長友は、インタビューの途中、笑顔で中座を願い出て、泣きに行っていた。
コロンビアに負け、2分1敗で、日本のワールドカップは終わった。私はコロンビアに3点めが入ってから、4年間の旅が終わりに向かっていくのを茫然と見つめていた。
ワールドカップまでの道のりを「旅」と表現したのはトゥルシエだったか。先のワールドカップで敗退した時も感じたが、深い寂しさを感じるとともに、やはり幸せだったのだろうと思う。
私なりに感想をば。
だいぶ以前に書いたこと。アジアカップや親善試合の結果は、ワールドカップには繋がらない。アウェーでヨーロッパの強豪に善戦しても同じ。あえて言えばアフリカ、南米アウェーを多少増やせは、とも思うが。
前回も綴ったことだが、大きな大会では、「入り」を間違えないことが非常に大事。なぜかはくどくど言う必要は無いだろう。初戦は双方硬くなるもの。まずまず力が出せて、引分け以上ならOK。
しかし、ワールドカップレベルの大会で初戦に絶対負けない、ということは今後も無いだろう。初戦を負けても、2戦めで取り返すことは出来る。あまり騒ぎすぎるのもどうかと思う。今回負け引分けでもグループリーグ突破の可能性は最後まで残った事だし。
それを踏まえて現実を見ると、今回の日本の戦いはやはり最初の2試合に集約されるかと思う。
コートジボワールは強いから、と大変心配していたが、相手は硬かったし本調子ではなく、勝てる、もしくは引分けることができるゲームだったと思う。
ギリシャにも、勝つチャンスは充分にあった。初戦負けてもギリシャに勝てば、自力突破の可能性が大きく開けた状況だった。
そのどちらも日本は勝てなかったが、彼我の差は、さほど大きくなかった。勝つチャンスは、あった。それを逃がした、ということを忘れてはならない。選手の責任も大きいと思う。しかし勝つチャンスがあったということは、進歩でもある。
今回は、史上初めて、日本が攻撃的なサッカーにシフトして臨んだ大会だった。点の取り合いを望んだ。数人の評論家が「全敗も有り得る」と言っていた。その状況が訪れた、ということだ。
直前の強化試合うんぬんの議論もあるが、ドイツでは上手くいかなかったことだし、あまり私としては気にならない。
まあその、いくつか不安を持って見守っていた部分はあったし、ワールドカップで見えてきた部分もあったし、批判したいこともある。
ひとつは、自分たちのサッカーがハマった時にはスコア上も強いが、そうでない時は脆く、これまでの試合の結果を見ても非常に不安定だったということ。
もうひとつ、守備の議論が、やはりおろそかになっていたのでは、ということ。親善試合から結果を見れば明らかだ。
さらにはスカウティング。今回のコートジボワールが右サイドバックを張り出させるのは予測出来なかったのか、ということ。そんなことはないはずだ。また、そうなったら、という仮定もしておくべきだっただろう。対応手が無いはずもないし、選手も監督にも、是非とも必要な柔軟性だと思う。
もう少し細かく見て行くと、ひとつ気が付いたのは、ドリブラーは必要だということだ。大久保は点を取って欲しかったが、それでも起用の効果はあった。スピードと球持ちと推進力。ペナルティエリア前で倒されて、いい位置でフリーキックを貰える。以前から、ザックがドリブラーを起用しようとしないのを不自然に感じていたが、ひとつの現実が現れたと思う。
結果が出たから言うのだが、大会へのアプローチが上手かったのはトゥルシエだったと思う。彼もよく選手の入れ替えをしたが、初戦のスタメンは、読みやすいメンバーだった。名著「山本昌邦備忘録」によれば、試合直前にゴールキーパーを替えないか、とスタッフに相談したそうだが、これは周囲が、うまく止めた。ただでさえ、不安の大きな大会ではスタメンは固定したほうが、選手の信頼感、安心感が違う。ようし、となりやすい。
南アフリカの岡田監督は、大会直前にメンバーと戦い方を変える、という賭けに出たが、ここには明確な路線があった。今回も路線はあったが、上に述べたように不安定なもので、大久保のサプライズも含め、時間が足りない部分もあった。攻撃サッカーであれば、芯を担う選手は出来るだけ変えてはならないと思う。
試合の采配部分については、トゥルシエも、初戦先制点を奪われた(奪ったのは今回ベルギー監督のウィルモッツ)際には度を失って「3人交代だ!」と喚いたらしいし、ヒディンクや今回のコートジボワールのラムシのように、これだ、という采配は出来にくいものだ。だから初戦の混乱も、無いのがベストだが、殊更責めようとも思わない。しかし3戦通じて、相手に合わせた感がある。パワープレーについては、もはや小さなことだ。「小さな日本」という発想は面白い、と今でも思う。ただ、何か目に見えやすい、頼る部分は持っておくべきだったと思う。ワールドカップの試合は、重層的な展開を見せる。また、この最高の舞台では、相手もさまざまな武器を持っている。
前回も書いたが、史上最強のメンバーでも、上手く行かないこともある。今回は、アプローチの点で甘さがあった。自分たちのサッカーは何で、その欠点はどこで、ワールドカップという大きな大会で本当に機能させて勝つためには何が必要か、という部分が見えにくかった。
最後に、曖昧なことを。初戦をコントロールするメンタル、負けてもチャンスを生かすメンタルは足りなかったと思う。本当にしょんぼりして、前回みたいに身体を張る姿勢も見えなかった。頼りがいのある、任せておけ、くらいの心持ちが欲しい。相手の戦術で、困ったことになっても、おっと、ちょっと大変な感じになったけど、何とかできる、そう簡単にさせやしないぜ!くらいの頼もしさが欲しい。
さて、今回はこれまでの反動で攻撃に傾倒したサッカーとなった。柔軟性も、結果として足りなかった。でも、それなりの一歩を踏み出した。ザックの功績は言うまでもない。この痛い、痛い体験を踏まえて、また4年の旅が始まる。私は楽観的だ。
フランスワールドカップ後は、それで、これから日本のサッカーをどうするんだよ、となった。ドイツの後も、ではどんなサッカーを目指すのか、となった。しかしどちらも、暗闇の海を照らす人は現れた。監督、選手両方に。今回は、攻撃サッカーの端緒につけた。歩みは遅々としているが、私は進歩していると信じている。
日本代表、おつかれさま。負けてこそ、成長できる。迷い子にならず、4年後に、闘志を燃やせー。
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