2022年9月16日金曜日

9月書評の4

中秋の名月を過ぎても月と木星のきれいなこと。福岡の弟が撮影した、夕焼けと宵の紺がキパッとタテに分かれてる写真。調べたら「天割れ」という気象現象らしい。凶兆でありませんように。台風14号は非常に強い勢力を保ちながら九州の西を北上中。北東進に転じて、福岡と中国地方を縦断、鳥取あたりから日本海に抜ける予想。こちらはたぶん暴風域ギリくらい。強風域の中の方なので危険。逸れること、勢力が弱まることを最後まで期待してます。それてくれー。

ホームズ友の先輩との話題でホームズ関連本棚を整理した。

ひさびさに映画をハシゴ。
カンヌ出品のフランス映画「彼女のいない部屋」
決して観てない人にしゃべらないでくださいというタイプの作品。早朝、母は旅支度、夫と男女の子供たちを残して車で家を出る。仕事で行き詰まって気分転換の家出的小旅行?と思いきや・・とても凝った作りで、ピアノ🎹が実に効果的でした。アルゲリッチも出てきて、ショパンのワルツと協奏曲が聴こえてくる。

最近、〇〇監督作品デジタルリマスター版特集上映というのが多い。もひとつはウォン・カーウァイ監督「欲望の翼」。「恋する惑星」とスケジュールが合わずセカンドチョイス。香港映画が注目された頃ですね。ほか「花様年華」「ブエノスアイレス」今回。

う〜ん正直を言うと、両方なんか足りない感じがあったかな。

若い頃って、ヨーロッパ映画やアジア映画、リバイバルやアメリカの一部の映画なんかが観るたび面白くて8割当たり的な感覚があったけれど、最近はなんかズレを感じたりする。デジタルリマスター版はモノによる。古い分粗さが見えるな、ということもよくある。ここのところ、単館系だけでなくロードショーものをよく観に行ってるのもあるのかも。文句言いですねきょう笑。エイジングでトガりが取れたようで逆に拘ってたりして😅

ただこう、あれこれ考えるのも映画好きの楽しみやね。真剣に観てます。ありがとう優れた作品たち🎬

まあゆっくりホームの神戸を回ったので満足。元町商店街やセンター街、また阪急高架下であっ!というのが3つくらいあった。店がなくなるのも早いし、とかく変化も多い街。

あまりきれいでないけど行くたびいい発見がある古本屋はきょうも当たった。そこ、短パンのじーさま店主?がカウンターで本読見かけでつっぷして寝てて、買っても愛想のひとつもなし。でも当たるから気に入ってたりして😆

ランチは老舗喫茶店元町サントスでアツアツのピラフ。次はホットケーキかプリンアラモードを食べよう。



◼️ウィリアム・シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」

壮大なトロイ戦争を舞台にした当時人気の物語。

昨年に、コルートス、トリピオドーロスが5世紀ごろ?書いた「ヘレネー誘拐・トロイア落城」を読み、トロイ戦争はそもそもゼウスが人口を減らそうとして目論み、トロイの王子パリスがスパルタに行って王妃ヘレンを誘拐したのが直接の原因というのを知った。ヘレンはただの被害者ではなく、フラフラと気持ちを揺らがせて両軍に影響を与える。

さてシェイクスピアのこの物語は先行した物語がすでにあり、当時ストーリーを知らない人がいないほど有名だったとか。シェイクスピアの作品にはほとんど種本があるとはよく知られた事実。今回も人気の話を劇化したということですね。

劇中にはギリシャ側の指揮官アガメムノン、英雄アキレウスことアキリーズ、トロイ側の勇将ヘクター、もちろんパリス、ヘレン、スパルタ王メネレーアス、王女で預言者のカサンドラら、伝説のキャストが登場する。

トロイの王子で武将の1人、トロイラスは神官のカルカスの娘クレシダに恋をしていた。クレシダも彼の求愛を受け入れ、一夜を共にする。しかし未来を見通す力を持ち、トロイを裏切ってギリシャ側についていたカルカスは、貢献の見返りに、捕虜にしたトロイの将軍と娘クレシダの交換を求め、認められる。

辛い思いで別れた2人。クレシダは将たちの人気者となり、一線を越えはしないが護衛のダイアミディーズからの誘惑に駆け引きをするようになる。その会話を、休戦の日に窓外から聞いてしまったトロイラスは自暴自棄となり、戦が再開された翌日、鬼神の勢いでダイアミディーズに撃ちかかっていったー。

