2023年8月24日木曜日

8月書評の10

目の前に湧いた巨大なこの入道雲がゴロゴロいって、一応洗濯物を中に入れた。台風一過の後は暑すぎる。家にいてエアコン入れてても暑い。

神戸元町の名店エビアン仕様の市販シフォンケーキなどを食べて週末疲れを癒す。だいぶ昔サッカー⚽️に入れ込んでた頃買ったマンチェスター・ユナイテッドのTシャツを息子にやったらなんか3日に1度くらいは着てる。いまは久保や三苫の動向に夢中。昨夜は私の寝室で、父眠ってるのを横にずっとLIVEで試合を見ていた。自分の部屋行きなさいー。

けっして後ろ向き、大変なことではないのだが、自分で選んだ+アルファの事があり、またちょっと病院のお世話になったりして、休日はずっと図書館とスーパー以外行ってない。それなりに見たい映画はあるし、行きたい展覧会もないことはない。ま、でも暑いしいいかと😆

まあややいつもより多忙といったところ。もう少しって感じやね。

のち、めっちゃすごい雷⚡️が鳴って、どこに落ちたかいきなり停電、ちょうど炊飯器動かしてたし、冷蔵庫!暗くなってきてるーとか一瞬慌てたけれども、3分くらいで復旧。電線の鉄塔に落ちたのかな。滝のような夕立ちが降ったのでした。

OH!スコール!☔️

◼️ 芝木好子「湯葉 青磁砧」

興味を持っていた芝木好子を初読み。「青磁砧」が白眉の短編でびっくり。また手に入れました。

大正生まれの芝木好子さん、芥川賞作家で、自分が育った東京下町への愛着が深い。そして、芸道を描くのも得意だとか。

「湯葉」は落ちぶれた幕臣の父に本人は知らず後継の嫁として湯葉を商う店に入った少女蕗(ふき)が主人公。意に沿わぬ結婚、大黒柱の先代が亡くなり、気位が高く息子に甘い姑とまじめに家業をせず外に家庭を持つ夫のため蕗は店を仕切るようになる。商才を発揮するも、時代の風と月日の流れは容赦ない、という物語。

これも一つの芸道、という気がする。蕗に優しくない夫との関係性、他に道のない女としてのリアルな情動には切なさをも感じる。

「洲崎パラダイス」は遊郭近くの盛り場、あるしけた店に転がり込んだ男女、男は使い込みで会社をクビになり、女は元娼婦ではすっぱ、世慣れている。無一文の男はそば屋の住み込みで働き、女は店の裕福な常連に気に入られ、元娼婦らしく世を渡る。男は怒る、もう切れる頃合いか、いや・・

こちらも戦後の、追い込まれた男女の道行き、軽く女を使ったりと現実的な人間くさい感じがする。ここまで読んで、やや退廃につきまとわれながら過ごす女を切々と描くところにどこかなじんだものを感じていた。

しかし「青磁砧」はまったく違った。時代も進み、サラリーマンを隠退した柳瀬、その娘で出版社に勤める須恵子。両方とも陶器、磁器コレクターで柳瀬は同年代の有名陶芸家影山に心酔し友人付き合いをしている。20代の須恵子は無名の陶芸家・高能の青磁を気に入る。須恵子とともに高能の窯を訪れた柳瀬は、聞かされていた砧(青磁の花瓶)を見て、娘に取られたくない、と思うほど魅入られる。

須恵子もまた高能の作品に入れ込んでいた。米色青磁の窯の火入れをするという時に、いつもパートナーだった高能の妻が入院したと知った須恵子は駆け付けて会社を無断欠勤してまでつきっきりとなる。そして迎えに来た柳瀬とともに出来立ての米色青磁を持ち帰る。美しくまだ色も落ち着かない器は、ひっきりなしにヒビが入る音を立てていた。

まずは陶器、磁器の表現が素朴ながら実に魅力的。

「首が細長くて下がふっくり丸い砧で、翠青色の冴えた色と形の流麗な姿に、こまかい茶がかった貫入が模様にみえた」

貫入とは釉薬の部分に入る、細かいひびのこと。河井寛次郎やルーシー・リーが好きで、陶器はよく見る。どんな青磁なのかとぜひ見てみたくなる。

窯の炎の荒々しい赤、作家の激しい意気込み、大風、そして出来上がった極上の作品の色、さらに生き物のようにひっきりなしに鳴る音、音、音は至高へのプロセス。目と耳と、手触り感。そして人の思い入れ。父は老いを感じ娘を案じて諭す。

かないませんでした。この作品は1972年、川端康成が亡くなった年。志野茶碗をモチーフの1つにした「千羽鶴」などの川端のテイストと、やや現代的な展開のミクスチャーのような筆致を感じた。しかし生命感や匠の技の粋、ファンタジックさを、仮託するのが上手いこと。ちょっと私も入れ込んでるかも笑。

「湯葉」の蕗は著者の祖母がモデルで、そこから蕗の娘、つまり著者の母、さらにその娘、つまり著者本人を描いたといわれる3部作、「洲崎パラダイス」はシリーズ化し、芸道ものも他にあるという。

まだいわばとばぐちではあるけど、いいものを手に入れた感覚がして、良い気分だ。

8月書評の10

目の前に湧いた巨大なこの入道雲がゴロゴロいって、一応洗濯物を中に入れた。台風一過の後は暑すぎる。家にいてエアコン入れてても暑い。

神戸元町の名店エビアン仕様の市販シフォンケーキなどを食べて週末疲れを癒す。だいぶ昔サッカー⚽️に入れ込んでた頃買ったマンチェスター・ユナイテッドのTシャツを息子にやったらなんか3日に1度くらいは着てる。いまは久保や三苫の動向に夢中。昨夜は私の寝室で、父眠ってるのを横にずっとLIVEで試合を見ていた。自分の部屋行きなさいー。

