2016年12月29日木曜日

パパ読書大賞2016!GP読書大賞ランキング




西宮山岳地帯は、年内終業日となったきのう、初雪が降りました。

毎年恒例の、私的読書大賞。

ここまで5年間のグランプリは、


2011年   北村薫「リセット」

2012年   熊谷達也「邂逅の森」

2013年   藤原伊織「テロリストのパラソル」

2014年   朝井まかて「恋歌(れんか)」

2015年  朝井リョウ「何者」


となっていて、5作品のうち4つが直木賞受賞作と、権威主義かつ大河ドラマ的傾向があったのですが今年はちと違うかな。


先を急ぎましょう。今年は131作品を完読しました。2016年のグランプリは!



宮下奈都「終わらない歌」



でした!これまでに比べ、かなり女子系のミニマムな連作短編。好ましいベースで文章力にハマった感じ。実は続編なので「よろこびの歌」というのとセットでお読みになるのをお薦めします。


ではランキング!


1位  坂東眞砂子 「山妣(やまはは)」

2位  森絵都「宇宙のみなしご」

3位  島本理生「シルエット」

4位  米原万里

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」

5位  北村薫「八月の六日間」


6位 原田マハ「ジヴェルニーの食卓」

7位 佐藤多佳子「サマータイム」

8位  村田沙耶香

「しろいろの街の、その骨の体温の」

9位 近藤史恵「キアズマ」

10位 瀬川深

「チューバはうたうーmit  Tuba」


11位白石一文

「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」

12位 野崎まど「【映】アムリタ」

13位 岩城けい「Masato」

14位 長野まゆみ「天然理科少年」

15位 伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」


16位 江國香織「つめたいよるに」

17位 坂東眞砂子「旅涯ての地」

18位 重松清「赤ヘル1975」

19位 芦原すなお「青春デンデケデケデケ」

20位 佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」


1位 「山妣(やまはは)」は、迫力はピカいち。妖しくもあり、心に残った。2位「宇宙のみなしご」は打って変わって児童小説。これも、面白く感慨深い。3位「シルエット」は、あまり深くない恋愛小説だが、煌めきが良かった。4位「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は独自の経験と激賞されるべき筆力。5位も、女性的、人生的で面白かったと思う。他にも魅力的な作品はたくさんあった。


来年はどうなるかな。また、読むぞ。


なお、息子の年齢を鑑みて、「パパ」読書大賞というタイトルは今年限りとします。来年は、なんか考えます。ではでは。

パパ読書大賞2017!各賞





今年もやってまいりました。年末恒例、パパ読書大賞!まずは各賞の発表です。私の読書に彩りを加えてくれた作品たちでーす。

画像は【表紙賞】の「ナラタージュ」いままた売り出してますな。では行ってみましょう!



【スポーツジャンル賞】


黒田博樹「決めて断つ」

岡崎慎司「未到」


黒田は、素晴らしい投手だ。広島に復帰した時、高年俸のメジャーを蹴って「男気」と言われたが、その理由が全て書いてある。


岡崎は、今年の大ニュース、レスターのプレミアリーグ制覇の過程を1ゲームずつ本人が振り返り、忸怩たる思いを吐露する。ストレートで、良かった。


【世界史歴史もの賞】


塩野七生「コンスタンティノープルの陥落」

                                       ほか3部作

ピエール・ブリアン

「アレクサンダー大王 未完の世界帝国


ヨーロッパキリスト教的世界vsオスマントルコの激戦3部作。2つめの「ロードス島戦記」が一番まとまってたかな。


アレクサンダーは、憧れのイスカンダル。初めて詳しく読めて、良かった。誰か小説にしてくんないかな。


【クセのありすぎる紀行もの賞】


坂東眞砂子「聖アントニオの舌」


魔女伝説とか、夢の中で戦うベナンダンティの話とか、ちょっと変わった話を確かめに、けっこう辺境を旅するもの。意外に面白かった。


【いいね!ミステリー賞】

久住四季「星読島に星は流れた」


なんか、現代の、ロマンティックかつ粋な推理小説、といった感じでなかなか良かったです。はい。


【美術エッセイ賞】


江國香織「日のあたる白い壁」


多くは語りません。美術にちょっと関心がある人は、読んでみましょう。いやー、これで江國香織を見直した。思い出深いメアリー・カサット展。後でブックオフの100円コーナーで見かけた時はちょっとガクッときたけども(笑)。


【ワイルド過ぎます賞】


久保俊治「熊撃ち」


年代的に猟師になるのも、珍しくはないかもだが、娘さんたちに同行させ、獲った鹿肉を食べさせてたって、凄いなあ。犬との友情にホロリ。


【解説が面白かったで賞】


綾辻行人

Another エピソードS

森見登美彦「太陽の塔」


ちょっとマニアックな賞を。アヤツジは、文豪ストレイドッグスを書いている方の「新本格の始祖ぞ!現人神ぞ!」というのに笑えたし、「太陽の塔」は本上まなみの解説がかわいく、心に残った。


いかがでしたか?少しでも読書に対する興味の素になってくれれば、こんなに嬉しいことはありません。次回はいよいよ、グランプリとランキングの発表です!

