2013年12月21日土曜日

12月書評の1

ふたご座流星群は、極大の日を過ぎるとすぐ収束したとか。頑張って観て良かったなあ。

さて、12月書評、ちょっと早いが、も打ち止めにする。ここまで9作品9冊。

では行きましょう。



近藤史恵
「サクリファイス」

自転車ロードレースの話。夢中で、あっという間に読み終わる。2007年刊行、本屋大賞2位も取った作品。

陸上の有名選手でありながら勝つための走りに嫌気が差した白石誓は、自転車ロードレースの選手に転身する。エースを勝たせるために犠牲になる選手の存在、自分が勝つために走るのではないこと、に誓は惹かれていた。

この設定は自然なようで不自然だ、と思うが、まあよかろう。一般に馴染みのないネタを気持ち良く俎上に載せたことは評価できるし、実際興味が湧いて、続編の「エデン」もすぐ読みたいほどだ。しかし・・悪意も極みなら、オチも正直あまりに極端な気がする。それを含みこんでのタイトルでもあるわけだが・・

あまり長くはない作品だけに余計唐突感が否めない。ただそれだけ、考えさせるということは、衝撃を与えることに成功しているからとも言える。

原田マハ
「総理の夫 First Gentleman」

なんというか、マンガですね。目のつけどころは面白いと思う。まずもって設定からそうで、何から何まで揃いすぎているかと。エンタメには欠かせない要素かもしれないが。

ただせっかく入り口は良かったのに、もう少し斬り込んで欲しかったのが正直。表層的にうまく完結しているが、どうも上滑りしている。

女性の、スーパーヒーロー誕生。なんでも出来る才媛、凛子さん。そしてスーパーお金持ちでお坊ちゃん、ハンサムなおとなしい旦那、日和さん。おっさん的には女子の願望を全て叶えている作りかと思える。悪意あり、まっすぐな情熱あり、笑いありのエンターテインメントだ。

真面目な話、現実世界でもそろそろ日本にも女性総理が生まれてもおかしくはないのだが、とも思える。イギリスなんかもうかなり前にサッチャーが出現したし。妙に大人になることが流行りの世の中で、まっすぐすぎることも逆に魅力にも映る。こうクールっぽい分析をしてもクライマックスでは、凛子さんのバランスの良さに感心し、その頑張りにウルウル来ちゃったりもしたし。

世の中そんなにうまくいくもんじゃないんだよ・・と思うよりは、真面目に、もっとこちらが意外に思えるくらいの斬り込みが、やはり見たかったかな。シングルマザーへの弱者対策は現代には必要だと思うし、逆に、専業主婦の偉大さとその想いも組み上げて欲しかった気もする。

山本兼一「火天の城」

時代もの好きの女性の友人がイチオシだった作品。直木賞作品「利休にたずねよ」の解説で宮部みゆき氏が評している通り、山本兼一は「働きもの」の作家さんで、この作品では、建築の細部にその評通りのディテールが記してある。

天下布武を目指す織田信長の命により、安土城築城の総棟梁となった岡部又右衛門以言は、息子の岡部又兵衛以俊とともに、苦難に遭いながらも天下に並ぶところのない城を築く。

城を築くということは、土地の設計、建物の配置から始まって、多くの人の差配、膨大な資材、石垣用の石、瓦の調達から、建物の設計デザイン図、届いた資材の精製、正確な木組みの設定ほか気が遠くなるほどの作事工程が必要である。それを紐解いていく物語でもある。

当の信長ほか侍の都合で振り回される棟梁たち、さらに敵対勢力からの妨害も入って築城は困難を極めるが、だからこそ出来上がったときの爽快感は大きい。工程が丁寧に描かれていため、尚更である。

しかしながらその安土城は、完成から時を置かず、信長が本能寺の変で亡くなったため、程なく焼失、幻の城となる。

山本兼一の作品は、濃密である。「利休にたずねよ」もまた別の仕掛けがあって濃いのだが、「火天の城」はスケールも壮大であり、また無常でもあり、夢を見ることができる作品だ。噂に違わぬ一作だった。

J・E・ホルロイド編
「シャーロック・ホームズ 17の愉しみ」

シャーロッキアン本ここに極まれり、という作品である。んーまあ、あまり一般向けではないかも。

ちなみに17、とは1階から、ホームズとワトスンが住んでいる2階へ昇る階段の数にかけてあるそうだ。作中に、見るだけでなく観察しなければ、と説くホームズがワトスンに、例えばいつも使っている階段は何段か知っているかね、と問う印象的な場面があるから、こう持って来たのだろう。

内容は、パスティーシュ、パロディもあるが、よく言われるホームズ作品中の日付けその他の矛盾点についての論文、ワトスンの研究、挿絵画家シドニイ・パジットの絵を用いての研究、はたまた宿敵モリアーティ教授が死亡した後の、家族の、創作された釈明文、ベイカー街221Bは正確にはどこにあったのか、など、これがほんまもんのシャーロッキアンだ!という数々のものが詰まっている。

その多くは、まだホームズものが連載もされていた、ドイルも存命中の前世紀前半、1920年代などに書かれたものだ。

なんというか、私もシャーロッキアンと自称することもあるものの、この人たちのこの作品群を見たら赤ちゃんみたいなものである。(笑)入門本では決してない、ということだけお伝えしておきます。はい。

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