けっして後ろ向き、大変なことではないのだが、自分で選んだ+アルファの事があり、またちょっと病院のお世話になったりして、休日はずっと図書館とスーパー以外行ってない。それなりに見たい映画はあるし、行きたい展覧会もないことはない。ま、でも暑いしいいかと😆

まあややいつもより多忙といったところ。もう少しって感じやね。

のち、めっちゃすごい雷⚡️が鳴って、どこに落ちたかいきなり停電、ちょうど炊飯器動かしてたし、冷蔵庫!暗くなってきてるーとか一瞬慌てたけれども、3分くらいで復旧。電線の鉄塔に落ちたのかな。滝のような夕立ちが降ったのでした。

OH!スコール!☔️

◼️ 芝木好子「湯葉 青磁砧」

興味を持っていた芝木好子を初読み。「青磁砧」が白眉の短編でびっくり。また手に入れました。

大正生まれの芝木好子さん、芥川賞作家で、自分が育った東京下町への愛着が深い。そして、芸道を描くのも得意だとか。

「湯葉」は落ちぶれた幕臣の父に本人は知らず後継の嫁として湯葉を商う店に入った少女蕗(ふき)が主人公。意に沿わぬ結婚、大黒柱の先代が亡くなり、気位が高く息子に甘い姑とまじめに家業をせず外に家庭を持つ夫のため蕗は店を仕切るようになる。商才を発揮するも、時代の風と月日の流れは容赦ない、という物語。

これも一つの芸道、という気がする。蕗に優しくない夫との関係性、他に道のない女としてのリアルな情動には切なさをも感じる。

「洲崎パラダイス」は遊郭近くの盛り場、あるしけた店に転がり込んだ男女、男は使い込みで会社をクビになり、女は元娼婦ではすっぱ、世慣れている。無一文の男はそば屋の住み込みで働き、女は店の裕福な常連に気に入られ、元娼婦らしく世を渡る。男は怒る、もう切れる頃合いか、いや・・

こちらも戦後の、追い込まれた男女の道行き、軽く女を使ったりと現実的な人間くさい感じがする。ここまで読んで、やや退廃につきまとわれながら過ごす女を切々と描くところにどこかなじんだものを感じていた。

しかし「青磁砧」はまったく違った。時代も進み、サラリーマンを隠退した柳瀬、その娘で出版社に勤める須恵子。両方とも陶器、磁器コレクターで柳瀬は同年代の有名陶芸家影山に心酔し友人付き合いをしている。20代の須恵子は無名の陶芸家・高能の青磁を気に入る。須恵子とともに高能の窯を訪れた柳瀬は、聞かされていた砧(青磁の花瓶)を見て、娘に取られたくない、と思うほど魅入られる。

須恵子もまた高能の作品に入れ込んでいた。米色青磁の窯の火入れをするという時に、いつもパートナーだった高能の妻が入院したと知った須恵子は駆け付けて会社を無断欠勤してまでつきっきりとなる。そして迎えに来た柳瀬とともに出来立ての米色青磁を持ち帰る。美しくまだ色も落ち着かない器は、ひっきりなしにヒビが入る音を立てていた。

まずは陶器、磁器の表現が素朴ながら実に魅力的。

「首が細長くて下がふっくり丸い砧で、翠青色の冴えた色と形の流麗な姿に、こまかい茶がかった貫入が模様にみえた」

貫入とは釉薬の部分に入る、細かいひびのこと。河井寛次郎やルーシー・リーが好きで、陶器はよく見る。どんな青磁なのかとぜひ見てみたくなる。

窯の炎の荒々しい赤、作家の激しい意気込み、大風、そして出来上がった極上の作品の色、さらに生き物のようにひっきりなしに鳴る音、音、音は至高へのプロセス。目と耳と、手触り感。そして人の思い入れ。父は老いを感じ娘を案じて諭す。

かないませんでした。この作品は1972年、川端康成が亡くなった年。志野茶碗をモチーフの1つにした「千羽鶴」などの川端のテイストと、やや現代的な展開のミクスチャーのような筆致を感じた。しかし生命感や匠の技の粋、ファンタジックさを、仮託するのが上手いこと。ちょっと私も入れ込んでるかも笑。

「湯葉」の蕗は著者の祖母がモデルで、そこから蕗の娘、つまり著者の母、さらにその娘、つまり著者本人を描いたといわれる3部作、「洲崎パラダイス」はシリーズ化し、芸道ものも他にあるという。

まだいわばとばぐちではあるけど、いいものを手に入れた感覚がして、良い気分だ。

8月書評の10

目の前に湧いた巨大なこの入道雲がゴロゴロいって、一応洗濯物を中に入れた。台風一過の後は暑すぎる。家にいてエアコン入れてても暑い。

神戸元町の名店エビアン仕様の市販シフォンケーキなどを食べて週末疲れを癒す。だいぶ昔サッカー⚽️に入れ込んでた頃買ったマンチェスター・ユナイテッドのTシャツを息子にやったらなんか3日に1度くらいは着てる。いまは久保や三苫の動向に夢中。昨夜は私の寝室で、父眠ってるのを横にずっとLIVEで試合を見ていた。自分の部屋行きなさいー。

けっして後ろ向き、大変なことではないのだが、自分で選んだ+アルファの事があり、またちょっと病院のお世話になったりして、休日はずっと図書館とスーパー以外行ってない。それなりに見たい映画はあるし、行きたい展覧会もないことはない。ま、でも暑いしいいかと😆