2016年12月26日月曜日

クリスマス3連休







このパターンは曜日回り的にとてもいい。来年またずれるのが残念。


さて、飲み会なぞ入れず年内ラストスパートで仕事を飛ばして3連休。


クリスマス・イブは何をしたかというと、三木へ女子サッカーのインカレを観に行った。朝一番に出てまず梅田。アニメイトに行ってこの日発売のハイキュー!バボカ最新版を買う。アニメイトはこの日、くじの日で、開店前から行列が出来てて、レジへたどり着くのに時間がかかった。しかも並んでるの男ばっかし。


すぐにりくろーおじさんの店でケーキを買って、阪急に乗る。三ノ宮で降りて昼ごはん。出来たばかりの、狭いがかわいらしい喫茶店を発見しカレーライスを食べる。男のマスターと2人、わやわや話をした。ファミマでハムマヨ買って行く。経験から、今から行く運動公園の周囲には全く何もないと分かっているし、寒いから、食料キープ。


新開地から神鉄で押部谷。兵庫県の北へ向かう。かつての経験から、ロータリーやバス乗り場がある隣の緑ヶ丘駅で降りてもバスもタクシーも来ないと分かってるからひと駅前で降りる。


着いてみると、陽が当たっていればそこそこ暖かい。とはいえ山の中、風は冷たく、シャツの下に来た薄いタートルネックのセーターの暖かさに安心する。三木総合防災公園は立派なメインスタジアムの他にサッカーコートが4面もあり、トーナメントを一気に消化するには最適で、女子サッカーは大学も高校も全国大会をやっている。


しかし広い、広すぎる。今回同時キックオフの試合の2チームの監督さんがお知り合いで、2つのピッチを往復したが、それぞれ広大な公園の端と端なので、ものすごく体力を使った。まじゴルフカートが欲しかった。女子サッカーではよくある事だが、片方は大量リードだったので、接戦の方を主に応援。来年なでしこリーグのトップクラスへの入団が決まっている選手が切り返しからものすごいミドルシュートを決めて同点にしたまでは良かったが、その後リードされて時間が進むと、少しずつ判断が危うい場面が出て来て、ダメ押しとなるゴールを浴びて負けてしまった。


もう片方の試合は、大きく速いアタッカー陣と、小さいががっちりして動きが素早いボランチを擁して、快勝だった。


過去お仕事をご一緒した方が、関西に来る珍しい機会だから、三木まで出掛けて行くのだが、私はどうして女子サッカーを見続けるのか、なんて帰りの電車で考えてしまった。


うーん、あまり深くは語るつもりもないが、女子サッカーは「もろい」というのがひとつ。2011年のワールドカップで優勝したものの、すでに忘れられ、なでしこリーグなんて皆知らず、ほとんどの選手は働きながらサッカーをしている。リーグの下位チームなんて見向きもされない。そして、内的な要因もたくさんある。私が気にかけなきゃ、なくなってしまうかも、という大仰な気持ちがちょっとある。


一方で確実に女子サッカーの裾野は広がっているな、とインカレを観に来ると実感できる。またかなり間近でプレーや監督の采配、応援などを観察でき、なんとなくそのチームがまとっている空気で環境が見えたりするから、とも言える。


まあ、じっくりとサッカーに向き合う機会、というのがふたつめ、とも言えるかな。現場の雰囲気は好きだし。人は少なくて集中できるし。


帰り道、ちょっと疲労を覚える。歩いてちょっとめまいがした。こんなことは珍しい。


25日、クリスマスは日がな1日家に居た。寝坊して遅く起きて行った。息子に、バボカ、あんまりいいカード入ってなかった、と言われて思い出す。サンタさんにはDSのソフトも貰ったはずなので、カードゲームは当面先か。その時分かるだろう。


息子塾中にママベイクドチーズケーキを焼き上げる。こげめも程よく自画自讃。


私は高校バスケットのウィンターカップを観戦。男子の福岡第一vs中部大一が興味深かった。インターハイ覇者の福岡第一は、背は低いが、モビリティに溢れた双子の兄弟がどんどんカットインする。希望を持たせるバスケだった。


