2014年6月3日火曜日

5月書評の1

週末は東京埼玉へ出張。友人宅に泊まり、大いに語らった。ここのところのストレスも、吐き出してきた。友たちよ、ありがとう。

少し遅くなったけど今月もスタート!

藤田宜永「愛の領分」

直木賞シリーズ、2001年の作品。大人の恋愛もの、しかも結構入り組んでいる、という予感通りの内容だった。

仕立て屋の淳蔵のもとを、かつての悪友、昌平が28年振りに訪れる。昌平の妻、美保子は、かつて淳蔵が恋い焦がれた女だった。昌平の家に絵の家庭教師として出入りする佳世に、淳蔵は惹かれるものを感じる。

先日亡くなった、渡辺淳一氏が解説を書いている。世は「失楽園」など不倫ブームが続いていた頃だったと思う。

物語は、ドロドロだが、分かりやすい。描写も、露骨なところも有るが、それほどとは思わない。ある程度の年齢に達すると過去の恋愛を振り返り、人生に意義付けしたくなるのかも知れない。

淳蔵の息子、昌平・美保子の娘、佳世の父親、確実に迫る老いと病気、などがバランス良く描かれている。分かる気はするが、どうも婉曲で、かつ実感に迫ったり、新たなパワー、というのは見出しにくいなあ、と思う。

ここのところ同じような評価が続いているが、またもうーむ、という感じだった。

柚木麻子「あまからカルテット」

この作家の作品は、マンガみたいではあるけれど、それだけでは無い、面白みもあると思う。

咲子、薫子、由香子、麻里子の4人は、女子中からの仲良し4人組。アラサーの彼女たちは、友人が抱える問題をチームワークと体当たりで解決して行く。

「ランチのアッコちゃん」がベストセラーとなった柚木麻子。テイストはアッコちゃん風でなかなか勢いのある、女子友情解決もの。

料理、食べ物が抜群の存在感を放つ。長すぎずこだわりすぎずもいい感じる 。また、この人は、東京の描写が非常に上手だ。今回もマンガ風で、ラストはハチャメチャに走るけど、それなりにうまく収まっていて明るい。

この路線も好きではあるが、個人的には「フォーゲットミー、ノットブルー」に見られたような、繊細な部分の煌めきを期待したい。そろそろ大作、心に響く作品を描く頃合いだと思う。

有川浩「レインツリーの国」

まだ端緒、といった感じで、もっといけるのにな、となぜか思ったりした。ネタバレするので、もしも今から読む人が居たら、スルーして下さい。

ネット上で出会い、メール交換で盛り上がった伸とひとみ。伸はようやくひとみと会うことに成功したが、彼女の言動はどこかおかしく、伸は、つい怒ってしまう。しかしそれには、理由があった。

以下ネタバレ。

有川浩には、テーマがある。これも、最初はネットの出会いの話に尽きるのかと思っていた。難聴の女性の実態、詳しい状況には、取材の後が見える。大事な台詞を使った章立てもいい味を出している。全体に、女性作家の有川浩の男性感、理想が見える気もする。

うまくいかない部分をだいぶ描いていて、まどろっこしい感がよく出ていると思う。それも狙いだろう。もっと掘り下げることも出来るのにな、とかいう感じの気持ちがあるが、そこは文庫本の最後に、ご本人が、何かを訴える本ではない、と書いている。

思うに、いわゆるページ数も少ないラノベ、は手に取りやすく理解を深めるのに役立つ類のもの、というのを領分として意識している、気がする。

有川浩は、「海の底」「空の中」「クジラの彼」を読んだが、いずれも傑作だった。特に「海の底」は巨大人食いザリガニが横須賀を襲う、というトンデモ設定だが、騙されたと思って読んでみて、と人には言っている。

ふむ、有川浩には、なにかある、という感覚を深めたいい機会だった。善悪とか登場人物の「中間」のところにちょっと興味がある。もっと積極的に読んでみようかな。

掛布雅之「若虎よ!」

エネルギッシュで、興味深い一冊。

元ミスタータイガース、掛布雅之氏による阪神論。GM付育成&打撃コーディネーターに就任し、秋季キャンプから若手選手を鍛えている。

秋季キャンプで若手選手とコミュニケーションを図ったその内容は、とても面白く、コーチングも詳細で興味深かった。阪神という球団の品格についても触れられている。

折に触れ語られる、現役時代のウラ話も、オールドファンとしては唸らせられるものがあった。

私は父の影響で、巨人ファン、江川ファンだった。大観衆の掛布コールの中、チャンスに必ず打つ掛布氏がいかに特別嫌な存在だったか。偉大なスラッガーは野球に対しても、タイガースにも、まっすぐで熱い。

芯が通っていて、野球ファンには実に良い本だった。

NHK「ポスト恐竜」プロジェクト編著
「恐竜絶滅 ほ乳類の戦い」

迫力のある、ワクワクするジャンル。

1億5000万年に渡って大繁栄を誇った恐竜、ディノサウリアは、いまから6550万年前、直径10キロの巨大隕石が、秒速20キロ、つまり時速7万2000キロのスピードでユカタン半島付近に激突した影響で突如絶滅した。

これまで恐竜の陰で細々と生きていた小型生物の哺乳類は、恐竜絶滅後の世界を生き延び、大型に進化、現在に至っている。恐竜絶滅、という幸運が無ければ、我々人類も存在してなかっただろう。

この本は、NHKスペシャルから派生した一冊で、綿密な取材で、恐竜と哺乳類の歴史、恐竜絶滅の際の現象シミュレーションと、その後の哺乳類の、ワニや巨大肉食鳥類との戦い、さらには哺乳類同士の戦い、人類の誕生までを描いている。

そもそも隕石衝突で一気に恐竜が消えてしまった、という地球生物史上の大事件からして凄くワクワクする。

これだけ無数の星が有るのだから、宇宙人は必ず居る、というのは、天文好きがあまねく抱く考えだろう。しかし、人類が高度な文化を持つ、というのは、あまりにも多くの偶然が積み重なっている結果である。だから地球外知的生命体と出会える確率など本当に小さなものだ、という論もある。

後者はロマンが無いが、この作品を読むと、ますます人類の誕生が幸運に恵まれたことがよく分かる気がする。

東京時代、六本木ヒルズに、恐竜展観に行った時に買った一冊。4年も置いといてしまったが、うまく読みたいタイミングでじっくり、面白く読めた。

奥田英朗「イン・ザ・プール」

このシリーズは、ホッとする度が大きい。

精神科医伊良部一郎シリーズの第一作。第二作の「空中ブランコ」が直木賞を受賞している、連作短編集。

トドのような体型をし、発想もわがままな子供のよう、人が注射されてるところを見ることに異常な興味を示す伊良部の元には、おかしな患者が集まる。プール依存症の男、ストーカーの視線が異常に気になるコンパニオン、ケイタイ依存症の高校生・・。伊良部は毎度ハチャメチャな行動に出るが、これは治療なのか?

読んでいると、意外に普遍的な部分があるので、自分もそんなとこあるよな、とかこんなのあるある、とか思ってしまう。そしてムチャな行動の末、うまく収まる。伊良部が変人だから、治療を受けるほうが常識的。だから余計に、患者がおかしくなっている部分がよく見える構成になっている。

なんというか、ストーリーもあまりに強引な成り行きではあるが、きちんと落ちるから、ホッとする。これはこれで名作なのかも、と思わせる。「空中ブランコ」のほうがよりブラッシュアップされている感じだ。2作とも軽く楽しめます。はい。

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