まあややいつもより多忙といったところ。もう少しって感じやね。

のち、めっちゃすごい雷⚡️が鳴って、どこに落ちたかいきなり停電、ちょうど炊飯器動かしてたし、冷蔵庫!暗くなってきてるーとか一瞬慌てたけれども、3分くらいで復旧。電線の鉄塔に落ちたのかな。滝のような夕立ちが降ったのでした。

OH!スコール!☔️

◼️ 芝木好子「湯葉 青磁砧」

興味を持っていた芝木好子を初読み。「青磁砧」が白眉の短編でびっくり。また手に入れました。

大正生まれの芝木好子さん、芥川賞作家で、自分が育った東京下町への愛着が深い。そして、芸道を描くのも得意だとか。

「湯葉」は落ちぶれた幕臣の父に本人は知らず後継の嫁として湯葉を商う店に入った少女蕗(ふき)が主人公。意に沿わぬ結婚、大黒柱の先代が亡くなり、気位が高く息子に甘い姑とまじめに家業をせず外に家庭を持つ夫のため蕗は店を仕切るようになる。商才を発揮するも、時代の風と月日の流れは容赦ない、という物語。

これも一つの芸道、という気がする。蕗に優しくない夫との関係性、他に道のない女としてのリアルな情動には切なさをも感じる。

「洲崎パラダイス」は遊郭近くの盛り場、あるしけた店に転がり込んだ男女、男は使い込みで会社をクビになり、女は元娼婦ではすっぱ、世慣れている。無一文の男はそば屋の住み込みで働き、女は店の裕福な常連に気に入られ、元娼婦らしく世を渡る。男は怒る、もう切れる頃合いか、いや・・

こちらも戦後の、追い込まれた男女の道行き、軽く女を使ったりと現実的な人間くさい感じがする。ここまで読んで、やや退廃につきまとわれながら過ごす女を切々と描くところにどこかなじんだものを感じていた。

しかし「青磁砧」はまったく違った。時代も進み、サラリーマンを隠退した柳瀬、その娘で出版社に勤める須恵子。両方とも陶器、磁器コレクターで柳瀬は同年代の有名陶芸家影山に心酔し友人付き合いをしている。20代の須恵子は無名の陶芸家・高能の青磁を気に入る。須恵子とともに高能の窯を訪れた柳瀬は、聞かされていた砧(青磁の花瓶)を見て、娘に取られたくない、と思うほど魅入られる。

須恵子もまた高能の作品に入れ込んでいた。米色青磁の窯の火入れをするという時に、いつもパートナーだった高能の妻が入院したと知った須恵子は駆け付けて会社を無断欠勤してまでつきっきりとなる。そして迎えに来た柳瀬とともに出来立ての米色青磁を持ち帰る。美しくまだ色も落ち着かない器は、ひっきりなしにヒビが入る音を立てていた。

まずは陶器、磁器の表現が素朴ながら実に魅力的。

「首が細長くて下がふっくり丸い砧で、翠青色の冴えた色と形の流麗な姿に、こまかい茶がかった貫入が模様にみえた」

貫入とは釉薬の部分に入る、細かいひびのこと。河井寛次郎やルーシー・リーが好きで、陶器はよく見る。どんな青磁なのかとぜひ見てみたくなる。

窯の炎の荒々しい赤、作家の激しい意気込み、大風、そして出来上がった極上の作品の色、さらに生き物のようにひっきりなしに鳴る音、音、音は至高へのプロセス。目と耳と、手触り感。そして人の思い入れ。父は老いを感じ娘を案じて諭す。

かないませんでした。この作品は1972年、川端康成が亡くなった年。志野茶碗をモチーフの1つにした「千羽鶴」などの川端のテイストと、やや現代的な展開のミクスチャーのような筆致を感じた。しかし生命感や匠の技の粋、ファンタジックさを、仮託するのが上手いこと。ちょっと私も入れ込んでるかも笑。

「湯葉」の蕗は著者の祖母がモデルで、そこから蕗の娘、つまり著者の母、さらにその娘、つまり著者本人を描いたといわれる3部作、「洲崎パラダイス」はシリーズ化し、芸道ものも他にあるという。

まだいわばとばぐちではあるけど、いいものを手に入れた感覚がして、良い気分だ。

8月書評の9

だいぶ日が短くなってきた。処暑。

◼️ 塩野七生・文 司修・絵
「コンスタンティノープルの渡し守」

コンスタンティノープル、トルコとキリスト教勢力がせめぎ合う東西の交差点・金角湾の小さな物語。

図書館の一般開架、単行本のところでたまたま目にした絵本。15-16世紀のオスマントルコ、イスラム教勢力とキリスト教勢力の戦争を描いた3部作「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」はとても興味深く読んだ。だいたいの背景は分かるし、やはりトルコのノーベル文学賞受賞者オルハン・パムクの本にもイスタンブールの地図がよく出てくるので地形も地名も少しは分かる。

オーブリー・ビアズリー風の白黒で線の細い絵に必ず鮮やかな色味のある図形、デザインを入れていて怪しさ漂う絵柄はなかなか不幸の匂いがして吸引力がある。

トルコに征服された金角湾、ギリシア商人居住地区ガラタと商都コンスタンティノープルを結ぶ舟の渡し守、14歳のテオは毎日忙しく働いていた。

ある日、テオは母を亡くしたためにガラタにある祖父母の家に住み、5日に1度コンスタンティノープルに住む父親の家に帰る美しい娘・ロクサーナと知り合い、舟の上でおしゃべりするのが待ち遠しくなった。いつしかロクサーナは降りぎわに百合の花束を残していくようになった。そしてある日、いつもの時間にロクサーナは現れなかったー。

塩野七生氏の著作でも、スルタン、トルコ側の君主のハーレムや男色ぶりについて書かれていたという記憶がある。

歴史的背景、そこに息づく少年と少女、淡い恋、大きな喪失。太古からギリシア人やマケドニア人が往来し、アラビア人、ペルシア人勢力と隣り合った場所、コンスタンティノープル。この上なくエキゾチックな、そして陰惨さを抱いた雰囲気が漂ってくる。