息子帰って、骨つき牛にシャンパン、子供はぶどうスパークリングジュースで晩餐。カンパーイと言ってももう息子ノリが悪い年齢。ただベイクドチーズケーキだけは「まあまあ」という最高級のほめ言葉で食べていた。


大人もスモークチーズやクラッカーでしばし酒盛り。こういうの久しぶりで楽しい。


あと何回できるのかなあ、なんておセンチなことも考えちゃったのでした。

2016年12月19日月曜日

沿海州





なんのことはない、私にしては珍しく週3回のペースで2週連続して飲み会が入っていたから、宴会の週・・沿海州としゃれてみただけである。サハリン、にしようかな、とも思ったが、ちょっと発想が飛びぎみかとやめた。


最初は本の話の飲み会。本は好みがあるが、そのギャップを聞くのも面白い。またたくさん貸してもらって、数だけはしばらく本屋に行かなくとも済むくらいになった。


次は女子サッカー関係の飲み会。これは、なかなかメジャーにならない部分、恵まれてない状況を共有していただけに、思い入れのある飲み会。おいしいイタリアン創作料理にワイン、デザートまで食べてもリーズナブルだった。メンバーがまた本読みで、やはり文芸の話題もグッド。


金曜日は高校同窓会の忘年会。私は福岡で、関西に出てきてて消息の掴めている人は20人くらい。うち15人出席と、相変わらず結束が固い。グランフロントだったから、ちょい早く行って、ガリレオ・ガリレイ著「星界の報告」買う。まあ自分で買う本も入れなきゃね。2次会は単身赴任の者が住んでいるマンションで家飲み。みな酔っ払って、第2陣以降はタクシー帰り。


単身赴任と独身は泊まっていったようだが、私は、泊まりだけは許されない主婦さん方と割り勘タクシーで帰宅。これがバブル期だったらぜったい拾えなかった忘年会集中日。なんとか梅田で速攻捕まえて帰った。


私は途中からノンアルコールに切り替えたが、みなすごい酔っ払って、記憶が無い者も続出。笑いにあふれる金晩となった。


土曜日は家でのんびり。万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」読了。よろしき児童風小説。深夜岩城けいの2作目「Masato」にとりかかる。こういうのは作品によるが、かなり早く読めるたぐいのもので、1時間で100ページほど読んだ。


日曜日は髪切って、即帰宅。最近宴会続きということもあって節約モード。出るとお金がかかる。年内マニアな映画もう1本くらい観たいかな。


帰って読書して、甲子園ボウルテレビ観戦して、Yシャツにアイロンかけて、ワンコを散歩に連れ出す。広めの公園までクッキーはバッグに入れて歩く。重い。肩にバッグ紐が食い込む。


オスなら運動も好きで、あちこち動いてマーキングするからペースもつかめるが、メスはマーキングが無いので、まず外の色々な匂いを嗅いで、前に進まない。だから公園まではバッグに入れていく。クッキーも心得たものでさっさと入る。前日は可愛らしい小学生のお嬢ちゃんに「わぁー(カワイイ)」と好評だった。公園通過後は運動の時間で、さっさか歩く。クッキーはなんとか逃れようとたびたび立ち止まるが、その度話しかけて、妥協せず、急ぎ足。クッキーそのうち諦める。まあそんなに大した距離じゃない。


帰ったらもう暗い。電気点けて、読書の続き。息子が肉まん食べながら帰宅。塾行く前に、昼ごはんでカレーパンとドーナツとサンドイッチセット買ってったのにまあ。トヨタカップを観る。


おいおい、柴崎岳を筆頭にアントラーズ大健闘。一時はリードする。全世界生中継、えらいことになった。しかしさすがに追いつかれて延長。そこからクリロナ2発で力尽きる。でも面白かった。よくやった。


Masato」読了。この3日で2冊。まあどちらも長いわけではないのでこんなもんか。興味深かった。親世代への問い掛けか。海外生活の両親がそれなりにインテリでそれなりにダメ、というところが面白かった。子供はどんどん現地になじんでいくのに追いつけない。


さわりだけ息子に話したら、1年生の頃集団登校の面倒を見ていた時にいた、小さな女の子が、アメリカに行って帰ってきてもはや英語ペラペラだという。ほぉーと聞く。小学校では「君の名は」も恋ダンスも普通らしい。さすが6年生。東京時代、隣の女の子が、プリキュア卒業したらもう月9、と言ってたけど。


