プレゼントは、妻と息子に、図書カード。
◼️コナン・ドイル「青いガーネット」
クリスマスに、ホームズを。今年は原文読んでみました。ひとつですけど^_^
クリスマスには、シャーロック・ホームズ譚がよく似合う、という特集を昔ミステリマガジンでやってて、すごくマッチしてるな、と思って以来この時期には必ずホームズ関係の本を読んでます。で、今年は「聖典」つまり原作でクリスマスに関係ある話に戻ってみようかと。
んで、シャーロッキアン、と言うと、よく原文全部読んでるとか?と聞かれますが、それは老後の楽しみで・・と答えるのが常でした。
この本は書評を上げたいとかねがね思っていて、今年はこの時期、クリスマスに関連した作品、「青いガーネット The Adventure of the Blue Carbuncle 」を原文で読んだのでよいきっかけと思い、アップすることにしました。
長いです。すみません。
シャーロック・ホームズは長編「緋色の研究」で登場、第2長編の「四つの署名」を経て、ストランド・マガジンに掲載された初の読み切り短編「ボヘミアの醜聞」で人気が爆発、大ベストセラーとなりました。1891年のことでした。
「シャーロック・ホームズの冒険」は最初の短編集で、「ボヘミアの醜聞」、アイリーン・アドラーというオペラのプリマドンナにホームズがしてやられる話、から月ごとに掲載された12話が収録されています。
人気No.1の「まだらの紐」のほか、「赤毛組合」「唇のねじれた男」「ぶな屋敷」など初期のホームズ譚を彩る作品が並んでいます。後のやや作風が変わったホームズ物語よりも初期の話を好む人も少なくないようです。
初期はいい意味で筆がこなれてなく、物語性が前面に出て、ホームズの態度も含め、興味を掻き立てる要素が多いかと思います。「ぶな屋敷」なんかはその最たるものかと。
さて、「青いガーネット」この話はホームズ譚としては7話目、「シャーロック・ホームズの冒険」では「唇の捩れた男」と「まだらの紐」の間に配置されています。だいぶ以前書いた、「ボヘミアの醜聞」の半年あと、まさに人気爆発の時期、1892年1月号に掲載されました。ではお話を追っていきます。ネタバレです。
クリスマスの2日後、ワトスンくんはお祝いを言おうとベイカー街221Bを訪れます。
ホームズ物はなぜか時期のまとまりはあまりなく、訪ねた、ということはつまり、ワトスンは結婚してホームズとは別に暮らしているということが分かります。この一話は1888年の「四人の署名」事件で出会ったメアリ・モースタン嬢とワトスンが結婚した直後、1889年のクリスマス後の事件かと想定されています。
ホームズは、紫のドレッシング・ガウンを着てソファにもたれていました。前に置いた椅子の角にはみすぼらしいフェルト帽がかかっています。
コミッショネア、退役軍人の便利屋ピータースンがクリスマス当日の早朝、パーティーから朝帰りしていると、街で揉め事に出くわし、収めようとして駆け寄りました。すると制服姿で警官と間違えられ、揉めていた男たちは四散し、逃げた男の1人がこの帽子とガチョウを落としていったのだとか。ピータースンはホームズが不思議な事件に興味を持つことを知っていて届けてきたのでした。
ガチョウは2日間とっておいてましたが、悪くなりそうだったので、拾ったピータースンにあげたとのこと。ところが、そのピータースンが飛び込んできます。
「ホームズさん、これを見てくださいよ!女房がガチョウの餌袋から見つけたんです!」
それはそら豆より少し小さいサイズの、青くきらきらと光る宝石で、ワトスンには電光のように見えました。
折しも5日前の12月22日、ロンドンのホテル・コスモポリタンに投宿していたモーカー伯爵夫人が、宝石箱から青いガーネットを盗まれたと大きな話題になっていました。宝石はもちろん金額的にもとんでもない価値があり、それゆえ、この宝石は、様々な人を不幸にしてきた歴史を持っていました。