たしかオルハン・パムクがトルコ人としてトルコの歴史を描こうとしたところ、誰も読まない、と揶揄されたことがあった、とか書いてあった。トルコ側から見た、キリスト教勢力との最前線の抗争の歴史も読んでみたい気がする。

小アジア、ヨーロッパへの入り口、文化が交差する地域は魅力的だなあ。行ったことないし、読んでるだけ。でも古代ギリシアやトロイ戦争など歴史が古いし、星座にもなっている神々を感じてみたくもある、かな。

いろいろ考える絵本でした。

2023年8月19日土曜日

8月書評の8

お盆に近畿を直撃した台風7号。なんというか一日中暴風域の中にいた。台風の勢力は975hpから985hpとなり、夕方には暴風域もなくなったものの、ときおり小康状態を挟み、吹き降りは強めでずっと続く。動きが極端に遅いノロノロ台風。やがて暴風域の南側になった時、風が南からに変わってそこから吹き返し、パワーが再度アップしたような感じだった。いまは日本海に抜けているがそれでも外側の雲の影響か、時々屋根を叩くように強く降ったり、強めの風が吹いたりする。ああ台風だな、やっぱり、と思う。

今回よく引き合いに出されたのが2018年、非常に強い勢力で近畿を襲った台風。今回のように勢力が落ちていってもこれほどなのだから、非常に強いってどんだけ?である。家が揺れて怖かったっけ。

ひさびさの直撃ということで、だいぶ対策した。停電した時のための懐中電灯チェック、屋上のウッドチェアは結びつけ、飛びそうなものは屋内に入れて、買い物でもそのまま食べられるパンなど多めに購入しておいた。いつでも逃げられるよう着替えとマスト持ち物を固めておいたり、風呂を溜めておいたり。

きのうまでは怖いコワイと思っていたが、さほどの勢力でなかったというのもあり、起きたらすぐ暴風域だったこともあり、対策を十分にしたことと相まって、なんか腹が座った。

とはいえ、もういいな。次はこっち来んといてー😎

◼️ 前野 ウルド 浩太郎
「バッタを倒しにアフリカへ」

バッタ研究者ポスドク、大発生の群れに囲まれ、モーリタニアでの大奮闘。いやー噂にたがわぬおもしろい本でした。

出版された頃に人気となり、興味を持ちつつ未読、こないだ図書館で科学系の書棚を見ていて発見、借りて来た。レビュー数も多い。楽しみに読み出した。

ファーブルに憧れ、望み通り昆虫の研究で博士号を取得した著者はしかしいわゆるポスドクという境遇に苦しむ。私の理解で言えば、安定した収入を得つつ研究を続けられる立場にない、という博士のことですね。

バッタの研究をしている著者は起死回生の成果を狙い、西アフリカにわたりサハラ砂漠を抱くモーリタニアの深刻なバッタ被害に立ち向かう。

天文学者になったとて、期限付きの契約職員にしかなれない、という話を聞いたことはあったが、ポスドクの苦しい現状に厳しさを実感させられる。

驚いたのは、著者も屋外での研究が初めてだったということ。ほかにも生物の学者が書いた本は読んだし、生き物を扱う学者さんなんて大学の時からフィールドワークばかりしていると思っていた。次のびっくりは、バッタ、この場合はサバクトビバッタの発生の情報、駆除のシステムはあるが、バッタそのものの研究は解剖等の所見から生物としてのものしかなく、深刻な農作物被害に対応した生態の研究はかいむに等しい、ということ。

英語しか話せない著者はフランス語しか通じないモーリタニアで、まさにイチからの貴重なチャレンジをその段階から始める。

モーリタニアに渡るところから、現地の風土、人の慣習、寄宿する研究所、フィールドワークのための準備とスタッフの特徴、もちろん苦労と工夫・・等々で本は進んでゆく。

バッタには遭遇するけれども、大発生はまれで、なかなか機会が訪れない。それにしてもサバクトビバッタというのは群れると黄色と黒のまだらの群生相になる。いかにも攻撃的。これが大発生になるとどうなるのか。

現地調査の地固めをして大発生を待つ期間が長い。フランスでファーブルの生家を訪れたり、はたまた本を出した縁でさまざまな講演企画に呼ばれたり、連載を始めたり、競争率の高い研究員の面接に挑んだり・・。

そしてついに、大出現が・・!

なかなかコミカルな流れを作りつつ、少しずつ事態が改善していき、期待感が高まる。バッタのチョー大群はテレビで観たことがあり想像はできるが、現場の体験談にはかなわない。人間模様とともに調査研究のリアルや発信の大事さ、手触りが楽しめる一冊。

やっぱり科学系、生物系の本はやめられない。

2023年8月12日土曜日

8月書評の7

闇に潜む。

夜12:30、屋上でレジャー用布シートの椅子に身を沈め、足はウッドチェアに乗せて身体を低く、上を見上げるように保つ。日付が変わる頃には街の光量もざわめきも一気に小さくなる感じがするもの。お盆休みだからかいつもよりもしんとしているような。

ペルセウス座流星群は、1年の中でも規模の大きな流星群で、今年は月明かりもない。涼風、イヤホンから届くBGMは「カルミナ・ブラーナ」by小澤征爾&ベルリンフィル。

ちょうど1時間くらいの楽曲の間、雲一つない夜空を見つめる。東のペルセウス座、放射点の上あたり、カシオペア座を中心に北東南東方向を広く眺める。カシオペア上付近にキラッという感じで1つ。そしてやや右下、南東方向に1つ少し遅いものが流れた。キター🌠。

よく書いてるけども、流星観測は15分とか20分に1つ、三大流星群でも1時間流れないこともある。しばらく流れず、粘っているとカシオペアのW字が縦になった山の部分の横に明るいのが流れる。

「おお来た」声が出る。そしてまた15分後くらいにほぼ同じところにもっと大きな光が流れた。
「ああ出たデカい!」

5つでキリよく、とがんばったものの曲終わり。翌日も観たいのでこの日はもう終わり。良い観測でした。

息の長い百日紅のピンクは夏にまばゆい。猫プリンいいねこういうアイディア。

京都の中華サカイのお取り寄せ冷麺と芦屋竹園のコロッケという黄金の組み合わせ!