月日は流れる。これが未来というものかは。

2016年12月12日月曜日

2週連続





土日は2週続けて外出なし、の意味。

火曜日飲みに行って、水曜日カラオケ、金曜日は仕事が遅くなって焼き鳥と帰るの遅い週だった。これは次週も。

この間血液検査の結果発表があり、おそらく会社入ってからNO.1クラスに良かった。ああよかった。これで体重さえ減ればカンペキ。

で、土日は喪中葉書に宛名書いて出して、ハードカバー、原田マハ「暗幕のゲルニカ」読んでしまって、ケイタイゲームをして、犬の散歩行って、シャツにアイロンかけてた。

テレビはフィギュアのグランプリファイナルをやっていたが、女子優勝のメドベデワは新鮮な発見だった。

スコアの上でも圧勝だったが、もう、メドベデワと他の選手は別物の世界だった。他の選手は競技、という感じの演技で、メドベデワ1人がいわゆる芸術、という構成力と表現力だった。手足がほどよく長く可憐な体型、メリハリのついた、静けささえ感じる動き・・ハマった感じのあるまとまり具合だった。17歳、本人もスタッフも、いいところを存分に分かっていて出している感じ。キム・ヨナとはまた違った感覚の天才性。長らく日本の選手が手に出来ていないものを持っていた。

メドベデワはエキジビションの「セーラームーン」が話題先行した印象で、動画も多くアップされていたが、どうしてどうして、チャンピオンにふさわしい華麗な演技。ただもろさも感じたので今後も注目だな。

さて、ふたご座流星群と、夜のつきあいの週。寒そうだ。

2016年12月7日水曜日

なんといっても





だいたい毎週月曜日には更新するように心掛けてるのだが、たまに忘れることもある。

さて、今週末は家から出ず。理由は、節約しようと思ったから。外出すると、お金がかかる。私が用があるのは本屋くらいだが、行くと買いたくなる。ただでさえ歳末は飲み会も多いし物入りなのだ。まあそんなに困ってるわけでもなし、心意気の部分も大きかったけれどね。

で、日曜日の夜、「M-1グランプリ」を観た。初回から全部見てるから、12回目である。

最初の方のアキナ、カミナリは面白かった。去年見て好感を持っていた、スーパーマラドーナが今年も面白く、家族は知らなかったが、家中大爆笑大会。銀シャリと和牛はうまい、という感じだった。

いやー、いいわスーパーマラドーナ。
妻は和牛のツッコミが上手い、と感心しきり。

銀シャリの優勝で幕を閉じたわけだが、妻とも話したし、翌日会社でも盛り上がったが、あのコンビのネタはああでこうで、決勝のふたネタめはそうでどうで、とひとしきり皆漫才評論家になるのが関西。それぞれの意見を持ってるし、勝負のアヤも面白い。マンザイコンペティションでもスポーツみたいな流れはあるもの。あれこれ賑やかに座のネタとなるM-1はやっぱり楽しいな。来年は大ブレイクする芸人を見たい。

土曜日にウェルズ「宇宙戦争」日曜に北村薫「太宰治の辞書」月曜日に江國香織「つめたいよるに」読了。ペース早すぎて両目の真ん中に違和感・笑。

2016年12月2日金曜日

11月書評の4





年末年始は例年読み込むが、単月で読んだ数では初ではないかという14作品。よく進んだし、芸術もの中心で楽しい月だった。12月は、大作が続く。まあ、のんびりやろう。

木内昇「櫛挽道守(くしびきちもり」

父の櫛の技に魅せられた登勢の人生。時代は木内昇得意の幕末。柴田錬三郎賞、親鸞賞、中央公論文芸賞トリプル受賞とか。東京出張の行き帰りで読了。

櫛の歯をのこぎりで引いて作る職人、吾助の娘、16歳の登勢は、母や妹・喜和に台所仕事を手伝うよう言われながらも、ひたすら父の仕事を手伝いに精を出す日々。跡継ぎとなるはずだった弟の直助が急死してから、家族には暗い影が差していた。

幕末の動乱とともに、木曽の山里で、ただ父が引く髪梳き櫛を作る道に邁進する娘、登勢の半世紀である。問屋に翻弄される里の職人の有り様から、櫛引の技術、また女性のあり方を描く物語だ。

決して明るくはないが、考えることを一つ一つ丁寧に書き込んでいる。夫婦、家の有り様やその表現に、女性作家ならではの視点も感じる。久々に、感情的な話をじっくり読んだという気がした。

木内昇は幕末から明治への時代設定で書いた「茗荷谷の猫」、直木賞作品の「漂砂のうたう」を読んで、なかなか特徴を持った作家さんだと思っていた。今回は明治は出てこないが、ある意味頑迷な登勢を軸に、慌ただしい世相と、様々な役回りのキャスト、わかりやすい暗合を使った描き方を駆使した、テクニカルなストーリーとなっている。

