。直接会話を交わせばすぐ終わることも多い。やはり出社の方が効率的。在宅勤務と両方やっての正直な実感。でも子持ちの優秀な女性社員からは、すごく助かっていて、いいやり方です、という言葉を聞いている。立場、役割、年齢層により違うだろう。
残業や労災、強まる孤立感、長時間労働をついしてしまう人もいる。対応すべき問題はたくさん。在宅勤務の評価をするにはそこに合った仕事の考え方と制度が必要だ。また、働かないおじさんの存在など、現今の状況以前からあったがよりクローズアップされた事象もある。
ことテレワークに関しては、コロナという、例えば悪いが劇薬のような出来事があって、考えるきっかけになったと見るべきだろう。オフィスを削減する企業もあるようだが、世の中進んでるからとかコスト削減、という視点ばかりでない、働き手にも納得感のある方向に進んで欲しいなと、思う。
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