本友さんに教えてもらった人気の現代短歌集を読み込む。ブックカバーはチェコの絵本作家、ピーター・シス展のチラシ。小ぶりな単行本で小粋だこと。

さあ今夜の天気はどうかな。台風ホントに関西直撃なのかいな。まだ信じていない😆


◼️ 木下龍也「オールアラウンドユー」

人気の現代短歌集を続けて。日常の切り取り方がおもしろい。

昨秋情熱大陸で取り上げられた著者の短歌集。若き流行歌人、さてどんなものか。それにしても短歌集の単行本は小さくて小粋だな、と思う。短歌というのはSNSにもマッチするそうだ。

▶︎波ひとつひとつがぼくのつま先で
はるかな旅を終えて崩れる

▷雨、ぼくはぼくよりも不憫なひとが
好きで窓から街を見ている

自然の悠久さと遥かなはるかな繰り返しにハッとさせてくれる歌もある。雨、はどこか石川啄木を思い起こさせる、かな。人間の正直と、雨に降られる、というのは私的に一種の美しさをイメージさせる。

▶︎尾からほどかれる飛行機雲を手で
無垢な空から守りたくなる

▷たんぽぽに生まれ変わって繁栄の
すべてを風に任せてみたい

青い空と、まっすぐに遠い飛行機雲を元に辿れば徐々に緩んでいる白い跡、なんかわかるなと。たんぽぽは広く見たことのない世界への憧憬。

▶︎またわたしだけが残った、そう言って
花瓶は夜の空気を抱いた

▷目薬を瞼で嚙んでいるきみの
喉の仏の不在にふれる

著者は部屋の一輪挿しに花を絶やさないようにしているとか。なかなか気づかない出逢いと変化、永遠の別れ。

目薬、これも恋人との時間のふとした切り取り。こういうの好きですね。

▶︎塾考の末に五百の腕組みを
ほどきはじめる千手観音

これ、笑っちゃいました、なるほど、と。1000体以上の仏像があるという京都の三十三間堂で思い出してみたい。

それぞれ同年代の男女の人気歌集を、読み比べる形になった。個性に明確な違いがあるな、と思いつつ、どちらも良いですね。現代短歌は特に日常のあるシーンを鋭く表現することで、その裏に潜むものを浮き立たせる。気づきの短歌という感じ。読むと気持ちが彩り豊かになる。

もっと色彩と、それから、やはり日本の古典、漢籍を感じさせる歌もあってもいいかな、とも思うけどもお目にかからなかった。枕詞とか古語とかないかなっ、というのも正直な感想です。

2023年8月11日金曜日

8月書評の6

◼️ Authur  Conan  Doyle

"The Adventure of the Six Napoleons "

「六つのナポレオン」


ホームズ短編原文読み37作め。第3短編集"The Returns of Sherlock Holmes"「シャーロック・ホームズの帰還」より後期代表作の1つです。


事件の独創性、ホームズの推理と捜査、待ち伏せ、謎の真相、ラストの劇的要素とホームズらしさが詰まった作品と言えるでしょう。ではさっそく始まりです。


おなじみロンドン警視庁、スコットランドヤードのレストレイド警部がベイカー街221bの!ホームズとワトスンの部屋を訪れていました。事件があったから来ているのではなく、時折りの情報交換で、警部が今ヤードで手掛けている事件を話し、ホームズは注意深く聞いて、経験からのアドバイスをする、という相互関係。話の内容は殺伐としたものなんでしょうけど、読者としてはなごむ情景ですね。


"Anything remarkable on hand?"

「なにか珍しい事件があるのかい?」


レストレイドの態度から察知したホームズはかまをかけます。すると、出てきました。


押し込み強盗をしてNapoleon the First 、ナポレオン1世の胸像を壊して回るという事件があるらしいのです。ホームズは興味を示し、詳しく教えてくれと促します。


4日前、絵画や彫刻を販売しているモース・ハドソンの店で店員が目を離したすきにほんの数シリングで売っていたナポレオンの胸像が床の上で砕かれた。男が1人、店から駆け出してくるのを通行人が見ていた。これだけならたちの悪いいたずらと見られてもおかしくなかった。しかし昨夜、2件めが発生した。


モース・ハドソンの店からほど近いところに開業医しているバーニコット医師はenthusiastic熱烈なナポレオン信者で、モース・ハドソンの店で第一の犯行で壊されたのと同じナポレオンの胸像を2つ購入していました。そして、自宅のホールに1つ、2マイル離れた診療所分室のマントルピースにもう1つを置いていました。


今朝階下に降りてきた医師は、何者かが侵入してナポレオン像を盗み、庭の壁に叩きつけられて割られているのを発見しました。


Holmes rubbed his hands.

"This is certainly very novel," 


ホームズは


「なるほどこれは斬新だ」


と嬉しそうに手をこすり合わせます。


"I thought it would please you."


