2014年2月1日土曜日

1月書評2014の1

昨年も1月は多かったが、今年も15作品17冊。ホームズものが10作品。やっぱ趣味だけあって書き倒してるので、今回は5回くらいに分けてアップします。

M・J・トロー
「レストレード警部と3人のホームズ」

20年ぶりくらいの再読。シャーロッキアン的に大変面白かった。タイトルで分かる通り、シャーロック・ホームズのパロディである。レストレードとは、ホームズ物語に頻繁に登場する、スコットランドヤードの警部だ。

レストレードは、ホームズに、「スコットランド・ヤードではいちばんましな警察官」と評価はされるのだが、最後まで対等扱いはされない。ホームズ物語中では見当違いの犯人を追い掛けたりする「イタチのような顔をした男」として出演する。

ホームズも上から目線で見ているし、レストレードも度々ホームズに対し「私はあなたのように理論的ではなく実際的な人間ですから。」などと皮肉を繰り出す。しかし、ホームズ物語処女作「緋色の研究」から登場、「バスカヴィル家の犬」ではホームズ、ワトスンとともに魔犬に立ち向かい、「六つのナポレオン」ではホームズを絶賛し、「われわれは、あなたを心から誇りに思います。」とまで言ってしまう。ホームズ物語には他にもグレグスンやスタンリ・ホプキンズなど何人もの警部が登場するが、レストレードはポイントとなる場面に立ち会っていて、2人の間には確かに友情を超えた微笑ましいものが流れている。

国会議員の惨殺に始まり、次々と議員や名士がそれぞれ違う方法で殺される。レストレード警部は悪戦苦闘しながら捜査を展開する。犯行の目撃証言などから、スイスはライヒェンバッハの滝に落ちて死んだはずの、シャーロック・ホームズの影がチラつき、ベイカー街では、ワトスンやハドソン夫人がその姿を見かけるのだった。

この物語では、シャーロック・ホームズは、コカイン中毒のイカれた男で、探偵としても限定的な能力しか持っていなかったとされている。この前提は、実はパロディでは珍しくない。主役のレストレードはハードボイルドなキャラクターとなっている。

作中にシャーロック・ホームズ本人のみならず、数々のシャーロッキン的仕掛けがあるのがとても嬉しい。殉死してしまうが、やはりホームズ物語に出て来るブラッドストリート警部、また「名馬シルヴァー・ブレイズ」でホームズと有名な会話を交わしたグレゴリー警部も出演、ディオゲネス・クラブの執事はボスコムという名前である。シェリンフォード・ホームズ、ヘンリー・バスカヴィルの名前も出て来る。各章のタイトルも、明らかにホームズ物語の題名を意識されたもので、最終章などは実際にある短編集のタイトルそのまま「シャーロック・ホームズの帰還」となっている。

昨今ホームズもののパロディ、パスティーシュは数多く書かれてきた。ホームズ本人ではなく、コナン・ドイルがホームズのモデルとした恩師ベル博士や、シャーロック・ホームズの息子、妹、妻、また兄のマイクロフトなどなどを主人公としたものが邦訳されている。最近では、ホームズが「ボヘミアの醜聞(スキャンダル)」で出し抜かれた唯一の女性、アイリーン・アドラーを主人公としたものが書店に並んでいる。そのうち挿絵画家のシドニイ・パジットまで引っ張り出されるんじゃないかと思うほどだ。それとも、もうあるのかな。

私は息子も妹も妻もマイクロフトも読んだが、現在は、出来るだけシャーロック・ホームズ本人が主人公のものしか買わない。キリがないし、正直、ことに女性主人公のものは、あまり好きではない。そもそもパロディ、パスティーシュは、どうしてもオールスターキャストの派手なものになりがちである。

しかし、1989年に発行されたこのレストレードものは、パロディ全体を見回しても、傑作の部類に入ると思う。たまによく分からないジョークはあるが、最後までワクワクするし、時代背景を読み取れるし、シャーロッキアン的遊びはふんだんに散りばめてある。

このシリーズで邦訳、発行されているはずの、「霧の殺人鬼」「クリミアの亡霊」は、ついに見つけられなかった。いつかまた神田神保町のミステリー専門書店に行って探してみたい。

最後に、「名馬シルヴァー・ブレイズ」で、ホームズとグレゴリー警部が交わしたのは、こんな会話だ。

ホームズ
「あの夜(犯行の夜)の、飼い犬の奇妙な行動に注意すべきです。」
グレゴリー警部
「あの夜、犬は何もしませんでしたが?」
ホームズ
「それが奇妙なことなんですよ。」

どういう意味があるかは、作品を読んで下さい。いまや著作権も切れてるし、webで簡単に読めます。ああ楽しかった。没頭できた。

ロバート・L・フィッシュ
「シュロック・ホームズの冒険」

シャーロック・ホームズの、笑えるパロディ、として書かれてある。昭和44年であるから、1969年に日本で発行されたもの。神田神保町で買って、長らく読んでなかった。

シュロック・ホームズは、高名な名探偵である。その型破り、というかハチャメチャな発想で、結果はともかく、なぜか概ね問題を解決の方向へ導く。

まあ人気作だけあって、このような、ホームズをからかうようなパロディは連載中からあったらしいし、私のシャーロッキアン暦にも数多く見かけた。おそらくは、タイトルや原典作品中の要素のもじり、また、オチが結構思い切った感じのものも多く、さらに、ハチャメチャだがなぜか解決してしまうものも多いこと、などが、傑作として認められている理由だろう。

私はまあ、知識として置いておく分にはいいが、お笑いパロディはあんまり趣味ではない。今回、で、本筋は?と何がどう解決したのか分からなかったものもあったし、上記のファクターは認めるものの、ハイ過ぎるなホームズが、やはりもひとつだった。

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