決して面白くなかったわけではないが、ちょっとパターン付いてるな、と感じたのと、出来た物語感はあったかな、もっとクセととんがったものを求めたくなった。

梨木香歩「村田エフェンデイ滞土録」

いやーほわほわしてつかみどころのない世界が、一気に緊迫する感覚。ラストは、そのギャップに泣きそうになってしまう。単純なのかいな(笑)。「家守綺譚」と関わっている作品でもある。

1899年、村田は考古学・歴史学研究員として土耳古(トルコ)のスタンブールへ遊学する。下宿先となったディクソン夫人宅には、ギリシャ人のディミィトリス、ドイツ人のオットーの2人の学者仲間と、奴隷のムハンマド、ペットの鸚鵡が住んでいた。村田はムハンマドから、学問を修める人への敬称「エフェンディ」と呼ばれていた。

当時欧米列強の脅威にさらされていた末期のオスマン・トルコで、その世情、若き遺跡発掘仲間との暮らしや数少ない日本人同士の連帯、また不思議な現象などを、独特ののんびりした創造的な筆致で描いている。

この設定と展開に最初ついていけず、正直不思議な世界を描くだけかと思っていたが、どうしてどうして、だった。

話は1908年の青年トルコ人革命、そして第一次大戦にまで及ぶ。そして、村田はやがて、名作「家守綺譚」の主人公、綿貫の家に転がり込む。ゴローも懐かしい。確かに、「家守綺譚」も不思議な話の連続であったから、そのテイストだと思えば合点も行くかも。

梨木香歩は、「西の魔女が死んだ」、「家守綺譚」、続編の「冬虫夏草」、「雪と珊瑚と」、エッセイの「渡りの足跡」を読んだ。好きな作家さんである。未読の「裏庭」「エンジェルエンジェルエンジェル」でも買おうかな〜と思っていたら、あまり見かけないこの作品があったのでパッと買った。

不思議な感じの作品は数あれど、落ち着く、いい感じのするところへ持っていくのは、大した個性だと思う。行き当たりばったり読書、当たったな。

宮下奈都「羊と鋼の森」

透き通ったようなタッチ、思い切った表現、思い通りに行かない道、音楽への愛情。宮下奈都飛躍の作品。本屋大賞受賞作。

北海道の山村に育った外村は、高校2年の時、たまたま学校にあるピアノの調律に立ち合って強い感銘を受ける。高校を卒業し、東京の調律専門学校を出た外村は、あの時の調律師、板鳥さんのいる楽器店に調律技術者として就職する。

表現が、飛ばしている。まっすぐに、透き通って。そのベースに1人の青年がもがく姿がたんたんと描かれている。温かい周囲の人々ともどかしい現実。深く考える、また表現の嵐。

俗っぽさは周囲に任せ、おとなしくて誠実で、まっすぐで、孤独な主人公。仕事の道を追い求めるのは名作「スコーレNo.4」と同じだが、今回はもっと突き抜けた感じがする。ちょっと村上春樹入ってるかな、と思ったりもした。

なんというか、様々な要素がすべて一つの、静謐で熱く締まった明るさへ向かって集約されているような感覚である。こんな言い方も影響されてるな。(笑)。

波が少ないので、ガツンと心が動く訳ではないが、宮下奈都がのびのびとその個性を顕し、ある美しさに到達したことを嬉しく思う。

2016年12月1日木曜日

11月書評の3





東京の夜はシンガポール料理屋でシンガポールスリング。ラッフルズホテルが懐かしい。もいっかい行ってみたいな、シンガポール。買い物とグルメ以外することないけどね。

レーモン・クノー「地下鉄のザジ」

フランス名画の原作版。1959年に発行されるや、たちまちフランスのベストセラーになったとか。いやーハチャメチャさかげんが楽しいかも。

少女ザジは、パリに住む叔父のガブリエルのところに2日間滞在することになる。ザジは地下鉄に乗るのを楽しみにしていたが、ストで駅にも入れない。ガブリエル家を抜け出し、1人でパリの街中に出かけるザジ、それが騒動の発端だった。

私が「地下鉄のザジ」という言葉を知ったのは、原田知世のベストアルバム(私の大学生当時  ちなみに今も持っている笑)からだ。同名の歌が収録されていて、ポップな曲調でサビが「男の子みたいな、街の冒険者♩」と。この歌詞から普通の人が想像するであろうキャラを考えていたが、今回は完全に裏切られたな(笑)。