ガチョウと帽子を預かってます。取りに来て、と新聞広告を出し、やって来た、事情をなにも知らない男には買っておいたガチョウを与え、宝石を産んだほうのガチョウの入手先であるパブを聞き出します。パブでは積み立てをしてクリスマスにガチョウを受け取れるサービスをしていたとのことでした。
事件はすでに出入りの配管工事業者の男が逮捕されていて、巡回裁判にかけられていました。被告は前科持ちでした。転がってきた不思議なきっかけから、ホームズは独自の捜査を開始します。
パブでビールを飲み、主人から卸業者を聞き出します。コヴェント・ガーデンのブレッキンリッジの店でした。訪ねて行くと、ブレッキンリッジは最初は普通に会話に応じましたが、どこから仕入れた?と質問した途端に豹変、激怒します。
どうやらホームズたちより先に嗅ぎ回っている者がいるらしい。頑なになった荒っぽい商人に、ホームズはこう切り出します。君が売ったガチョウは田舎育ちに違いない、仲間内で賭けたんだ、と。ブレッキンリッジはそんならお前さんの負けだ。あれは都会育ちさ、賭けるかい?と乗ってきます。会話は適当に端折ったりくっつけたりしてます
「僕の勝ちに決まってるから、君は金をむだにするだけだ。まちがっている。だがきみの強情さをこらしめるために、1ソヴリン(=1ポンド)賭けよう。」
「へへん。俺は子供の頃から鳥を扱っているんだぜ。帳簿を見ろよ、うぬぼれ屋のだんな。」
うぬぼれ屋のだんな、はMr. Cocksureです。
独り決めの、うぬぼれの強い、確信しきった、等の意味のようです。
帳簿にはブリクストンロード、もちろんロンドンです、のオークショット夫人から買い、パブに卸した、と書いてありました。
ホームズは悔しそうな顔をしてソヴリン金貨を投げ捨てその場を去りますが、やがてワトスンと2人になると声を殺して破顔一笑。
ホームズはブレッキンリッジのポケットから競馬新聞がのぞいてたのを見落とさず、賭けを持ちかけて、普通に訊いたら絶対しゃべらないところ、目指す情報を見事にゲットしたのでした。
この場はこれでは終わりませんでした。後ろのブレッキンリッジの怒鳴り声がまた聞こえてきたのです。
「お前もガチョウももうたくさんだ!まとめて地獄へ行きやがれ!犬をけしかけるぞ!」
見ると小さなウサギのような顔をした男がブレッキンリッジの剣幕に逃げ去るところでした。ホームズは男に追いつき、話しかけます。
ホ「今の会話が聞こえました。私はあなたのお役に立てるのではないかと思っています」
男「でも、このことがあなたにわかるとは思えませんが?」
ホ「失礼ながら、僕には何もかもわかっているのです。I know everything of it.」
そして馬車に男を乗せ、ベイカー街の部屋へ戻ります。男の名はジェームズ・ライダー、
盗難があったコスモポリタンホテルの接客係主任でした。
ホ「もしかして、あなたが探しているのは、尾に黒い筋がある白いガチョウでしょう?ここに来ましたよ」
ライダーは興奮に震え、「ああ」と叫びます。
ホ「あれは実にすばらしいガチョウでした。あなたが探されるのも当然です。何しろ死んでから卵を産むんですからね。いままで見たこともないくらい美しくて、光輝く青い卵を」
ホームズは青いガーネットを取り出し、静かに告げます。
「遊びは終わりだ、ライダー
The game's up, Ryder,」
ライダーは絨毯の上にひれ伏して、ホームズの膝を掴んで訴えました。
「お願いです!お許しを!父のことを、母のことを考えてください。どんなに悲しむでしょう。二度としません。誓います。どうか警察へは連れていかないで下さい!」
「身に覚えのない罪で法廷に引き出されているホーナーはどうなるんだ?」
「わたしは姿を消します。ホームズさん。この国から高飛びします。そうすればホーナーにへの嫌疑は晴れるでしょう。」
