2017年5月4日木曜日

4月書評の3





写真は奈良の薬師寺。奈良について調べだすと、行きたいとこが多すぎて困る。

4月は15作品15冊も読んだ。児童小説、ライトノベルなんかが入っていたからだが、バリエーション豊かな月ではあった。次のノーベル賞を探さなくては。


青木祐子「これは経費で落ちません!

                    〜経理部の森若さん〜」


あまり大きくない会社が舞台のラノベミステリー、とでもいうべきもの。ヒロイン・森若さんのキャラは確かに立っていて、評判いいのもわかる気はする。サラサラ読んでしまった。


石鹸や入浴剤を扱う天天コーポレーション経理部の森若沙名子は入社5年めの27歳。彼氏なし、週末の楽しみは自宅での映画DVD鑑賞。イーブンという言葉が好きで、過不足のない穏やかな毎日を送るのがモットー。会社とは適度な距離感を保ちたい。ある金曜日の退社後、よく無理を聞いてやっている営業部の山田太陽から沙名子のスマホに仕事のメールが入る。


新聞で第2作の宣伝を見て、評判が良さそうなので読んでみようと購入。


もう少し自己啓発系かと思ったが、あまり経理業務に深いわけではなく、沙名子さんが、会社の多彩な面々に起こる小事件を冷静に計算した上でたんたんと解き明かしていく、ラノベ風味のストーリーだった。


沙名子さんは、身ぎれいにしている地味美人で、沈着冷静、仕事もできて部長にも信頼が厚いが、つきあいはほとんどしない。しかし自分のことは、やはりあれこれと思っている。そして過不足のない日常を崩す人が現れてー。というとこで第1作終わり。


セリフ的にも無駄が無く、会社での状況と起きたことの事情をみて、事を適切に処理する一方、読者からは可愛らしい面が見える、というのは確かに読み手の気を引く。そこまで特徴的な話ではないが、経理部というのは勝手な現場の人間に振り回され、仕方なくやっている事もある、という部分をクールにこなす面、沙名子の会社との距離感、入浴剤含め、女子社員のいかにも的な性格を書き分けているフェミニンな部分など、うまくヒロインのキャラとその立ち回りを際立たせる設定を作っていると思う。


青木祐子氏は、少年少女向けの小説を書いてきた人らしいが、微妙にキャラを立たせるのは、けっこうな技術がある気もしている。第2作も買ってみよかな。


三品和広「戦略暴走」


国際化から不動産への進出まで、企業戦略の失敗例をまとめ、分析したケースブック。なかなか興味深い一冊だった。


ハーバード・ビジネススクールに学んだ著者が、そこで課されたケース分析を参考に、179もの例を集めたもの。国際的な資本参加、買収、M&A、工場などの自力進出を最初の方で取り扱い、中盤は、本業に関連がありそうな分野への拡大、またパソコンの興隆に合わせた媒体の製造について考え、リゾート、不動産、開発事業への進出まで、実に様々なケースに言及している。


内容も概要と結果、中心的人物と原因分析があり、本文のサイドには、本業と売上高、営業利益率、筆頭株主、中心的人物の経歴などが書いてあってかなり参考になる。主に1970年代から最近までのケースであり、実業界の歴史から技術のめまぐるしい移り変わり、バブルだけでない業界の特徴と波などが見えてくる。


名前を知らない企業も多く、欄外の情報が役立った。また、多くの業界の勢力図や動向がよく分かって、勉強した気分である。


戦略も、状況にかなり左右されるし、同情したくなる場面もある。しかし、結局推進者によるところがかなり大きいな、と感じた。海外生産や本業の延長事業、多角化などはけっこうフツーに動いているかと思いきや、名だたる大企業が痛い失敗を経験している。ちょっと見え方が変わった本だった。


宮下奈都「ふたつのしるし」


不思議な出会いの物語。2人のハル、優等生の女の子と、茫洋とした男の子は、それぞれの道を歩みー。途中からけっこうのびのび書いてるな、なんて思った。


小学校1年生の陽之(ハルユキ)はぼうっとして、自分の興味が動くことだけに反応する子供で、学校の先生もあつかいかねていた。ハルにとって母と、友達の健太だけが理解者だった。一方、優等生の遥名(ハルナ)は、進学した中学で、勉強が出来ることを隠して過ごしていたが、物事をはっきり言って孤立を恐れない里桜と出会う。