この物語は、口の悪い少女ザジ、おかまバーでミニスカートを履いて踊るのが職業のガブリエル、タクシー運転手シャルル、小足の給仕女マド、カフェの主人とそのペットの鸚鵡、変幻自在のトルースカイヨン、男好きの未亡人ムアックらが繰り広げるドタバタ劇とスピーディで乱暴でシニカルな会話で成り立つ、前衛コメディ劇のようなお話である。最後にオチもある。

解説を私流に解釈すると、パターン付いていて暗くて鬱で重かったフランス文壇に爽快感を吹き込んだ作品、とのこと。確かに破壊的である。

ちょっと怖いけど、映画観てみようかな。

原田マハ「永遠をさがしに」

チェロは男声に最も近いという。カザルスの「鳥の歌」を聴きたくなったな。

高校1年生、梶ヶ谷和音(わおん)の父は偉大な指揮者でボストン交響楽団の指揮者になるべく渡米を控えている。チェリストでかつて和音に厳しくチェロを教えた母は4年前に突然、離婚で家を出て行った。いまはチェロを弾かなくなった和音の前に、突然、新しい母を名乗る真弓が現れる。

チェロへの打ち込み方、また物語の成り行き、は、どうしてもジャクリーヌ・デュプレを思い出す。私は大好きだ。特にチェリビダッケとの録音が。

親子関係、友人、輝く未来、そして音楽への祝福で溢れる物語である。

原田マハは、「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」という絵画ものの佳作があるが、音楽はどう斬っているのかな、と思って手にした。確かに、多少共通するところはあるようだ。なんか芸術の背骨的な、文学の感覚。クラシック雑誌やパンフレットに載っている、音の表現はものすごくバリエーション豊かで、どこか異世界。そんな感覚も漂わせている。私なんかが言っても説得力はないが(笑)。

ちょっと、設定と感情的な展開が、ところどころうまく自分の感覚とは、ずれているような気がした。うーむ。

もちろん、苦難も不幸もあるのだが、輝かしい感じがふんだんにする、音楽小説だ。ある意味十分に女性的な。

佐伯一麦「ア・ルース・ボーイ」

私小説作家と呼ばれている佐伯一麦。そこはよく分からないが、まずまず心に来る佳作。三島由紀夫賞。

17才の「ぼく」斎木鮮(あきら)は、通っていた進学校を中退し、中学の同級生、上杉幹と、彼女が産んだ女の子、梢子と暮らしている。職業安定所に通い、面接を重ねるが上手くいかない。ある日鮮は、公園の街灯を交換していた沢田に、働かないか、と声をかけられる、

佐伯一麦は、私が尊敬する文芸女子に教えてもらった作家さんで、いつか読もうと思っていた。時代の匂いは濃いし、クセもあるが、全体に残るいいものがある、それは、生の実感だと思う。

ストーリー的には、仙台を舞台に、あちこち揺れながら、希望と暗さを共存しながら進んで行く。コンパクトで、我々の世代が想像できる昭和の光景も懐かしい。かの文芸女子もそういえば仙台の人だったな。

方程式どおり行きそうで、そうでもない。小説って面白いな、と感じる平成3年の作品。最近のものもまた読んでみようかな。

深緑野分「オーブランの少女」

「戦場のコックたち」で飛び出した新鋭のデビュー作。ミステリーというか、様々な、少女を主人公にした物語の短編集。

フランスの庭園、オーブランで、管理人の婦人が、狂った老女に殺される事件が起きる。通報者となった作家は、3年後、殺害直後の光景を見ていた娘が、事件直後に自殺した被害者の妹から手渡されたという日記を読むことになる。(「オーブランの少女」)

いずれも少女を軸として、舞台はヨーロッパ、戦前の日本、想像上の北の皇国とバラエティに富んでいる。いずれも謎があるのだが、基本的に謎は味付けであり、創作した物語を楽しむ作品だと思う。

作風が似ている訳ではないが、稲見一良「ダック・コール」という本を思い出す。そんなに読んでないが、エドガー・アラン・ポーとか、ロアルド・ダールぼいかな。

話は物凄く作り込まれていて、またおっ、と思わせるスパイスも随所にあり、短編集としては上手い、と思わせる。

深緑野分は「戦場のコックたち」が直木賞候補となり、本屋大賞にもノミネートされた。「オーブランの少女」は作家になるきっかけとなった作品だというので、興味が湧いた。

物語がどこに向かってるのか分からない感じもあったが、本全体としてどんなものにしたい、というのはよく伝わる。

残酷な描写もあり、推理小説のような展開もあり。のびのびとストーリーを創っているように感じる。「戦場のコックたち」が楽しみだ。

11月書評の2





東京への行きの富士山は、人生最高級ち美しかった。これはちょっと白が飛んでベタッとしたのと、水平取れてないから不満な写真。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

