スンマセン、9月書評の3が2つになってて、前回その流れで4にしてしまってるので、今回5を飛ばして6にして、正しいナンバリングに戻します。このブログ、訂正には大した手間がかかります。なのでしません。悪しからず。
花は芙蓉とマメアサガオ、秋やねえ。鹿児島沖の台風14号、けさ「猛烈な」へ発達。コワい〜!!
◼️ Authur Conan Doyle
「The Disappearance of Lady Frances Carfax(レディ・フランシス・カーファックスの失踪)」
ホームズ原文読み24作め。第4短編集「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」より「レディ・フランシス・カーファックスの失踪」です。
芯になるトリックは草創期のミステリっぽい話。シャーロック・ホームズはミステリというよりは物語として捉えているので、トリックが出てくると、逆にちょっと意外な気がしますね。私的には話自体もいつものホームズものとは少し色合いが違う気もします。
さてさて、序盤はワトスンがトルコ様式の風呂に立ち寄ったのを例のごとく見抜いたホームズ。なんでやねん?子どもだましさ、というよく見るやりとりがあります。その後、気分転換ならもうひとつ、とホームズが切り出します。
How would Lausanne do, my dear Watson – first-class tickets and all expenses paid on a princely scale?
「ローザンヌはどうだい?ワトスン、一等車に全ての支払いは気前よく出してもらえるよ?」
Splendid!But why
「すごいな!でもなんで?」
ホームズはわけを語り始めます。
裕福な貴族の直系子孫、レディ・フランシス・カーファックスはあちこちと住まいを変えている、独身の中年夫人で世間知らず。遺産相続の時にもらった高価な宝飾品を、銀行を信用せずにいつも持ち歩いていました。彼女がローザンヌのホテルからの手紙を最後に5週間行方知れずだと、家族から相談があったとのこと。
I have no doubt, however, that your researches will soon clear the matter up.
「しかしながら、君の調査でほどなく事態がハッキリするのは間違いないね」
自分が!と驚くワトスンに、自分は忙しくてロンドンを離れられない、よろしくーと軽く振るホームズ。否応なくワトスンはローザンヌへ向かいます。
ワトスンの単独行は「美しき自転車乗り」そして「バスカヴィル家の犬」など何度か見られます。ホームズ物語の多くは、ワトスンのモノローグで、この形式はワトスンを単独の調査に出しやすくし、逆がない、つまりホームズ単独捜査の詳細がない場合は探偵をより謎めいて、時に超人的に見せることに役立っていると、よく思います。
さて、ワトスン、レディ・フランシスがローザンヌからバーデンのEnglischer Hof、英国風ホテルに滞在していたことを突き止めます。余談ですが「最後の事件」でホームズとワトスンがスイスで泊まったのもイングリッシャーホフでした。
レディ・フランシスはバーデンで伝道師のシュレンシャー博士夫妻と知り合って行動を共にし、ロンドンに出発したことをつかみます。もちろん調査の結果は逐一ホームズに報告していました。そして元メイドに話を聞こうと次に向かったモンペリエで、調査中浮かび上がっていた、彼女をつけ回す男とはち合わせ、格闘となり首を絞められます。
危うし!ワトスン!そこへフランス人労働者に身をやつしたホームズが飛び込み、親友を救いました。都合がついたので、ワトスンが行きそうなところへ先回りしていたのです。
さっそくねぎらい・・ではなくてお説教。「自転車乗り」でもさんざんでしたが今回はもっとひどい。
I cannot at the moment recall any possible blunder which you have omitted. The total effect of your proceeding has been to give the alarm everywhere and yet to discover nothing.
「君がしなかったヘマを思いつかないくらいだよ。至る所で警戒をさせて、しかもなにも見つけられないときた」
ワトスンくん、もごもごと抵抗しますがかないっこありません。ともかく、ワトスンと格闘した男、フィリップ・グリーン氏はレディに恋する昔の知り合いでした。心配して彼女を探していたとのことで、ホームズに紹介されて仲間になり、一行はロンドンに帰ります。ベイカー街には電報が届いていました。
Jagged or torn「ぎざぎざか、ちぎれている」
これはイングリッシャーホフの支配人に、シュレンジャー博士の左耳についてホームズが送った質問の返信でした。
この特徴で、伝道師シュレンジャー博士は、孤独な女性を狙い信仰心につけ込むのが得意なオーストラリアの悪党、ヘンリー・ピーターズ、別名聖者のピーターズ、だと分かります。妻とされている女も一味でした。
いったん途切れた手がかり。しかし1週間後、ウェストミンスター通りの質屋に、レディ・フランシスのものと思われる銀とダイヤのペンダントが質草として預けられたことが分かります。持ってきた男の人相はシュレンジャー、いやピーターズでした。
ホームズはグリーン氏に役割を与えます。その質屋に張り込むことでした。3日めにグリーンが興奮してベイカー街に飛び込んできました。
女が、そろいのペンダントを持って来たというのです。女が質屋を出てから、グリーンは後をつけました。
すると入っていったのはなんと
undertaker's、葬儀屋。グリーンもそれとなく入りました。
遅い、という女に、店員が
It took longer, being out of the ordinary.
