2014年6月3日火曜日

5月書評の2

城平京「名探偵に薔薇を」

本格ミステリ。集中して読めた。

98年刊行の作品で、鮎川哲也賞候補作だそうだ。二部構成で、全く別の事件が同じ毒薬、登場人物、舞台で繋がる作品。出だしがグロで猟奇的だったのだが、展開の派手さを名探偵がきれいに畳んでしまう。第一部の締めは華麗とも言えるだろう。二部はより人間ぽい、探偵の苦悩の物語である。

家庭教師として会社社長の藤田家にに出入りしている大学院生、三橋は、ある日駅で見知らぬ人物に「小人地獄」という言葉を告げられる。やがて、藤田家の社長夫人が猟奇的に殺される。さらに第二の殺人、恐喝が・・。三橋は名探偵として有名な大学の後輩、瀬川みゆきに事件の解決を依頼する。

先に触れたように、第一部の流れは、物証という点では気にかかるが、見事だ。第一部のラストから第二部で、名探偵の苦悩があぶり出されることになる。瀬川みゆきは、どこか北森鴻の蓮杖那智を想起させるが、充分に魅力的で、より退廃的、人間的である。

手掛かりが示されるとはいえ、名探偵の推理はかなり直感的であり、その点が物足りない。派手さと内容が噛み合ってない気もする。しかしま、毒薬といい構成、舞台装置といい、全体の雰囲気といい、いわゆる本格派に浸るのもたまにはいいものだ。

近藤史恵「タルト・タタンの夢」

オシャレ軽いミステリの一種か。行きつけのビストロ持ちたいなあ、なんて考えちゃったりして。やはり料理は大事な要素。美味しい作品です。

ビストロ・パ・マルは、シェフの三舟、相棒の志村、女ソムリエの金子、新米ギャルソンの高築と、従業員が4人しかいない下町の小さなフレンチレストラン。シェフ三舟は無口だが、抜群の料理の腕とともに鋭い推理の才覚を持ち、お客にまつわる不可解な出来事を解き明かしていく。

美味しそうで、明るくて、スマートで、ほっこりする。30〜40ページくらいの連作短編集で読みやすく、そこかしこにフランス料理言葉と、もちろん美味しそうな料理が並ぶ。

テーマになっている料理だけ挙げても、タルト・タタン、ロニョン・ド・ヴォー、ガレット・デ・ロワ、オッソ・イラティ、カスレ、ボンボン・オ・ショコラ、そしてヴァン・ショー。全部分かった方はかなりの食通では?私はサッパリだった。(笑)。

本格推理ではなく、北村薫や最近の柚木麻子のように、身近なことを紐解いていくストーリー。解説にあるように、作家本人も、軽妙でキャラが立っている作品が好きと言っている。その通りの出来だと思う。

「サクリファイス」「エデン」という本格ものも面白かった近藤史恵。この作品はまた、すでに続編も刊行されているようで、また、ハマっちゃいそうなものに出会いました。

アサヒグラフ特別取材班
「ドキュメント 横浜vsPL学園」

自分が観た高校野球の試合でも、凄い、素晴らしい試合だと思う。ピッチャー松坂大輔は、延長17回を投げ抜いた。

1998年夏の甲子園。春夏連覇を狙う横浜は、準々決勝でPL学園と対決した。3回戦まで全試合先発完投、失点わずかに1の松坂は、序盤、PL打線に3点を奪われる。5対5で延長に突入した後、2度リードを許したPLは、執念の粘りで2度とも追い付く。死闘とも言える試合は、延長17回、横浜・常盤の2ランホームランで決着した。

リードし、追い付き、勝ち越し、また追い付き・・というシーソーゲームというばかりでなく、延長17回という長さだけでなく、この高校野球界の強豪同士の対戦には、野球技術の高度な戦い、そして運命のあやとも言える試合の流れがある。取材班のつぶさな取材で、選手の人間的、心理的な部分まで解き明かされていて、とても面白い。