ちょっと読みたくなった。再読だけど、話は忘れてたな〜。でも、感性に手で触れているようで、いい感じ。童話集だし、息子手作りの栞が合うかなと使ってみた。

クラムボン、で有名な「やまなし」、「いちょうの実」、哀しい「よだかの星」、ちょっと仏教系の「ひかりの素足」そして「風の又三郎」に「銀河鉄道の夜」。先の4編は10〜40Pくらい、最後の2つは70〜80Pほどの作品だ。

最初の3つは、谷川の中の蟹の子、いちょうの実つまり銀杏、ヨタカと、いずれも人の視点でないのが面白い。「やまなし」はどこまでも美しく清冽で、ヨタカは根元的な哀切に溢れる。

「又三郎」は現実のみの話で、「銀河鉄道」はもちろんファンタジー。この2つは、日本の何人の人に読まれたのだろう。

「又三郎」は異界からやって来たような転校生の、岩手の山里で地元の子らとのふれあい、また「又三郎」とあだ名された子がなにかしら不吉なことをもたらす、という不安な感じがよく出ている。「銀河鉄道の夜」は少年ファンタジー童話の王道で、こちらも不吉な予感を感じさせる天の川の旅。ラストがかわいそうで、ちょっと変。

巻末に宮沢賢治の詳細な解説がついている。ほかの著作も読みたくなる。

宮下奈都「終わらない歌」

「よろこびの歌」の続編。好みもあるけど、とてもいい。久々に宮下奈都のいいところが、暴走している。

ヴァイオリニストの母親を持つ御木本玲は、音大の声楽科に通っているが、クラスの中で一番になれず、鬱屈がたまっている。高校の同級生でミュージカル女優を目指し劇団に所属する千夏と行った居酒屋で、成り行きで玲はハッピーバースデーを歌うことになる。(「シオンの娘」)

「よろこびの歌」で玲とクラスメイトだった女の子たち、その3年後、それぞれの視点と状況で、5つのストーリーが物語られ、最後にまた玲と千夏に戻って来る。

宮下奈都は、デビュー作「スコーレNo.4」が私的にスマッシュヒットだった。表現に思い切りがあって、少し引いてみるとなんのことはないストーリー立てなのに、もの凄く引き込まれた。その後数作品を読んだ時には、なにか目指しているものは見えそうだが、小さくまとまっているようにも感じていた。

この作品は、歌、曲が一章ごとに出てきて、章の主人公に大きな影響を与えている。女の子な小さな物語の集積、でもそこには宮下奈都の確固とした感性に従った組み立ての話が、丁寧に、かつ思い切って描かれている。

不思議に引き込まれる感覚が久々にして、ちょっと変な話だなー、と思った中盤の「コスモス」では涙を誘われた。私1人で盛り上がってるんだろか(笑)。

ブルーハーツ好きな人には、必読。作者も大好きだそうだ。私と同い年の作家で、「玲」は私の母と同じ字、というとこにもどこか親近感がある。

紅玉いづき「ミミズクと夜の王」

良いお伽話。ストレートでてらいのない成り行き。でも小説を作っているディテールにちょっと惹かれる。電撃小説大賞。

魔物が棲む「夜の森」に入っていった少女ミミズクは、月の瞳と美貌を持つ夜の王に出会う。ミミズクは彼にあるお願いをするのだが・・。

ちょっと悲しく極端な伏線が引いてあって、それがまたこの話の底をひとつ支えている。登場するキャラクターがそれぞれ魅力的で、分かりやすい。感情的な裏付けがシンプルであり、過剰な演出をしない分、品が良い。

作者を紹介している新聞記事で、このデビュー作に興味を持って探していた。思っていたよりSFチックでもないし、趣向を凝らしたストーリー展開があるわけでもない。しかし力があるお伽話である。

もう少し魔力の活用と説明があると面白いかも、とも思ったが、まあ、すべてを出さないところが、この作品のいいとこなんだろうな。

我孫子武丸「探偵映画」

トリックがミステリー界ではひとつ認められたものとして、他の本で名前を見かける推理小説。復刊版。

映画製作プロダクションのサード助監督、立原は、ベテラン大柳登志蔵のもと「探偵映画」という作品を撮影しているが、ラストシーンの撮影を前に、監督が失踪してしまう。さらに、俳優陣も出資していたことが明らかに。立原は記録係の美奈子とともに監督を探し回るが・・。

この小説の名前を見たのは、米澤穂信の古典部シリーズ「愚者のエンドロール」だろうか。その後もうひとつどこかで目にした。トリックというか手法自体は、映画を見て、犯人を当てる、というものである。

