2019年8月24日土曜日

8月書評の6







法事翌日は阿蘇へ。本当に久しぶり。草千里は人も牛も少なかった。目当てのひとつ焼きとうもろこし食べて満足。大観峰は素晴らしい。私1人何十年来なくても変わらない。

黒川温泉って阿蘇に近いのね。

楽しい帰省でした。

◼️関口尚「ソフトボーイ」


あっと言う間に読める高校ソフトボールもの。んなあほな、という展開だが、巻き込まれてしまう。


佐賀県の高校調理科3年生の鬼塚は幼なじみの野口にソフトボール部設立を持ちかけられる。佐賀には男子ソフトボール部のある学校がなく、自動的に全国大会に出場できるからだ。佐賀の高校野球部の甲子園優勝に感化されたのだった。野口は教頭に許可を取り、少ない男子に声をかけたり取引きしたり脅迫したりしてあっという間に部員を集める。鬼塚もいつも人を巻き込む天才の野口にあきれつつもついていく。そんな折、鬼塚の憧れで高名なフランス料理シェフのジャン・ピエールが来日してワークショップを開催することになり、鬼塚はジャン・ピエールに手紙を出すー。


映画公開に合わせた文庫書き下ろしのようだ。まあその、何も考えてないが人を巻き込む才に長けた野口と内気ながらついていっている鬼塚や他の部員たちの姿が微笑ましい。有明海に面した土地柄、田舎の高校が舞台で、母子家庭の鬼塚の環境や夢、そのぎこちなさが響く。


人を巻き込む者にはなぜか天才感、大物感が漂う。こういう巻きまれ方ってあるよね、と思い、巻き込まれてみたい、という読者の願望をも感じる。


ヤンキーもガリ勉も留学生もモテ男も出て来て、マドンナも当然ながら女子マネで、ストーリーもまあコミカルなくらい都合がいい。ひっじょうにありがちなドラマ立てではある。しかしこのキャラと筋だから夢と懊悩をいだくふつうの高校生・鬼塚が余計浮き立つ。笑えるし収まりが良くて清々しささえ醸し出す。


関口尚は「プリズムの夏」、アイアンマンレースが題材の「空をつかむまで」と高校生ものを読み、好感を持っていた。帰省から帰りの新幹線で何読もうかとブックオフに行ったら引っかかった本。


2作は、痛々しいことも描き込んでいた。今作は単純っぽいけど、やっぱり何かを感じる。面白かった。


◼️伊東潤「幕末雄藩列伝」


昔同僚でたまたま幕末の話をしていた時、女性の後輩が、

「もう、どうして男の人って幕末がそんなに好きなんですか?ウチの旦那も大好きで本は山ほど買うわ、しょっちゅう京都行ってるわ・・」と、突然機嫌を悪くして攻撃的なグチをこぼしていた。


男の人だけが好きなんじゃないだろうけど、おっさんのうちけっこうな確率の者が大なり小なり好きなんちゃうやろか。私も、そんなに行動派でも知識があるわけでもないが、やっぱり好きである。


そんな幕末好きには読みごたえのある一冊。活躍した藩ばかりではないのが特徴である。さすがに諸藩をここまで知らなかった。


「王になろうとした男」「義烈千秋 天狗党西へ」などをものした歴史小説家の著者が各藩の幕末を物語風にそれぞれ書き下した本。


薩長土肥という倒幕の主軸を担った藩だけでなく、最初だけだった水戸藩、井伊直弼の彦根藩、さらに佐幕方の中心とも言える、会津藩の事情も描いている。


もちろん幕末は、思想が様々に別れ、局面が次々と変わり、諸藩にとっても難局であって、みな右往左往している。その様子が上手に取り上げられている。面白いのは、長きにわたり大大名だった加賀藩など、徳川幕府で重職をしていたり石高の高い大名は得てして身動きがとれなくなっていたこと。


また戊辰戦争が勃発し、諸藩が一斉に新政府軍へ靡く中、長岡藩や請西藩のような小藩のほうが自在に動き、新政府軍と縦横に戦ったイメージ、傑物もいたような印象を受けること。


特に長岡藩の河井継之助は、藩財政を改革して得た余剰金でアームストロング砲やガトリング銃なんかを購入して、新政府軍と果敢に抗戦しており面白い。


幕末の歴史を追っていると、やはり長州の動きはハデで、中心的存在だと思う。しかし諸外国に攘夷を決行して報復攻撃にさらされ、さらに国内的にも長州征伐でやられているから、藩の政治勢力や思想の動きは実際のところどうなんだろう?と思っていたら、ちょっとしたダブルスタンダードを持っていて、粘り腰っぽいところもあるらしく、納得感があった。それにしても禁門の変、四境戦争など長州藩の幕末はダイナミックだ。


帰省先の城の展示物を見て、時代ものもいいな、と読んでみた。だいたい幕末は坂本龍馬とか、薩長連合、新撰組、戊辰戦争あたりになるから、ここまで諸藩のことを詳しく知る機会はなかった。


ちょっと掘り下げる読書でした。

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