2020年8月8日土曜日

8月書評の1





父が送ってきたおかきセットの中に入っていた稲荷あげ餅。レンジであっためて食べた。

いろいろ行きたいところもあるんだが、コロナを気にしてやめてしまう。妻も実家への帰省を取りやめた。

先日ふっと、琵琶湖一周のサイクリングツアーを調べてみた。1泊2日、できれば2泊3日で、行きたいなあ〜。

◼️アルフォンス・ドーデー「アルルの女」


有名な前奏曲とメヌエット。戯曲には面白い工夫が。


シェイクスピアを読むようになってから、戯曲を読むのが一つの好みになっている。まだまだ数は少ないけども、読み重ねていきたい。


さて、ビゼーの「アルルの女」、第1組曲の冒頭と、第2組曲のメヌエット、フルートの独奏はひとつ、街でいえばランドマークのように、印象に強く残るメロディー。


では戯曲の方はというと、昔翻案の劇をテレビで観た気がするがなんとも心もとない。どんなんだったっけ・・と読んでみると、「桐島、部活やめたんだってよ」のような小粋な展開が。


南フランスの山間の村カストゥレ。農家の若主人、20歳のフレデリが都会のアルルの女に恋をした。周囲は騒ぎ心配するが、婚礼の準備を整える。しかし「あの女は俺の女だ」という馬の番人が来て、真実を知ったフレデリは想いを断ち切るように自分を慕う村の娘ヴィヴェットとの結婚に踏み切る。しかし、馬の番人がアルルの女と駆け落ちすると知り、フレデリは度を失うー。


悲劇である。登場人物が練られているなと・・フレデリへの過度な執着を示す母親のローズ・ママイ、おおらかで単純な伯父のマルク、素朴で純粋な娘ヴィヴェット、舞台でのイメージが頭に浮かぶ。1人冷静な老羊飼いバルタザールが効いている。名前もまた、キリストが生まれた時に来訪した東方の三博士、とはまた興味深いネーミング。


で、フレデリとその家族を振り回す「アルルの女」は劇中まったく出演がない。「アルルの女」と呼ばれるだけで、名前さえなし。


佳作「桐島、部活やめるってよ」でもさんざん桐島くんの名前は出てくるが、本人は出てこない。最近読んだものでいえば「田村はまだか」もそんなテイストだったかな。名前ないのは私も初体験かも。でもだから、タイトルが心に強く灼きつけられるのかも。


短く、あまり複雑でない悲劇。でもどこか噛み合わせの上手さを感じさせる。美しいヨーロッパ山間部の田舎、過度な感情、やや緩慢な家族たちの動き、田舎おやじ、身分の低い賢人など、細かい粒が立っていて、うまく劇が造形されている。


第一組曲、第二組曲を聴き直した。毅然と悲劇を直接的に予想させる前奏、山に響く、繊細で甘いフルートのメヌエット・・充分に堪能した読み手は・・聴きながら気持いつしかうたた寝したのでした。気持ちよかった。


◼️三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ

                                        扉子と空白の時」


新シリーズは横溝正史でスタート。幻の作品「雪割草」をめぐる物語ー。


文芸作品に絡む謎を解いていくミステリー。探偵は、北鎌倉のビブリア古書堂店主で尋常ならぬ愛書家の篠川栞子、ワトスンは店員の五浦大輔。全7巻では夏目漱石、太宰治、坂口美千代、宮沢賢治、江戸川乱歩、手塚治虫、シェイクスピアほか多くの作家、作品が登場していて楽しく読ませてもらった。かなり深めの文芸ネタをミステリータッチで面白くライト風味に展開していくのは好ましかった。形が世の中の(本読みの)ニーズに「ハマった」からこれだけ売れたんだと思う。


私にとってはシェイクスピアに親しむきっかけになった作品。新シリーズが始まり嬉しい本読み。


さて、もとのシリーズで、なかなか進展しないポッと照れるような恋愛テイストを長く続けていた2人も結婚し、扉子という、やはり本が大好きで周りとなじめない娘がいる。この作品では扉子の高校時、そして9才の時、さらに栞子さんが妊娠した時と3つの時代が混在している。


メインになるのは、妊娠時の2012年、そして9年後、扉子が小学校3年生の時、2021年。扉子高校時は・・つまり近い未来へ時制を進めてある。


横溝正史の幻の作品、「雪割草」を盗まれたから捜して取り戻してほしいー。元華族である上島家の子孫から依頼された栞子と大輔は大きな屋敷へ調査に出かける。栞子は見事に謎を解いてみせるが、あったはずの直筆原稿がなくなっていた。そして9年後、上島家から蔵書を引き取ってほしい、という連絡が入るー。


大きな屋敷、身内の愛憎、そして年月を経てからの再調査と、横溝正史の作品テイストに合わせた展開。扉子が買った古い「獄門島」を巡るちょっとしたエピソードも良い彩りを加えている。


なんか最後だけしっくりこなかったが、栞子、扉子、そして栞子の母、扉子の祖母、目的のためなら手段を選ばず本の持つ魔性に魅入られた智恵子も出てきて3世代が揃い踏みとなる。長い黒髪の3世代。智恵子(なんかやっぱレモンをがりりと噛みそう)おばあさんは相変わらず怪しいとはいえロンドンで書店を営んでいて、栞子も当地へ手伝いに行ったりしている。


横溝正史は、幼い頃読んだ話がものすごく恐ろしく、以後1週間くらいずっとショックが心に残っていた。題名は思い出せないが、島ものだったかな・・だとしたら「悪霊島」かそれこそ「獄門島」かな。そのためもあってか、以後ほとんど読んでいない。せっかくだから1冊くらい読んでみようかな。


今回もなかなか読み込めたが、新シリーズの種蒔き編だろうおそらく。これから扉子の活躍が始まるのか、だとするとワトスン役はどうなるのか。もちろん、次の題材は何になるのか、楽しみは広がる。待ち遠しいこと。

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