たまたま見つけて、読んでみたが、その手法が何を生むのか、も面白いし、美奈子も含め、映画オタクの人々の考え方もふむふむ、となるし青春ものとしても楽しめる。1990年の作品なので、その時代のにおいもあり、手法だけでなく、全体の色合いもいい秀作か。サラサラ読めた。

オチに関しては、まあなにも言うまい。(笑)でもキレイかな。どうかな、というところ。

我孫子武丸氏は、初読。綾辻行人や有栖川有栖らと新本格を担った作家の1人だと認識している。ミステリーの傑作を検索すると、我孫子氏の「殺戮にいたる病」という作品がもれなく出てくるが、いかにも重そうなので、ちょっとこれ読む前に、作風を知るために読んでみよう、的な気持ちも今回あった。

ふむ、なんか、若い頃を思い出したな。楽しかった。

11月書評の1





今年の11月は、妙に長かった。例年最高に多忙の時期だったからだろう。

中勘助「銀の匙」

書店でよく見かけるので購入してみた。明治の東京。ちょっとホロリとした、追憶文学。

病弱だった「私」は神田から小石川の高台へと引っ越す。伯母におぶわれることの多かった幼年時代、次第に学力、体力双方が上がってきた小学校時代、隣のお恵ちゃんとの思い出と別れ。情緒豊かな東京の情景とともに17才の少年時代までを綴る。

大正元年くらいの著作で、口語体に近いかたちでもあり、最初は慣れなくて難儀した。しかし解説で川上弘美さんも書いている通り、情緒的に書いていない植物や昆虫、そのた当時の風俗などが生き生きと訴えかけてくるような感覚は持った。

伯母さんとの別れのシーンは、胸に迫るものがあった。人生、だなあ、と素朴なやり取りに思った。

夏目漱石の講義も受けていた文人だそうだ。時代を感じるな。

梶村啓二「野いばら」

幕末の日本とイギリス。物語のパターンとしては見かけるが、幕末好きなだけにけっこう楽しく読んだ。日経小説大賞。


香港にいたイギリス軍人のエヴァンズは、生麦事件の直後に日本への赴任を命じられる。外国人への襲撃が相次ぎ、日本の世情は不穏だった。エヴァンズは、世話役である成瀬勝四郎の親族、由紀を日本語教師として迎える。

ストーリーとしては、現代のフラワービジネスに携わる縣(あがた)和彦が、休暇中のイングランド田園地帯でレンタカーがストップし、助けてくれたガーデンつきの館の女主人から、先祖が「できれば日本人に読んでほしい」と注意書きのついた備忘録を預かり、それを読み解く、という形だ。朝井まかての「恋歌」を思い出す。

最初は、あまりの偶然が偶然を呼ぶのにちょっと・・、と思ったが、イギリス人の目線で描こうとした物語の成り行きにけっこう夢中で読んでしまった。生麦事件他の事件で、イギリス本国は態度を硬化、一触即発の状況の中・・である。

先にも書いたように、物語として全体を見ると、映画のような、ドラマのような話である。しかし、分かっていても、高まる緊張感が胸を衝く。そこに、キーワードでもある植物、花、が絡んでくる。時々挟まれるどこか哲学的な文章もスパイスか。モノローグとダイアローグを使い分けた手法もあり、秀作だろうと思う。賞の選考では、満場一致での決定となったらしい。

ちなみに、日経文芸文庫は、最近創設されたらしい。新潮文庫以外で初めて?スピンと呼ばれる栞代わりの紐が付いていて、好感を持った。

江國香織「日のあたる白い壁」

メアリー・カサット展を観に、京都国立近代美術館へ行ったときに買った。絵画と画家の紹介をテーマにしたエッセイ集。画家ごとに作者の好きな絵が1枚〜数枚挿入してある。にしても、江國香織の感じ方、文章力に感嘆したな。

薄い本で、あっという間に読めてしまう。20人余りの画家についてエッセイがあり、それぞれ4ページくらい。古いところではエル・グレコ、カラバッジョから20世紀最高の画家との声もあるバルテュスまで。ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌの有名どころから、ちょっと知らないな、という人も、日本人画家も紹介している。

解説というか、江國香織がその画家と作品に感じることが、理屈っぽくもあるが思索的でけっこう面白く、さらに言えばかわいらしい。とても楽しく読める画評だ。

京都にメアリー・カサット展を観に行った時に買った本。この作品のことは、展覧会の盛り上げインタビューを読んで知っていたが、売店にいきなりあったので、絵を見て満足してのぼせているところに発見したから、その勢いで購入、一気に読みきった。

いや、取っておいて、また読みたいね。美術は、いいね。本当に。