2017年5月25日木曜日

4月書評の2

ちょっと、うまくアップされなかったから、やり直し。

伊坂幸太郎「チルドレン」

たまに伊坂を読むと、微笑ましくなったりする。今回も、フツーではなくて、面白い。いいプロットだ。


大学生の鴨居は、友人の陣内とともに閉店間際の銀行へ行く。陣内と銀行側がもめている時、銃を持った2人組の男が入って来て、鴨居たちは銀行強盗の人質になってしまう。

続編「サブマリン」が手元にあって、なんとなく第1作のこの作品を読んでからにしよう、と思ってて、この度ようやく買って来た。

連作短編集だが、大学生の時の陣内たちと、その後家裁調査官になってオジさんになった陣内と、年代がクロスしまた語り手も変わる。大きく分けられている2つの年代も微妙にずれていたりして、テクニカルに、仕掛けを周到に、そしてテンポよく、さらにある意味ナンセンスに作られている。推理小説風味のストーリーでもある。

発想の豊かさ、時に突飛であったりして、独特のコミカルさを醸し出している会話は、オリジナリティが強く感じられて、味がある。

工夫がこれでもかと凝らされている、楽しいエンタテインメント。まさにワールドって感じだね。

ちなみに伊坂は、出演者がさまざまな作品間でリンクしているらしいが、私は、伊坂のどの作品を読んだのか、さっぱり整理出来ていないから、そういうものがよく分からない。

さあ、これで「サブマリン」が読めるっと。

高野秀行「幻獣ムベンベを追え」

いやー面白かった。1980年代末、早大探検部が挑んだ、コンゴでの、幻の怪獣へのアタック。あっという間に読了。

1980年代初頭、探検隊による目撃証言が相次いだコンゴ奥地の湖、テレ湖。地元住民にも多くの目撃談があるという。大きな背に長い首を持つという怪獣の調査のため、作者が所属する早大探検部を中心にした総勢11人のコンゴ・ドラゴン・プロジェクトのメンバーたちは企業の協力で超音波探知機や夜間暗視装置、ビデオカメラなどを揃え、東京新聞に後援してもらい、コンゴ政府と交渉して現地探査に出発する。しかしテレ湖への道のりは、物理的にも、渉外的にも、苦難の旅となった。

なかなか夢のある話である。現地の村での交渉に難儀し、ガイドやポーターたちの反乱に悩まされ、食糧危機にあえぎながら、厳しい環境下での探査は進められる。マラリアに倒れる者も出るが、大変な日々の中で、考えを深めていく様子が描かれている。

ただひと言、凄い行動力だと思う。当時国交もない社会主義独裁国家のコンゴへ、かなり本格的な準備をして、行っている。食べ物もまあ、ワイルドで、現地の動物たちの様子も分かる。アフリカ辺境の村での習慣や人間関係にもスポットが当てられている。

怪獣探しって・・とは確かに思うが、そこは日本でも屈斜路湖のクッシー、鹿児島の池田湖のイッシーなどの話題があり、そしてもちろんイギリスではネッシーが有名で、この手の話にワクワクしてしまうのは確かだ。イッシーの池田湖は修学旅行で行ったことがあるが、県により、数秒間に一度シャッターが下りる自動監視装置がセットされています、という説明を受けた。

たまにこういうハチャメチャ紀行を読みたくなる。今回のは新しい本ではないが、かなり強く興味を惹かれ、一気に読み終えた。

この後高野氏は辺境作家としてポジションを確立し、著書は多数。また読もう。

島本理生「週末は彼女たちのもの」

オトナの恋愛にまつわる連作短編集。1編がホントに短く、次はと読んでしまう。ある意味実験的な作品で、薄く淡くて、でも意外に興味深かった。

モデルのミナはレストランを経営する婚約者の吉川に、突然結婚の延期を告げられる。ミナの親友でシングルマザーの奈緒はそんなミナを心配していた。一方、前に弾いていた店をクビになったピアニスト、留加は、演奏を聴いていた吉川に、自分の店で弾いてくれないか、と声をかけられる。