「お喜びになると思ってましたよ」


とレストレイド。


お昼に診療の予約があったバーニコット氏は診療所分室へと足を運びました。


"you can imagine his amazement when, on arriving there, he found that the window had been opened in the night, and that the broken pieces of his second bust were strewn all over the room. "


「診療所に着き、そちらに置いてあった2つめの胸像までが粉々に壊され、破片が部屋中に散らばっていたのを見た時、医師がどんなに驚いたか想像できるでしょう。夜のうちに窓から侵入した何者かの犯行でした」


犯人について脅迫症患者の話を持ち出すワトスンをホームズは諌めます。この犯人には筋が通っているところがある、同じ胸像のありかを探し出していること、また医師の自宅では家族を起こす可能性を考えて、外に持ち出して砕いていること。つまらない事件ということはない、と。そしてレストレイドには進展を知らせてくれるよう伝えます。第3の事件はすぐに起きました。


"Come instantly, 131 Pitt Street, Kensington.

"LESTRADE."


スグコラレタシ、と翌朝早く電報。急行するとやじうまが列をなしており、警部が厳しい顔で迎えました。"To murder"「殺人です」


そしてもたもや、ナポレオン像が襲撃されてあました。


現場となった家の家主はホレス・ハーカーという年配の通信社の記者でした。記者なのに、事件の当事者となると記事にできない、と嘆くハーカー氏によれば、自室で仕事をしていた今朝未明、聞いたこともないような恐ろしい叫び声を耳にした。poker火かき棒を手に階下に降りてみると、窓が大きく開いていて、ナポレオンの胸像がなくなっているのに気づいた。像は4か月ほど前、ハーディング・ブラザーズの店から買ったものだった。


玄関から外に出ると、戸口に喉を大きく切り裂かれた男の死体を発見した。あたり一面血の海で、警笛を吹いた後、失神したー。


レストレイドは、現場には柄が角でできたナイフがあった。被害者のものか、殺人者の凶器かは分からない、男は日に焼け頑健な体躯で30歳前くらい、身元不明、所持品はほとんど何もなく、ただポケットには抜け目のない、鋭い表情の、猿のような男が写った写真があったと説明しました。


記事を書くというハーカー氏を残し、一行は数百ヤード離れた、ナポレオン像が砕かれた空き家の敷地へ。ホームズは破片をよく調べます。


"We have a long way to go yet,"

「まだまだ先は長いな」


と言いつつ、空き家はここまでにもあったのに、見つかる危険を犯し、わざわざこの場所で像を壊したのは街灯があったからだと指摘します。なるほど、バーニコット医師の像も外の赤色灯のそばで壊されていた、とレストレイド。


警部はこれから殺された男の身元を洗うとのこと。ホームズはそれぞれ別動で、後で情報交換しよう、と持ちかけます。


"If you are going back to Pitt Street, you might see Mr. Horace Harker. Tell him for me that I have quite made up my mind, and that it is certain that a dangerous homicidal lunatic, with Napoleonic delusions, was in his house last night. It will be useful for his article."


「もしピット街へ戻り、ホレス・ハーカー氏に会ったら、僕の代わりに言っといてくれないか。僕が、昨夜彼の家に来たのはナポレオンに異常な妄想を抱いたアブない殺人者なのは確かだと思ってるって。彼の記事の役に立つだろう」


さすがにレストレイドも怪訝に思ったのか


"You don't seriously believe that?"


「まさかホントにそう思ってないっすよね?」


たぶんそうかもねー、と軽くいなすホームズ。この写真は借りてくよ、6時に都合つけて来てくれ、僕の推理が正しければ、今夜は探検にお付き合い願うかもしれないよ。


"Until then good-bye and good luck!"


「それまでじゃあね、幸運を祈るよ!」


上機嫌ですよねー。さて捜査です。先を急ぎます。


まずはハーカー氏にナポレオン像を売ったハーディング・ブラザーズの店に行ってみましたがあいにくハーディング氏は外出中。先にモース・ハドソンの店に行くことにしました。店先の1つを壊され、同じものをバーニコット医師に2つ販売した店ですね。責任者は背の低い太った男で、何のために税金払ってるのか、と警察にプリプリ、無政府主義者のしわざですよ、と吐き捨てます。このナポレオン像はゲルダー社から壊された3つだけ仕入れたとのこと。


そして写真の男を知っている、と。名前をベッポといって、出来高払いで雇ったイタリア人っぽい男で、彫刻のほか金箔や額縁作りもできて役に立った、先週出て行った、どこから来たのかもどこへ行ったのかも分からない、出て行ったのは胸像が壊される2日前だという話でした。


次はゲルダー社です。ナポレオン像を造って、卸したとこですね。作業場には石がたくさん。従業員が彫刻をしたり塑像を造ったりしていました。くだんのナポレオン像はフランスの彫刻師ドゥヴィーヌ作で、ナポレオン像が同じ鋳型から造られていました。1年前にモース・ハドソン商会に送られたのは、一度に6体作られたうちの3体でした。残りの3つがハーディング・ブラザーズに卸されたというわけでした。


当主は金髪のドイツ人で明快に話す人物でした。鋳型は顔の両側で2つに分けて取られ、繋ぎ合わせる。その作業はイタリア人がやっていた。胸像は乾燥のため廊下のテーブルに置かれて、その後倉庫にしまわれる。


"Ah, the rascal!"


