白石一文「翼」
白石作品3作め。好みがどうこうは置いておいて、少し、分かって来たかな、という感じだ。
やはり恋愛、男女の話である。へっ?という感じから、深い感情に行き着く。えーそんなことあるわけないでしょ、から、はあー・・となる。落差を付けている設定が心憎い。舞台は、作者の出身県、福岡・.久留米と浜松と東京である。
光学メーカーのビジネスウーマン、里江子は、熱を出して訪れた病院で、10年振りに、友人である聖子の夫、エリート医師の岳志と出会う。
恋愛小説は、多くの我々世代の男性には、肌に合わない部分も多い。最初に読んだ作品「私という運命について」でも感じたが、相変わらず中盤はだらだらとした書き方だと思う。が、しかし、いくつかの言い回しが引っ掛かる。次第に明らかになるバランスの良いエピソードによって、結果的に、荒唐無稽とも言える論の展開を、そうなのかも、と考えさせるように持って行っている。
直木賞受賞作「ほかならぬ人へ」では抑えていた感があるが、おそらくこれが、本来の姿なのかも知れない。ちょっと春樹色もあるので、どこかで聞いたストーリー、とも思えるが。極端ながら、ミョーに心に残る読後感を覚える作品だ。人は孤独、というボトムは、やはり人を惹きつける仕掛けとして最適なのかも知れない。
2、3日の読書ものとしては最適かも。
京極夏彦「嗤う伊右衛門」
新解釈の四谷怪談。最後は迫力ありましたね。
京極夏彦は、デビューからしばらく人気で、薦められたこともあったが、当時は読まなかった。辛気臭そうで(笑)。でも、この作品がかなりポピュラーに売れたことは知っていた。京極夏彦にしては短いからか?(笑)
長屋に住み大工をしながら糊口を凌ぐ浪人、伊右衛門は、縁あって民谷家の娘、岩の婿になり、役の跡目を継ぐ。岩は病が元で、醜い面相となっていた。
四谷怪談に出てくる人々のキャラクターを、それまでとは全く違ったものにして、ストーリーの筋を通し、迫力を際立たせている。伊右衛門は、昔からの役回りは、道楽者であるが、今回は、融通のきかない、しかし仕事ができる真面目な男として出てくる。他の出演者も、この悲惨な物語においてもなお伸び伸びと、新しいキャラ付けを楽しんでいるかのようだ。
悪役がはっきりしているから展開が早いが、それが解決の恐ろしさを生む。悲惨な、狂気の、そして切ない物語。
このような発想を持ってるだけで、賞賛に値する。なかなか迫力に圧倒された作品だった。
筒井康隆「ロートレック荘事件」
名探偵が登場して、きれいなトリックがあって・・という形ではなく、叙述で、作者が騙しに来た作品。違和感は常にあるものの、フェアではない。しかし、作品に面白みを加える手段ではあるかも。
富豪、木内が、購入したロートレックの傑作を飾っている、巷間で「ロートレック荘」と呼ばれる別荘。集まった人々のうち、若い女性3人が次々と殺される。
けっこう夢中で読んでしまった。いわゆる「館もの」は、凝った作りだったり、内部の経路が複雑だったりするのだが、この作品は四角の建物で、全部の部屋を外側のバルコニーと内側の回廊が巡っているのでシンプルだ。
似たような物語を読んだ気もするが、ちょっとまあ、苦笑程度、テクニカルに過ぎるかな。また、動機が弱いというか、短慮である。だって、今は良くてもそりゃいつかは、と考えたことはいくらでもあるはずだし・・。あとは読んで下さい。
なかなか面白く、分かりやすい話ではあった。
道尾秀介「光媒の花」
道尾秀介ってどうなんですか?と聞かれた際、おおむね私は一言「暗い」と答える。暗いことに間違いは無い。それだけではないけれども。
山本周五郎賞受賞作品。笹の花、光、白い蝶、この連作短編集は、装丁も相まって、自然の明るさを感じさせることがほのかなテーマのようにも感じさせる。
最初のほうは、やはり、とりとめの内容に見える暗い話が続く。かと思うと、中盤以降は、道尾独特の暗さも無い重松清ばりの作品あり、どちらかというと明るいほうへ向かう。
もちろん各短編の中には、前に出てきた登場人物もいて、ちょっとよくある手法もあるが、読者の想像に任せる部分が多い。また、少しちぐはぐにも見える。
でも、暗くても、とりとめがなくても、なんか落ちるものを感じさせるのが道尾秀介。だから何冊も読むんだな。暗いけど。
柳広司「パラダイス・ロスト」
スパイの顔って、想像しづらい。意図的にそうしている、のだろう。おそらく。
今回も、面白かった人気シリーズ。日本陸軍で、「魔王」結城中佐によって率いられた諜報組織、「D機関」。異能を持ちズバ抜けて優秀な彼らの活躍を描く第3作。
時は第二次世界大戦、ドイツが快進撃し、日本がアメリカを攻撃する前夜のお話。ドイツ占領下のフランスで記憶を失ったスパイ、楽園と呼ばれたシンカポールに潜入したスパイ、日本に潜んだイギリス人スパイの逮捕劇、そして、ハワイに向かう客船で、イギリス人スパイをマークする日本のスパイ。
日英同盟が破棄され、イギリスははっきりと日本を敵と意識し、ドイツとアメリカとイギリスの微妙な関係性のベースに、緊張感のある物語が展開される。
知的であり、「死ぬな、殺すな」という旨のもと行動するスパイたちは007のごとく派手ではない。また、当然のごとく起きる誤算をも切り抜ける頭のキレ。さすがに超人的すぎてついていけないところもあるが、顔の見えないスパイたちの活躍は、ドキドキし、スカッとするから不思議である。
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