1998年の12月に刊行の作品で当時買い求め、折に触れ読んでいたので再に×5となるくらいの再読だが、何回読んでも、やっぱり興奮する。映像的にも、心に残るシーンが多かった、まさにドラマの連続の試合だった。これだから、高校野球はやめられない。

宮部みゆき「小暮写真館」(2)

宮部みゆきの現代もの。時折クスリと笑いながら、切なく読める。

花菱家は寂れた商店街の、古い写真館をお店部分もそのままに買い取り、移り住む。建物の縁で、高校1年の長男、花菱英一のもとには、心霊写真のようなものが持ち込まれ、英一は調べてみることにする。

これだけでは語れない。基本は家族と友人の物語。男友達のテンコ、女子コゲパン、小学生の優秀な弟、ピカ、不動産屋の謎の女、垣本らと織り成す、青春小説であり、軽いミステリ風味の家族小説である。

宮部みゆきは「火車」「理由」以外読んだことがなかった。世間の評と反対に、私の嗜好とは合わなくて、重いサスペンスと時代劇、というイメージで敬遠していた。

設定が変わっていてちょっと都合の良い部分も多いが、このように軽快で楽しく、しかもボトムの部分で重くて切ない、さらにミステリ仕立ての小説を描くとは、さすがなんだな、と思った。

登場人物が活き活きしていて、関係性が楽しくて微笑ましく、ずっと読んでいたくなる。上下合わせて1000ページ近くあり、途中ちょっと冗長かなとも思ったが、イメージ良く読了出来た。

今後は少しトライする気になってきた。「名もなき毒」「楽園」も読みたいな。

三崎亜記「失われた町」

今回はSFに飛びすぎてるかな。

デビュー作「となり町戦争」が直木賞候補となった三崎亜記。この作品も直木賞候補に推された。

町が意思を持ち、住民が町ごと「消滅」する世界。住民の痕跡を消すために消滅した町、月ヶ瀬へ回収員として派遣されていた茜は、消滅により妻子を失った中西、恋人を失い月ヶ瀬の絵を描き続けている和宏と出会う。

三崎亜記は、デビュー作に好感を持ち、若いな、などと思いながらも次回作を読んでみたい、と純粋に興味を持っていた。今回も「町」というものにこだわる独特の姿勢は続いていると見受けるが、冒頭記したように、ちとSFに飛び過ぎていて、言葉も設定も凝り過ぎて、もうひとつだった。

解明されない、大いなる意思、ということで言えば、なんとなく恩田陸の「月の裏側」を思い出す。

エピローグ、そしてプロローグという章を前後に挟み、7章から成って、少しづつ皆が出会う連作短編のような形。人物もまず魅力的だし、次は何が、というドキドキ感はあるが、特殊過ぎる設定と、答えが用意されなさ過ぎ、というのがあってハマりきれない。

ただ、読ませるものは持っているので、出会えば、次を読みたい気もする。

はらだみずき「スパイクを買いに」

ホッとする、草サッカー物語。

2人の子持ち、40歳の岡村は、人事異動で経験のない営業部へ飛ばされ、アルコールに逃げていた。そんな折、息子の陽平が、好きだったサッカー部を辞めたと聞く。理由を知りたくて、息子のいない中学校のグラウンドに出掛けてみたところ、かつて陽平が所属した小学生クラブのコーチ、真田と会う。真田からおじさんチームでサッカーをやらないか、と誘われた岡村は、行ってみることにする。

草サッカーを通じて、いい出会いをした主人公の中で変化が起き、再生、成長していく物語。万事うまく行かなかった物事が、後半に転がり出す、というもので、まあ予定調和なのだが、その筆致は丁寧で、好感を持った。

おじさん方のキャラも、クセのあるものではないが、普通でなかなか魅力的。いいなあ、草サッカー、という気にさせる。何せもうすぐワールドカップ。サッカーで楽しまなくちゃね読書でした。

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