「時間がかかってまして。なにせ企画外れの商品なもので」
と言い訳していました。
その店を出て辻馬車に乗った女、ホームズの調べではフレイザーをグリーンはさらに尾行、ブリクストンにある家まで追いかけました。しばらく見張っていてやがて見たものは、家の中へ棺桶が運び込まれる光景でした。
捜査令状を発行するよう促す手紙を持たせてグリーンを警察へやり、そしてホームズ&ワトスンは、一刻の猶予もないとピーターズの家を訪ね、入り込みます。
Thrice is he armed who hath his quarrel just.
「理のある喧嘩なら、力も三倍」
シェイクスピア「ヘンリー六世」のセリフを胸に乗り込んだ2人。
令状がない、と主張するピーターズに、ホームズはピストルを見せて捜索、棺桶を探し当て、開けます。そこにはー
どう見てもレディ・フランシスではない小さな老婆が横たわっていました。
Ah, you've blundered badly for once, Mr. Sherlock Holmes
「大失敗ですな、シャーロック・ホームズさん」
昔の乳母で、救貧院で見つけて引き取ったとピーターズ。そこへ警察が。逮捕しろ!と息巻く悪党に、巡査部長は落ち着いて対応します。ホームズが来ているということは事情があると見て、外へ連れ出し、令状がなくては、とホームズをたしなめ、協力を申し出ます。
ホームズもいったん撤退するしかありません。令状発行は翌日の朝までかかる見通し。葬儀は朝8時から。まんじりともせず世を明かしたホームズは7時20分にワトスンを起こします。
what has become of any brains that God has given me? Quick, man, quick!
「神が授けてくれた僕の脳みそはどうなったというんだ?急げ、ワトスン、早く!」
何かが閃いた様子のホームズは再びピーターズ宅へ。まさに棺桶が運び出されようとしていたところでした。ホームズが叫び、ピーターズが応酬します。
Take it back this instant!
「いますぐ棺桶をもとのところへ戻すんだ!」
What the devil do you mean? Once again I ask you, where is your warrant?
「いったいぜんたい何のつもりだ?もう一度訊くぞ、令状はどこだ?」
The warrant is on its way. This coffin shall remain in the house until it comes.
「令状はもうすぐ来る。それまでこの棺桶は家の中へ置いておくんだ」
ホームズの迫力に押され、担ぎ人夫たちは柩を戻し入れました。ホームズたちは慌てて蓋を剥がします。するとー。
強いクロロホルムの臭いとともに、頭部を脱脂綿に包まれた人の身体が。脱脂綿を外すと、気品ある女性の顔が現れました。あらゆる蘇生の努力のあと、レディ・フランシスは蘇生しました。その時、レストレイド警部が、令嬢とともに到着しましたー。
It took longer, being out of the ordinary.
「時間がかかってまして。なにせ企画外れの商品なもので」
葬儀屋の店員が、ピーターズの妻役の女にしていた言い訳。通常より大きい棺桶、そして入っていたのは小さな老婆ー。ここに考えが至るまで時間がかかった、とホームズは述懐します。
ハッキリ書かれてはいませんが、ようは二重底だったわけです。レディ・フランシスを殺すことまではしたくない2人の悪党たちは、1枚の死亡診断書で合法的に埋葬できるよう、救貧院から老衰の女性を引き取り、亡くなる際に医師に診せていたのでした。ホームズが最初に柩の中を見た時、レディは別室に監禁されていたといたのでした。おそらくホームズは、そこまで考えが及ばなかった、ひょっとして最初の捜索で見つけられたかも知れなかったことに関しても自分を責めていたと想像できます。
さてさて、やりとりは刑事ものサスペンスっぽい、見つからない被害者、棺桶、危機一髪と派手な要素もあります。ヨーロッパ大陸での捜査、ワトスンの単独行、取り違え、突然現れるホームズなど、おなじみの展開もありますね。二重底そのものを暴く場面が入っていないのは、流れとしては自然かも知れません。
なのに物足りなさが残るのは、盗品の処分がちょっと素人くさいことと、やはりわざわざの葬儀かなと。オーストラリアが生んだ名うての悪党にしては甘く、手がかかりすぎている気がしますね。
読みながら単語や構文をけっこういちいち調べています。いずれはドイル英語の傾向でもまとめようかと思わないこともないですね。同じ単語はシリーズ中に繰り返し出てきます。
start ぎょっとする、びっくりさせる
glanceチラリと見る
なんて常連さんです。
ここまで読んできて、初期はやはり訳す方もやりやすくテンポがあるのに対し、晩年の作品は、熟考のあとがうかがえる一方、文章に持って回った言い方が増えるいう感じですね。
もちろん読むごとに訳を悩むフレーズは出てきます。今回、事件が終わった後、失敗したなーと振り返る際のホームズの言葉、なんとなく意味はわかるものの、ちょっと苦戦して、複数の訳を参照しました。
To this modified credit I may, perhaps, make some claim.
「これでおそらくぼくも名誉をいくらかは保てるだろう」
「こんなふうに限定つきても褒められるべきところはあるって、ぼくもいくらかは主張していいんじゃないかな」
まあ余談です。次もまた、そしてしばらく読むごとに悩むでしょうね。
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