先週の3連休はなにもしなかった。ちょっと身体が風邪ひきたがっているような気がしたし。もくもくと図書館やブックオフに行ってたな。。まあまずこんなもんか。
◼️紅玉いづき「MAMA」
2020ラノベ始め。良き作品に泣き入る。
春高バレーのさなか、「ハイキュー!」の最新巻を読んでホロリ。1年生の主人公、背は低いけれど高く跳べる日向(ひなた)くんが、春高まで走り続けてきてついに・・。息子がバレーボールを始めるきっかけとなったマンガで、アニメも全編見て、思い入れのある作品。
その後このライトノベルをあとがきまで読んでまたホロリ。ちと涙もろい時期かも^_^
ガーダルシア王国。由緒ある魔術師集団サルバドールの落ちこぼれ、少女のトトは人喰いの魔物の封印を解き、ママになってあげる、と自分の耳と引き換えに契約をする。トトが彼に与えた名前は、ホーイチ。ホーイチを手に入れてからトトは強く変わっていく。成長した彼女にはやがて敵と親友と、恋する相手が現れてー。
ベタな魔法ファンタジーではある。しかし、紅玉いづきには、彼女にしか出せない、確固とした世界がある。今回もそこに感じ入った。
紅玉いづきを知ったのは、新聞の書評欄。デビュー作「ミミズクと夜の王」が電撃小説大賞を受賞し精力的に作品を発表している、という記事だった。さっそく「ミミズク」を読んで、その世界観と美しさと、ストレートな愛情表現に好感を持った。続編の「毒吐き姫と星の石」も読んだ。「MAMA」は長編2作めで、こちらもよく音に聞こえた作品。
名門の娘だができが良くなく、親にも見捨てられようとしたトトが他者が立ち入れない愛をつかみ、ちょっと歪んだような、でも必要な温もりを守るために自らの意思で成長していく。強力な使い魔・ホーイチにも、かつて喰らった少年の悲しい記憶が張り付いている。
悲惨をベースに、愛情を求める動機を作る。俯瞰してみると、トトは強力な使い魔をパートナーにしたおかげで人生が好転していったようにも思えるが、かたくなな、若者らしい無常観を抱いている。「ミミズク」のような美しさとはまた違い、より愛情がエレメンタリーでピュアに表され、物語の道行きも魔物の残酷で妖しい気配をファンタジー世界としてうまく構築したサスペンス感溢れるものとなっている。最初はもっと母性溢れるものかと思ったが、少し違い、より普遍的にも見える。長くなく、でも記憶を残すストーリーだ。
「ミミズク」「MAMA」ともに児童向けといっても良さそうな作りではあるが、大人の心にすうっと届く。ほどよい世界観と、少しラノベチックなアウトサイダーぶり。今巻には後日談でスピンオフ作品の「AND」も併録されている。
加えて著者のあとがき、も良かった。悲惨、残酷さはあるが、気取らずおごらず高ぶらず、自然で素直でまっすぐな感を持った。
2020年ライトノベル始めは満足の読書だった。「ミミズク」「MAMA」と並び人喰い三部作とされる「雪蟷螂」も読もうと思う。
◼️深緑野分「ベルリンは晴れているか」
ボロボロの、想像を超える緊迫感。心は動いた。最後まで謎を残す凝った設定。
評判の良い長編。直木賞候補作である。前作「戦場のコックたち」も直木賞候補作で、二次大戦のアメリカ軍兵士を描いたもの。賞の選考では、どうしてアメリカ軍の兵士を書かなければならないのか、借り物にしかならない、という意味合いの発言があり物議を醸したらしい。面白ければ、題材はなんでもいいと私なんかは思うのだが。
そして、今回も二次大戦のヨーロッパ戦線が題材。ドイツ降伏後すぐのことでポツダム会談に絡めてある。
ドイツ人でベルリンのアメリカ軍兵員食堂に職を得ている少女・アウグステはソ連軍内務部に連行される。両親が死んだ時、アウグステを匿ってくれたフレデリカ・ローレンツの夫でソ連文化省のためにチェロを演奏していたクリストフが、アメリカ製の歯磨き粉に仕込まれた毒で亡くなったという。
アウグステはドブリギンという大尉に、ローレンツ夫妻がかつて引き取ろうとした彼らの甥で後に脱走、別の家庭の養子となったエーリヒを探し出すよう命じられる。連合国に混乱を引き起こす組織「人狼」に関係しているかも知れないのだと。アウグステはドブリギンの勧めに応じ、エーリヒがいる地域に詳しいという理由で、うさんくさげな元役者のユダヤ人カフカと連れ立って出発する。
深緑野分は「オーブランの少女」で出てきて先出の「戦場のコックたち」が人気を博した。参考文献が異常に多く、周到な取材・準備をする印象がある作家さんである。にしては知識も鼻につかず、主人公が等身大で、ストーリーが生み出す緊迫感をリアルに感じさせる術を持っている。
今回も、ヒトラーとナチ、そして進軍してきたソ連の赤軍により大きな被害を受けた少女の生き方を綿密に織り成している。さらに廃墟と化した街と旅の道行きの描写、駐留しているアメリカ軍、イギリス軍、ソ連軍の兵の様子、過去のナチの脅威、恐怖と悲惨な体験のディテール、軍事的な戦車、武器、市民の複雑な感情構成と、表現面で気が行き届いていていて、絶大な効果を読み手に及ぼす。
エーリヒを訪ねる苦難の旅とウグステの過去の章が交互に来て最後につながるという凝った構成である。
率直に、楽しめた。アウグステが自分の原罪を感じるシーンには心が動かされた。まごう事なき佳作だろう。私は、ヨーロッパの子孫たちがこのような小説を描くのが本筋、という意見も分かる気はするが、深緑野分は日本の読者の理解が進むような手法を以って書いている。そこには明確な差が存在すると思う。
もちろんかなり都合の良さはあるし、登場人物の性格は日本人的なものも多分に感じるし、最後の最後、の場面は疑問符が付いたし、犯罪の動機などはっきりしない部分はいくつかある。
この作品が落選した直木賞の選考会でも、良さは認めつつも、受け入れるのにまだまだためらい、忌避感のある委員もいるな、と思う。
裏を返せばそれだけ新しい手法だということだ。個人的には100点満点ではないものの、おもしろい作品を書く作家さんなのは間違いがないので、行き詰まるまでは独走してもいいのではという気がしている。
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