「あの悪党めが!」


ベッポの写真を見せたとたん、his blue Teutonic eyesドイツ人の青い目の上にある眉がしかめられました。


この工房でベッポを雇っていた。腕の立つ最高の職人だった。しかし、1年以上前、通りで別のイタリア人を刺し、ここへ逃げ込んで逮捕された。相手が死なず、1年の懲役刑で済んだはずだ。もう出て来てるだろう。しかしさすがにここには来ていない。彼の従兄弟が働いているから、ひょっとして何か知ってるかもしれません。


その従兄弟には絶対自分たちの捜査のことを言わないでください、と釘を刺すホームズ。そして、ナポレオン像が卸されたのは63日、ベッポが逮捕されたのは520日より後くらいというのが分かりました。


残るは空振りだったハーディング・ブラザーズ。ホームズたちは急いでランチをとったレストランで、ハーカー氏の記事を目にします。部分抜粋。


Mr. Lestrade, one of the most experienced members of the official force, and Mr. Sherlock Holmes, the well-known consulting expert, have each come to the conclusion that the grotesque series of incidents, which have ended in so tragic a fashion, arise from lunacy rather than from deliberate crime.


「経験あるベテラン警部レストレイド氏と高名な諮問探偵、シャーロック・ホームズ氏は、悲劇的な結末を生んだ一連の犯罪に関して、計画的犯罪というよりは心神喪失がもたらしたものと結論づけている」


新聞ってのは使い方を知っていれば便利だね、とホームズはくっくっと笑います。


ハーディング・ブラザーズの社長は小柄でキビキビしていました。夕刊を読んで事件のあらましを理解していましたので話が早い。


数ヶ月前ヘルダー社から仕入れた胸像は全部売れた、1つはハーカー氏、チズウィックのジョサイア・ブラウン氏、レディングのサンドフォード氏。工員と掃除夫にはイタリア人がいる、彼らが売上台帳を見ようと思えば見られる、写真の男に見覚えはない。捜査はフィニッシュです。


ベイカー街の部屋にはすでにレストレイドが来ていて、pacing up and downいらいらと歩き回っていました。


小売店、卸業者と胸像のルートを追ってたよ、との言葉にレストレイドはびっくり。


"The busts"「胸像ですって?」


確かに、一連の事件ではすべてナポレオン像が壊されているとは言え、客観的に見て、殺人事件の捜査では優先順位は低いかもしれない。読んでるこちらもちょっとハッとして、次の警察の本筋ともいえる捜査の結果の重要性にまた気づきます。


"I think I have done a better day's work than you."


「あなたよりはいい仕事をしましたよ」、とレストレイド。まあこの辺は後を盛り上げるための挑発ということで。


殺された男はピエトロ・ベヌッチ。イタリア人でマフィアとも関係があり、ロンドンでも悪名高い殺人者だった。多分別のイタリア人の男がなんらかの規律を破り、ピエトロが制裁を加えようとしたが返り討ちにされた。これから写真の男を探し逮捕するためイタリア人街に行く。


同行しますか?と訊かれたホームズは、逆にその男を見つけに行くからきょう深夜に同行しないか、と持ち掛けます。行き先はチズウィック。レストレイドは提案に乗り、ホームズは手早く速達の手紙を出し、新聞をひっくり返して読みあさり夜を過ごします。


しゃれた住宅街の、塀の影に3人は潜みました。ホームズは長い間待つことになるかもしれない、とこぼします。


"However,it's a two to one chance that we get something to pay us for our trouble."


「しかし21の確率で、労が報いられるチャンスがある」


しかしホームズの予想に反して、ほどなく事は動きました。見張っている家の庭の門が音もなく開き、黒くしなやかな黒い人影が家の方へさっと走り抜けやがて窓がそっと開けられました。男は部屋に入り物色しているようで、鎧戸のすきまからダークランタンの光が見えます。


男は脇の下になにかを抱えて道に出て来ました。そしてガシャっと音が。男が作業に没頭しているすきに後ろから忍び寄るホームズたち。


With the bound of a tiger Holmes was on his back, and an instant later Lestrade and I had him by either wrist, and the handcuffs had been fastened.


ホームズが虎のように男の背後から飛びつき、レストレイドとワトスンは男の両手首を押さえ、レストレイドが手錠をかけた。


写真の顔がそこにありました。


しかしホームズの関心は犯人にはなく、戸口に行き、壊されたナポレオン像の破片をくまなく調べていました。


家主のジョサイア・ブラウンが出て来て、ホームズさんの手紙の通りにしました、内側から全て鍵をかけて推移を見守っていました、悪党を逮捕することができて嬉しい、と。


さて一行は犯人、ベッポを警察へ連行しました。


"I'm sure I am exceedingly obliged to you, Mr. Holmes, for the workmanlike way in which you laid hands upon him. I don't quite understand it all yet."


「犯人をうまく逮捕した職人技には本当に感謝に絶えません。ただ、すべてを理解しているわけではないのですが」


翌日の夜、レストレイドはベイカー街を訪れました。犯罪の全体像を見せる、とホームズが告げたからでした。


レストレイドによれば、ベッポはイタリア人社会では札付きの男で、かつては彫刻職人としてまじめに生計を立てていたものの、窃盗と、1年前の傷害事件で2回収監されていた、英語は完璧、しかし何も話そうとはしない。


警察では壊されたナポレオン像がヘルダー社に雇われていたベッポ自身の手で製作された可能性が高い。


その時、赤ら顔の老人が訪ねて来ました。旅行カバンを持って、列車が遅れて、と言い訳を口にしつつ。


ホームズはハーディング・ブラザーズで調べたら胸像を買った者のうち、ロンドンから西に離れたレディングに住むこのサンドフォード老人に、ナポレオン像をぜひ10ポンドで引き取りたい、と手紙を出していたのでした。正直な老人は、買値はたった15シリングだったと打ち明けます。しかしホームズはもちろん出した条件で買い取ります。これが、6つのナポレオン像のうち、最後の1つでした。


ホームズはテーブルに白い布をかけ、ナポレオン像を据えました。そしてー


狩猟用の鞭で頭頂部に一撃!ナポレオン像は粉々となり、ホームズはすぐさま破片を調べます。次の瞬間、勝利の叫びをあげ、掲げた破片には、プディングの中のプラムのような、黒く丸い物体がありました。


"Gentlemen," he cried, "let me introduce you to the famous black pearl of the Borgias."