元々は、ルミネの写真広告に合わせて書いたショートストーリーで、それを1冊にまとめた本。いつもの島本理生の作品よりも、ほんの少し舞台がかっていて、スタイリッシュだ。

1編が5ページくらいで、散文のよう。そして出演者の視点が次々と変わる。別れがあって、理由があって、新しい恋、という、この作家のパターンだけど、深く入らないぶん流れがいいというか、こういうのもいいなと思えてしまった。

ウィリアム・ジェラルド・ゴールディング
「蠅の王」

ノーベル賞。人の心の悪魔的な部分を描くというイギリスの作家。うーん、特殊な状況だが、あり得るかもな、とか思ってしまう。怖く、かつ、かわいそう。

戦時下、イギリスの輸送機が撃墜され、南太平洋の無人島に、少年10数人が取り残された。隊長になったラーフを中心に集団のルールが決まるが、6〜7才の子たちを含む皆は規則を守らない。やがて、熾火(のろし)を上げることにこだわるラーフと、野生の豚狩りにこだわるジャックとの間で対立が深まる。

子どもたちは熱狂し、強い方に流れ、集団は狂気を帯びた危険なものになっていくー。豚狩りが尋常でないものを呼び込む小道具になっている。無人島には大人がいない。つまりうるさく言われる規律を守る必要もない。家族がいない心細さ、過酷な環境で生きなければならない心の鬱屈とベースは十分だ。

数人の軸となるキャラクターを、うまく動かしている。少年であるがゆえにうまく行かない、もどかしい部分もよく伝わってくる。シーンのつなぎは、神秘的な表現で、ファンタジックな要素もある。残酷な場面にはけっこうびっくりしたが、全体にどこか納得するような筆致で、クライマックスはちょっとした迫力だ。

この作品は1954年に書かれ、イギリスとアメリカで反響を巻き起こした。ゴールディングの代表作で、彼は1983年にノーベル文学賞を受賞する。

「蠅の王」は聖書にも出てくる悪魔ベールゼブブを指すという。人の心の悪魔的な部分を、無人島、少年というものを触媒にまじっと描いてて、ちょっと引き込まれたかな。


豊島ミホ「檸檬のころ」

東北にある田舎の高校を舞台にした、青春ストーリー短編集。あとがきによれば「地味な人なりの青春」らしい。良いまとまりだと思う。

橘ゆみ子にとって、高校に入って初めての友達、小嶋智・サトは2年の秋からいつもの電車に乗ってこなくなり、学校に来ても保健室で過ごすようになった。ゆみ子は、サトが何を考えているか分からない。そんな中、ゆみ子は同じ学校のイケメンから告白される。

ウィキペディアによれば、豊島ミホの代表作だそうだ。ここまで、女による女のためのRー18文学賞作品「青空チェリー」、各編に必ず人形が出てくる「ぽろぽろドール」と、クセのある作品を読んできたので、なんというか、かなり正統派なのに少し驚いた(笑)。

おそらく秋田県出身の著者のベースである東北の公立進学校が舞台で、季節や風景、高校を取り巻く環境の描写はリアルで、昭和生まれの私にも通じるものがあった。

各編はそれぞれ主人公が違い、微妙にリンクしている。地味と言いながら、なかなか恋ものも多く、野球部のエースやマドンナ的なキャラもいて、それなりだなあ、というのが正直。しかし、高校1年から、子供っぽくもある考え方や行動、悩みや行動までを真摯にユーモラスに描いていて、大人の視点が入ったり、その大人たちがかなり単刀直入な言い方をしていたりと、興味深い変化をつけている。

ストレートで、しかし特徴的で、よいまとまり。いつもは強めのクセに惹かれるものを感じるが、これはこれで、佳作だと思う。

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