2019年8月31日土曜日

8月書評の8




いつものようにあまおうチロリアン買ってきてお茶うけ。暑さも落ち着いてきたかな。

◼️白川紺子「後宮の烏」


架空の中華の国が舞台。宮廷妖しラノベ。


帝の妃ではあるが共寝はせず、不思議な術を使うという烏妃を訪ね、時の帝・夏高峻は夜明宮へ向かった。初めて会った烏妃は156歳の少女で、帝である高峻にも物怖じせずズケズケとものを言い、牡丹の花で妖術を現出した。高峻は翡翠の耳飾りの持ち主を知りたいと頼む。


皇太后と高峻の権力争い、前政権から今も続く残党狩りー。その狭間で犠牲になった者たちの霊を楽土に送るべく奮闘する主人公の烏妃・寿雪の姿が描かれている。


寿雪は身の回りのことをする老婢女1人だけを置いて孤独に暮らしていた。高峻は折に触れ寿雪を尋ね、あれこれと頼みごとをするようになる。寿雪は高峻に厳しい口をきくが、やがて孤独と不幸に塗り固められた心が少しずつほぐれてくる、という成り行き。実は高峻も深い悲しみを背負っていた。


抜群の妖力をもつ少女の妃さまは籠って暮らしていたから世間知らず。そして前政権に関係があり細心の注意を払って日々過ごしている。


飄々とした高峻が寿雪を美味しい食べ物で釣ったりするのが微笑ましい。頑な寿雪が少しずつ少女らしくなっていくのが読みどころ。


続きを読もう。


◼️白川紺子「後宮の烏  2


いい感じの波が・・ゾッとする怖さと獣臭さ、強さ。こうでなくちゃね。


帝の妃ながら共寝はせず、人ならぬ力を使って幽鬼を救う烏妃、16歳の寿雪。依頼に来た少年、衣斯哈(イシハ)を折檻しようとした宦官を止めた寿雪。その宦官は寿雪の瞳の中に化け物がいる、と寝付いてしまう。やがて獣に喉を喰い千切られた宮女の死体が見つかり、寿雪を抹殺しに来たという宵月が姿を現わす!


衣斯哈(イシハ)もやがて烏妃付きの宦官となり、孤独だった寿雪の周囲は賑やかになっていく。ライトノベルのパターンですね。人が増えるということは、危険も増すということ。


その一方で少しずつ自らの秘密が明らかとなり、寿雪は衝撃を受ける。しかしそれを和らげるのもまた帝・高峻をはじめとしたまわりの愛情。


だいたい1巻にいくつかはヤマ場が欲しいところ、今回は妖しくおどろに、そして生臭くクライマックスが設定されている。面白かった。やっぱりこうでなくてはね。


また別の感想。中華の着衣、習慣その他に細かいところまで通じているのはすごいと思う。加えて、この方は言葉の使い方が巧みで語彙も豊富、文章に惹かれるものがある。


ストーリーに没頭して次は次はと読む中、さらさらと読み流してしまうさりげない文章にレベルの高さがほの見える。日本のラノベ、下支えも工夫度が高い。


なんかちょっと上橋菜穂子氏を思い出してしまうかな。次が楽しみだ。


◼️ボニー・マクバード

「シャーロック・ホームズの事件録

                                            眠らぬ亡霊」


エネルギッシュで新しい、読みごたえのある長編パスティーシュ。ホームズが感情的に過ぎる気もするが、まあこの類は気にしちゃいけない^_^


1889年、バスカヴィル家の犬事件の後ー。ホームズとワトスンのもとをアイラ・マクラーレンという聡明で美しい女性が訪れる。スコットランド有数のウイスキー醸造一族、その次男の妻で、部屋付きメイドが行方不明になり、髪を剃られた状態で見つかったと訴える。ホームズは内輪の恋愛沙汰と取り合わなかった。


兄のマイクロフトに呼び出されたホームズ。ブドウの寄生虫のためフランスのワインは大打撃を受けており、フランスでは英国のウイスキー業者が仕組んだという見方があると聞かされる。マクラーレン家も容疑リストに入っているらしい。国際紛争になりかねず、マイクロフトは、モンペリエで害虫駆除の研究をしている博士を脅迫者から守って欲しいと弟に依頼する。折しもマクラーレン一族は近くの冬の保養地に移動中だという。


不幸に取り憑かれた一族の闇、そこにホームズの過去が絡むー。


エミー賞を受賞した映画脚本家・プロデューサーでもある才女ボニー・マクマードのホームズ・パスティーシュ2作め。前回2016年出版の「芸術家の血」も結構な勢いで読み進んだが今回も530ページくらいの本を会社行きながら2日で読み切ってしまった。


格闘あり、残虐性多少あり、魅惑の女性そしてもちろんシャーロッキアン性大いにありの、まるでジブリの映画ような、機械性のある壮大な舞台空間で繰り広げられるエンタテインメント。


とにかくエネルギッシュ。アメリカものの冒険活劇を観ているよう。まさに著者にとっては自分のフィールドだろう。創造力の大きさに感心してしまった。


今回のポイントはやはりホームズの過去の創作だろう。ハイスクール、カレッジ時のホームズの恋と宿敵の物語。最後に大きなネタばらしがある。ホームズの学生時代におけるモリアーティの存在を示唆するくだりもある。


時代考証もよくなされているようで、劇中にはメアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」やヴェルヌの小説への言及が見られる。著者は自分のウェブサイトにこれらの注釈を書いているらしい。また著者の謝辞がユーモラスでキュート。


まあまあ、あらすじを見ると英仏間のいさかいの元は荒唐無稽に感じるし、ホームズはどうも感情的で頑なだ。ライバル?のフランス人探偵必要か?とも思うし。


女性の視点ならではのロマンティックさ、勝ち気さも感じる作品。保守的なシャーロッキアンの私にとっては物足りなさも感じる反面、新しい創造性となによりその熱量に押されたってとこかな。

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