東京の夜はシンガポール料理屋でシンガポールスリング。ラッフルズホテルが懐かしい。もいっかい行ってみたいな、シンガポール。買い物とグルメ以外することないけどね。
レーモン・クノー「地下鉄のザジ」
フランス名画の原作版。1959年に発行されるや、たちまちフランスのベストセラーになったとか。いやーハチャメチャさかげんが楽しいかも。
少女ザジは、パリに住む叔父のガブリエルのところに2日間滞在することになる。ザジは地下鉄に乗るのを楽しみにしていたが、ストで駅にも入れない。ガブリエル家を抜け出し、1人でパリの街中に出かけるザジ、それが騒動の発端だった。
私が「地下鉄のザジ」という言葉を知ったのは、原田知世のベストアルバム(私の大学生当時 ちなみに今も持っている笑)からだ。同名の歌が収録されていて、ポップな曲調でサビが「男の子みたいな、街の冒険者♩」と。この歌詞から普通の人が想像するであろうキャラを考えていたが、今回は完全に裏切られたな(笑)。
この物語は、口の悪い少女ザジ、おかまバーでミニスカートを履いて踊るのが職業のガブリエル、タクシー運転手シャルル、小足の給仕女マド、カフェの主人とそのペットの鸚鵡、変幻自在のトルースカイヨン、男好きの未亡人ムアックらが繰り広げるドタバタ劇とスピーディで乱暴でシニカルな会話で成り立つ、前衛コメディ劇のようなお話である。最後にオチもある。
解説を私流に解釈すると、パターン付いていて暗くて鬱で重かったフランス文壇に爽快感を吹き込んだ作品、とのこと。確かに破壊的である。
ちょっと怖いけど、映画観てみようかな。
原田マハ「永遠をさがしに」
チェロは男声に最も近いという。カザルスの「鳥の歌」を聴きたくなったな。
高校1年生、梶ヶ谷和音(わおん)の父は偉大な指揮者でボストン交響楽団の指揮者になるべく渡米を控えている。チェリストでかつて和音に厳しくチェロを教えた母は4年前に突然、離婚で家を出て行った。いまはチェロを弾かなくなった和音の前に、突然、新しい母を名乗る真弓が現れる。
チェロへの打ち込み方、また物語の成り行き、は、どうしてもジャクリーヌ・デュプレを思い出す。私は大好きだ。特にチェリビダッケとの録音が。
親子関係、友人、輝く未来、そして音楽への祝福で溢れる物語である。
原田マハは、「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」という絵画ものの佳作があるが、音楽はどう斬っているのかな、と思って手にした。確かに、多少共通するところはあるようだ。なんか芸術の背骨的な、文学の感覚。クラシック雑誌やパンフレットに載っている、音の表現はものすごくバリエーション豊かで、どこか異世界。そんな感覚も漂わせている。私なんかが言っても説得力はないが(笑)。
ちょっと、設定と感情的な展開が、ところどころうまく自分の感覚とは、ずれているような気がした。うーむ。
もちろん、苦難も不幸もあるのだが、輝かしい感じがふんだんにする、音楽小説だ。ある意味十分に女性的な。
佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」
私小説作家と呼ばれている佐伯一麦。そこはよく分からないが、まずまず心に来る佳作。三島由紀夫賞。
17才の「ぼく」斎木鮮(あきら)は、通っていた進学校を中退し、中学の同級生、上杉幹と、彼女が産んだ女の子、梢子と暮らしている。職業安定所に通い、面接を重ねるが上手くいかない。ある日鮮は、公園の街灯を交換していた沢田に、働かないか、と声をかけられる、
佐伯一麦は、私が尊敬する文芸女子に教えてもらった作家さんで、いつか読もうと思っていた。時代の匂いは濃いし、クセもあるが、全体に残るいいものがある、それは、生の実感だと思う。
ストーリー的には、仙台を舞台に、あちこち揺れながら、希望と暗さを共存しながら進んで行く。コンパクトで、我々の世代が想像できる昭和の光景も懐かしい。かの文芸女子もそういえば仙台の人だったな。
方程式どおり行きそうで、そうでもない。小説って面白いな、と感じる平成3年の作品。最近のものもまた読んでみようかな。
深緑野分「オーブランの少女」
「戦場のコックたち」で飛び出した新鋭のデビュー作。ミステリーというか、様々な、少女を主人公にした物語の短編集。
フランスの庭園、オーブランで、管理人の婦人が、狂った老女に殺される事件が起きる。通報者となった作家は、3年後、殺害直後の光景を見ていた娘が、事件直後に自殺した被害者の妹から手渡されたという日記を読むことになる。(「オーブランの少女」)
いずれも少女を軸として、舞台はヨーロッパ、戦前の日本、想像上の北の皇国とバラエティに富んでいる。いずれも謎があるのだが、基本的に謎は味付けであり、創作した物語を楽しむ作品だと思う。
作風が似ている訳ではないが、稲見一良「ダック・コール」という本を思い出す。そんなに読んでないが、エドガー・アラン・ポーとか、ロアルド・ダールぼいかな。
話は物凄く作り込まれていて、またおっ、と思わせるスパイスも随所にあり、短編集としては上手い、と思わせる。
深緑野分は「戦場のコックたち」が直木賞候補となり、本屋大賞にもノミネートされた。「オーブランの少女」は作家になるきっかけとなった作品だというので、興味が湧いた。
物語がどこに向かってるのか分からない感じもあったが、本全体としてどんなものにしたい、というのはよく伝わる。
残酷な描写もあり、推理小説のような展開もあり。のびのびとストーリーを創っているように感じる。「戦場のコックたち」が楽しみだ。