「紳士諸君、有名なボルジア家の黒真珠をご紹介しよう」


ワトスンとレストレイドは一瞬呆然とし、次に2人とも、自然に拍手をしていました。頬に赤みが刺したホームズはうやうやしく一礼。まるで芝居の一幕のようでした。


さて全体像です。ボルジア家の黒真珠は現存する中で最も有名な真珠で、かつてダクレ・ホテルに投宿していたコロンナ王子の寝室からこの真珠が消え、大変な騒ぎとなった。警察も、そして相談を受けたホームズさえも解決はできなかった。


王女付きのイタリア人メイドに疑惑が向けられた。メイドの名前はルクレチア・ベルッチ。いまとなっては殺されたピエトロ・ベルッチに疑いはないが。捜査当局は当時この兄妹の関係を辿れなかった。真珠がなくなったのは、ベッポが刺傷事件で逮捕される2日前だった。


ベッポがピエトロから真珠を奪ったのか、共犯者だったのか、兄妹の仲介役だったのかは分からない。しかし黒真珠を手にしたベッポは同国人を刺し、当時勤めていたゲルダー社の工場へ逃げ込んだ。そこには自分が造り、廊下で乾燥させていた6つのナポレオン像があった。警察の追手が迫る中、熟練した職人のベッポは、まだ濡れていた像に小さな穴を開け、黒真珠を入れて穴を塞いだ。


ベッポが1年刑務所に入っている間にナポレオン像は各地に売られていった。でもベッポは黒真珠を諦めなかった。ゲルダー社にいる従兄弟を通じてどこに卸されたかを調べた。モース・ハドソン社になんとかして雇われて、3つの販売先を調べて壊して回った。真珠はなかった。


そしてハーディング・ブラザーズに勤めるイタリア人の協力で、残り3つの行方を知った。ハーカー氏の胸像を奪う際、かつての共犯者に見つかり、格闘となって相手を殺した。


この時、ハーカー氏の胸像に黒真珠が入っていなかったと、ホームズには言い切れませんでした。ベッポがすでに見つけて持ち去った可能性もありました。だから、ジョサイア・ブラウン氏宅の張り込みに出かける時、21の確率だとか、長く待つかも(その結果空振りするかも)とか行ってたんですね。


残る2体。レディングは遠く、まずはロンドン市内のチズウィック、ジョサイア・ブラウン氏の家に来るはずと踏み、罠が成功したというわけでした。殺された男の名前と過去の新聞から、ナポレオン像に隠されているのは黒真珠だと、ホームズは確信を抱いていたのでした。


"I've seen you handle a good many cases, Mr. Holmes, but I don't know that I ever knew a more workmanlike one than that. We're not jealous of you at Scotland Yard. No, sir, we are very proud of you, and if you come down to-morrow, there's not a man, from the oldest inspector to the youngest constable, who wouldn't be glad to shake you by the hand."


「私はあなたがたくさんの事件を解決するのを見て来ましたが、これほどまでに手並みのすばらしいものはなかった。われわれスコットランドヤードにあなたをやっかむ気持ちは毫もありません。あなたを誇りに思います。あすおいでになれば、古参の警部から新米の巡査まで、あなたに喜んで握手を求めるでしょう」


"Thank you"

 "Thank you"


「ありがとう!ほんとうにありがとう!!」


ワトスンには、ホームズが人間らしい感動に心を動かされそうになっていると見てとりました。しかし一瞬の後、ホームズはもとのクールな実務家の顔に戻ってしまいました。


"Good-bye, Lestrade. If any little problem comes your way, I shall be happy, if I can, to give you a hint or two as to its solution."


「じゃあごきげんよう、レストレイド。もしまた何か事件があったら、解決のために喜んで1つや2つはヒントをあげるよ」


いかがでしたでしょうか。


私は本作を読む前、たまたまケーブルテレビでグラナダTV版、ジェレミー・ブレットの「六つのナポレオン」を観ました。レストレイド役はちょっとミスタービーンに似てるところのある俳優さんで、皮肉が上手そうなタイプ、正直ホームズとともにバスカヴィルの魔犬に立ち向かう風貌には見えませんでしたが、最後の賞賛のセリフのところはいい味を出していました。


「ボヘミアの醜聞」に始まり大人気を博したホームズの短編は24作め「最後の事件」でホームズがモリアーティとともにスイスはライヘンバッハの滝に落ちて死亡した、という結末でいったん終わりを告げます。歴史小説の執筆を望んでいたドイルは早くホームズものを終わらせたがっていたようです。それから10年後、「空き家の冒険」でホームズは見事な復活を果たします。ここから先が第3短編集「シャーロック・ホームズの生還」に収録されるわけなのですが、明らかに劇的要素が増加した話が多くなっています。


シャーロッキアンの中には、後期のホームズが前期に比べ思慮の浅い人物になった、という人もいるもよう。しかし私的には、ホームズを離れて長い年月を過ごしたドイルが柔軟性と熟練さを身につけ、ホームズを愛しながら張り切って書いた作品たちのように思えます。


原文を読むと、日本語で読むのと違い、言葉11つまで気にするので、物語がまた別の様相帯びているようにも見えますし、何よりストーリーの理解が進みます。「六つのナポレオン」は各所にイタリア人を潜ませたり、遠いレディングから来た老人に列車が遅れて・・などというセリフがあったり、ホームズとレストレイドの間にほどよい関係が醸成されていたりと、細かいところまで気が利いていると改めて感心します。


できすぎた話という評もあるかも。ただドイルの実力が昇華した作品、1つの頂点、とも言えるのではないかと思います。もうしばらく、原文読み、やめられなさそうです。




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