ホテルの接客係のライダーは宝石の持ち主であるモーカー夫人のメイド、キャサリンと共謀し、逮捕された配管工ホーナーに前科があると知った上で、夫人の部屋に細工をして彼を呼び、帰った後で宝石を盗み、そして罪をホーナーになすりつけたのです。
しかし隠し場所に困ったライダーは、姉であるオークショット夫人がクリスマスにガチョウをくれると言っていたのを思い出し、姉のところへ行って、ガチョウに宝石を飲ませます。
姉が出てきた時、ガチョウは群れに戻りますが、飲みこんだはずの一羽をんじゃこれ貰っていくよ、と持って帰り腹を割いたところ、宝石がなく、取り違えたことを知ったのでした。姉のところに戻るも、すでにガチョウは全羽ブレッキンリッジの店に運ばれた後。青くなってガチョウを捜索していたさなか、ホームズたちに出会ったというわけです。
もちろんくだんのガチョウは、ブレッキンリッジの店からパブへ卸され、冒頭の帽子を落とした紳士に渡されたのでした。
全てが明らかになり、沈黙の後、ホームズはこう言います。
「出て行け!」
「なんと!天の祝福がありますように!」
ライダーは慌てて逃げ去りました。
「結局のところ、ワトスン。僕は警察の欠陥を補うため連中に雇われているわけではないんだ。もしホーナーか有罪になるとしたら話は別だが、事件はこのままうやむやに終わるだろう」
「僕は重罪犯人を減刑してやったようなものだが、これでひとつの魂を救ってやったことにもなる。ライダーはもう二度と悪事に手を出さないだろう。」
「それにいまは、人を許す季節だからね。偶然のできごとから、じつに奇妙で風変わりな事件に出会えたわけだけれど、解決できたこと自体が報酬と考えようじゃないか。
さあ、呼び鈴を鳴らしてくれないか。そろそろ、次の問題を片付けよう。今度も主役は鳥だよ。」
ホームズとワトスンのディナーは、ハドスン夫人が料理したヤマシギだったのでした。
「ハドスン夫人に餌袋を調べてもらうように頼んだほうがいいかもしれないな」
笑。実はこのセリフは前半に出てきたもの。オチをつけるために持ってきました。
さて、青いガーネット、原題は
「The Adventure of the Blue Carbuncle」
この話からタイトル冒頭に「The Adventure of 」が付くようになりました。宝石はガーネットではなく、カーバンクル、です。
カーバンクルは赤い宝石の総称でルビーなどを指すことが多いとか。磨き丸く仕上げられたザクロ石はガーネットと呼ばれますが、ガーネットを指すこともあります。
つまり、カーバンクルはあくまで総称でどの種類の宝石を指すものではないようです。この辺もシャーロッキアンの話題のひとつ。初期の訳では「青い紅玉(ルビー)」と訳され、その言い回しのほどよい妖しさからか、一時期定着した感がありました。
しかし赤くないルビーは有り得ず、最近ではガーネット、柘榴石、という訳が多いとか。ガーネットも、この物語が書かれた当時も今も、虹色に輝くものはあっても青いものはないようで、スターサファイアとかブルーダイヤモンドとする説もあるとか。コナン・ドイルがどれを想像して書いたかは分かっていません。宝石は謎が多い方がいいのかも。
最後の、ホームズの、犯罪を見逃す判断にはどうも甘いものがあるような気もしますし、ストーリー自体、推理もの、奇譚を楽しむものというよりは寓話的ですよね。ただ寒い年末の喧騒の中で繰り広げられる冒険の、紙芝居のような物語性を、私はとても気に入っています。
クリスマスは寛容の時節。犯罪性は濃いものの、人も死なない、警察も絡んでこないことが、不思議なフェリーテイル的雰囲気を醸し出しているのは言い過ぎでしょうか。
ちなみに、クリスマスにホームズを、はクリスマスにクリスティーを、とアガサ・クリスティーが使ってたことの借用だったかな?
でもよく合ってますよね。
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