お盆の3連休は妻子帰省でワンコと留守番。まあもういい子にしているので午前は図書館ほか買い物、午後は家で昼高校野球、夜プロ野球。
◼️外山滋比古「思考の整理学」
実は最初は「えっ?」だった^_^
読み進めると納得できるものも出て来る。
野球のドラフト時に話題になった本。学者さん著者のこのタイトルなので詰めた理論が分かりやすく書いてあるのかな、と思って手に取った。最初の方を読んで、随筆、エッセイに近いかも、と意表を突かれた。なにか論を展開する際に学者さんらしい実証がなかったから。タイトルから予想した、求めていた内容と違った、という「えっ?」だった。
洋の東西を問わず知識を引っ張ってきてのコラムである。個人的なやり方を強めに書いてたりして正直うなずけなかった稿もあって、最初の方の印象は決して良くなかった。
その後アイディアを発展させる方法、情報の整理法、さらに思考を進める方法としてすてる、とにかく書いてみる、しゃべる、ことなどについて掘り下げている。中盤以降はふむふむと読み込める内容で、「ホメテヤラネバ」という項目、褒めた方がのびる、という実験結果もあり、人が何かしらの論を披露した時はほめたほうが、また話す相手もほめてくれる人の方が人情として気分がいい、というもの。単純そうだが、やっぱりそうだなあ、と思ってしまった。
多く学生と接していて、その傾向についての実感がにじんでいる。コンピューターが社会に浸透することで、創造的思考を持って考えることで結んでいる。1983年に発表された本である。
思考を深化し整備していく手法はプリミティブに見えたりもしたが、人間が取るやり方にはワープや超近道はなく、地道な工夫が必要なんだなと納得した感もあった。
しおり絵はがきはドガの「踊り子たち(ピンクと緑」でした。
◼️ウィリアム・サマセット・モーム
「ジゴロとジゴレット」
偶然手にしたものですが、直感は間違ってなかった。モームは・・良すぎるな。
えー、○ックオフから、510円以下の本、なんでも1冊プレゼント、というアプリ特典が来ました。出かけて、何にしようか悩んでるとき、発見した本です。
図書館でもブッ○オフでもモーム短編集はあったけど、「雨・赤毛」で古い本。緑っぽいくすんだような色合いと相まってその古び方に手が出ませんでした。ところが、どうやら2015年に新訳版が出たらしくカバーもカッコ良く、また「ジゴロとジゴレット」って見たことない、小粋なタイトルも心をくすぐりました。
50ページくらいまでの作品が8篇収録されています。
*「アンティーブの3人の太った女」
ベアトリスとアローとフランクはいずれも夫のいない中年の裕福な女。リゾート・ダイエット・キャンプともいえる企画に集い、ブリッジを楽しんでいた。そこへ、フランクのいとこの未亡人、スリムでいくら食べても太らないタイプのリナが現れ、3人が必死にやめている食べ物を注文しまくるー。
ドタバタ喜劇で、いかにもテレビドラマにありそうな展開だが、やっぱりクスクスと笑ってしまった。なあんかキャラ付けがとぼけててよろしい。
*「征服されざる者」
ヒトラーのドイツがフランスを降伏させたころの話。ドイツ軍のハンスはフランスの田舎町で農家の娘アネットを強姦する。なんとなくその家が気になったハンスは食べ物などを持って何かと訪ねるようになり、飢えていた両親はハンスと付き合うようになるが、アネットだけは心を許さなかった。やがてアネットがハンスの子を妊娠しているのが分かり、ハンスは結婚を申し込む。両親はアネットを説得するが・・。
男の子が生まれた直後、カタストロフィが訪れる。つらい。この短編集では異色かも。
*「キジバトのような声」
ラ・ファルテローナはプリマドンナ。年配の秘書をにわがままを言い、恋愛関係はハデで気位が高く、計算高いところもあるいやな女。でも、ラ・ファルテローナがひとたび歌い出すとあらがいがたい魅力があるのだった。
1点に素晴らしい美点を見出し、全てを解決して終わっている。アメリカ的にいうと「クール」でしゃれた構成だと思う。
*「マウントドラーゴ卿」
イギリス与党の外務大臣マウントドラーゴ卿は自分の階級を鼻にかける欠点があるが、エネルギッシュで有能。しかし精神科医のもとを訪れ、リアルな悪夢を見て眠れず、卿が嫌っている、野党のある議員がその夢の内容を知っているかのようなふるまいをする、と告白する。医師は粘り強く治療を施すが・・。
ここでも破局が。現実と夢とのあわい。ネタの不思議な出来事は日本ならガリレオ先生あたりが現実的に解決してるだろうという感じ。精神科医や政治家、政敵のキャラ、また夢の内容に小技が効いている。
*「良心の問題」
著者はフランス領ギアナの刑務所で殺人犯の話を聞く。殺人犯にしては珍しく良心を持っていると感じた男の事情。
ジャンには親友のアンリがいたが、同じマリーという少女を好きになり相争う。職のないアンリはマリーとの結婚のために商船会社に応募する。落ちたら親戚の決めたカンボジアの勤め先に行かねばならない。商船会社の、人となりにうるさい社長から相談を受けたジャンの勤め先の上司はジャンに、アンリの素行について質問するー。
まあその、シャーロック・ホームズの「背中の曲がった男」にも、そこで言及されている聖書にも、似たような話は出てくる。人生はほんのちょっとの人為的なことで狂ってしまう。見立てのミスだってある。ちょっと作り込んでるかな、と感じた篇。
*「サナトリウム」
モーム自身肺を患いサナトリウムに入ったことがある。またモームは諜報員、つまりスパイ活動もしていたようだ。この物語はアシェンデンという男の回想という形を取っているが、このモームの新訳短編集には「英国諜報員アシェンデン」というのがあり、派生していると思われる。
肺結核のサナトリウム。入院が長い者、助からない者、見込みが明るい者、それまで人生に陰りが無かった者に現れた性向。若者のあまりいない群像劇。展開は人間的で、哀しい希望に満ちたもの。とても感じることが多かった篇。さまざまな人生を抱いたサナトリウムはやわらかなひだまりとかなしい静けさの中にある。
*「ジェイン」
ミセス・タワーにとって夫の妹で裕福な未亡人、ジェインは困った人。思い上がっていて、野暮ったくて、いつも押しかけてくる困った人。ところが今回の滞在中、なんとジェインは自分より二十歳以上年下のハンサムな男と結婚し、社交界の人気者となるー。
不思議な展開。どうもアメリカン。でも他人の見方からの変化ときっかけは時にドラスティックでもある。短編らしい話。
*「ジゴロとジゴレット」
ジゴロとジゴレット、どちらもよろしくないイメージがあるが、ダンスホールで男性または女性の相手をする者たちのことを指す意味合いもあるらしい。
シドの妻ステラは、18メートルと高さから深さわずか1.5メートルのプールに飛び込むという芸が当たり、翌月からギャラが2倍になることになった。ところが、ステラはもう飛び込めないと言い出すー。
これが女を利用しているジゴロらしい話ならまた別だが、シドは苦楽を共にしたステラを深く愛しているのがミソかなと。オチは唐突だが瞬間的に理解できて、分かりやすく秀逸だと思った。
当たりでした。本との出逢いは偶然さが天啓。モームは、やっぱり面白い。
「月と六ペンス」に不思議な吸引力、魔力のような惹きつけられ感を感じて、短編にも手を伸ばしてみたら大正解。他ももっと読もう。
しおり絵はがきはシャガールが妻を亡くした直後に描いたという「夢」。悲しい名作でした。
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