遥名のほうにはそれなりにリアルなものを感じたが、男子の陽之のほうはかなり不思議ちゃんな設定で、物語の展開も、まったく別のジャンルの話のように進む。そのギャップは興味深くもあるし、どこへ向かうんだろうとちょっと期待してしまう。


小学校、中学校に上がった時は、周りとの関係に違和感を感じるものだ。どこか思い出させるものもあって、懐かしかった。端的に取り上げるシーンとして、ちょっと面白く際立っていた。


ファンタジックな要素もあり、大人の児童小説のようなテイストだった。突飛にも見えるが、盛り込み方にさすがの筆力も見えて、けっこうのびのび書いてるんじゃないかな、などと感じた作品だった。まあ小品ってとこかな。


江橋よしのり「おはなし 猫ピッチャー」


ニャイアンツの猫ピッチャー、ミー太郎がニューヨークでニャンキースと戦う!話も表現も、ひと工夫。ところどころ、ふふっと微笑んでしまった。児童小説です。


ミー太郎は球界初の猫ピッチャー。もちろん1軍のマウンドで活躍する。ミー太郎の人気聞きつけたアメリカ・メジナリーグのニューヨーク・ニャンキースが親善試合に招待してきた。飼い主の女子高生・ユキともども、チームとアメリカに渡ったミー太郎だったが、記者会見で本当の猫ということに仰天され、アメリカの野球ファンの期待は異常に高まる。


読売新聞日曜版に連載されている23コママンガの児童小説版第1巻。いただいた本で、楽しく読んだ。持って帰ったら、息子が「あーっ、猫ピッチャー!」と即反応して奪っていった。


ミー太郎は抜群の野球選手であるが、もちろん猫らしいところというか猫そのものの行動も満載で、でも人間扱いされないといじけてしまったりするところ、飼い主のユキや監督、同じ投手の英須さん、キャッチャーの平野さんら優しいチームメイトたちとのドタバタ劇も微笑ましく、もしも猫が野球をしたら、という発想だけで話は広がるな、とつくづく思う。


児童小説らしく分かりやすい悪役、謎の人物(たち)もいるのだが、その中にも、アメリカの、スポーツ、野球に対する取り組み方や愛情を織り込んだり、猫ならではの謎を入れたりと、面白い複式構造にもなっている。


さらにユキを中心に、使う言葉もかなり現代口語的で、大人から見てもいい味付けだと思う。


最後にギャリコという名前を持って来たところで、猫ものとしてはニクい、いい仕上りでしょう。なかなか楽しかった。


谷川流「涼宮ハルヒの憂鬱」


大ヒットシリーズの第1作。宇宙人と未来人と超能力者。いろんな要素がしくっと噛み合ったというとこだろうか。


県立北高校に入学したキョンは、出席番号が続きの「えらい美人」涼宮ハルヒと出会う。ハルヒは、最初の自己紹介で「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところへ来なさい。」と言い、やがてキョンや1学年上の美少女、朝比奈みくる、文芸部で寡黙な長門有希らを巻き込んで「SOS団」という集まりを作る。


舞台となる高校が同じ市内のなじみの学校で、聖地巡礼もあるようだと聞かなければ読まなかっただろう。ライトノベルからアニメ、映画へとヒットし海外にも輸出されている涼宮ハルヒシリーズである。実は先に第2作を読んで、第1作を読まないとよく分からんという事を知り、今回読んでみた。


美人なのにものすごい自己チューで強引、本気で超常的なことを待ち望むハルヒが実は全宇宙に影響するほどの力を持ち、宇宙人、未来人に監視されている。ほどよくSF的な理屈と展開があり、コスプレあり、ツンデレキャラあり、そして主人公はハルヒに選ばれ、さんざん苦労させられる冴えない男子高生。やや地域密着なのは、ほかのエリアの方々にもなにかしらのリアル感を生んでいるのだろうか。ヒットするには理由があると思うが、これらがうまくライトノベル的に噛み合ったのかなーと思わせる。


確かに先が楽しみな、読みやすいものではある。第3作の「退屈」は、まあ・・気が向いたら、かな。


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