トロイ戦争は木馬を用いたギリシャ側の勝利となる。カルカスは正しかったわけだ。

劇の中でのトロイラスとクレシダの存在感は意外に小さく、トロイ戦争の英雄たち、よく知られる伝説を取り上げた叙事的な歴史劇にも見える。アギリース、アキレスは戦わない。劇中には出てこないが、おそらくアギリース、アキレスは愛妾を大将のアガメムノンに奪われたことから戦いに出なくなる、という「イーリアス」の流れがあるようだ。思い上がっているから懲らしめねば、と同僚たちには思われていて、最後のヘクターとの対決も、どうも悪役的。シェイクスピア的に捻っている、と見ていいのかな。

劇はカサンドラが予言した通り、ヘクターがアギリースに倒されて終わる。しかしトロイラスとクレシダのくだりは中途半端なままだし、ブツ切り感もある。

ただ、他の物語では、クレシダのダイアミティーズに対する態度は父の入れ知恵による芝居で、誤解したトロイラスが不実を責め、信じてもらえなかったクレシダが自ら命を絶つという結末のものもあるそうだ。しかし解説に書いてある通り、そうなったらそうなったで、単なる悲恋物語となり、どうもちんまりした感じがする。

クレシダがダイアミティーズに心を寄せるのは生きるための手段とも取れる。私的には「ヘレネー誘拐 トロイア落城」に描写されるヘレンのどっちつかずの態度のニュアンスを汲むものだと感じる。また、いつものシェイクスピアの道化ような、口汚い使用人の言葉が言う通り、女の誘拐が原因で起きた戦争が長引いて多くの兵が死に、さらに男女の問題が起き、とどこまでも戦争はセックス、という見方が効いていて、頷ける内容も含んでいる。喜劇とも言えるかもしれない。



シュリーマンが発見したトロイの遺跡は小アジアの、本当にギリシャの近く。中世ではトルコとキリスト教サイドは長きに渡り激しく抗争を繰り返す。ここではエージャックスとヘクターが従兄弟どうしであるように、どちらかというと行き来を繰り返してきたため同じエーゲ海人?が戦っていたのではと思った。

鮮やかな終結がないし、焦点も絞りにくいためか、問題劇とも言われるらしい。個人的にはトロイ戦争というロマンを俯瞰で見られたからなかなか面白かった。


◼️ 岡本喜八「シャーベット・ホームズ探偵団」

こういうのチョイスしてしまう自分の性向をほんのちょっとだけ愛おしく思っちゃったりするのでした。

こないだ自宅本棚のプチシャーロッキアン的コレクションコーナーを改めて見返した。パスティーシュ等は毎年ハードカバーが何冊か出るけども実はあまり買わないし解説本もだいたい持ってるもので間に合ってるので新規はない。文庫はまあ、あればほとんど買う。減ることはアリエナイ。というわけで少しずつ増殖中。それでも全体であまり多くはないです。


これは、図書館でよくある、お持ち帰りOK本コーナーで見つけた1冊。うーん、いかにも関連は薄そうだけどもついつい持って帰ってしまった。著者は「大誘拐 RAINBOW KIDS」「独立愚連隊」なんかを撮った映画監督さん。

「シャーベット・ホームズ探偵団」
「シャーベット・ホームズ危機連発」
「シャーベット・ホームズの仁義ある戦い」
「シャーベット・ホームズの大冒険」

の連作短編4つが収録されている。表題作の発表は昭和五十八年。いやもう昭和風というか、ハチャメチャなサスペンス風コメディ。

自由業・生田大作は広告代理店を脱サラして、テレビの脚本、コマーシャルの演出などマルチに活躍していたがアラ還の近年は不景気のあおりもあって仕事は少なく、アルバイトをして日銭を稼いでいた。

地元に新しくできたスナックで昔の仕事仲間の女性・トッポと再会、ヘベレケになるまで呑んだ大作はトッポを下宿先の納屋まで送って行き、毎朝のジョギングの途中に寄ることを約束させられる。が、翌日になってみると、トッポは全裸にされた上絞殺されていた。前夜の行動をもとに容疑をかけられた大作は、和田平助、ひっくり返すと助平ダワ、というH刑事の取り調べを受ける。

疑惑を晴らすため、スナック勤めに憧れる妻の秋子、捜査のビデオを撮ってコンテストに応募し、賞金100万円を狙おうとする長男ススム、ロマンポルノのオーディションに落ちたアユミという家族がドタバタのにわか捜査をスタートさせる!結末は・・?

2作めではススムが精力剤のCMに全裸の大作夫婦を出して高額のギャラをせしめようと目論む。大作も秋子も出演を承諾するが、なぜか夫妻は命を狙われるはめになる。3作めはヤクザの抗争に巻き込まれてヒットマンにされてしまった大作の戦友をめぐり、真犯人を炙り出そうとおかしなお通夜をやってみる話。

やがて大作は警察をやめたH氏の探偵事務所で働き、秋子はトッポのスナックを買い取ってママとなり、アユミは女子プロレスラーからプロゴルファーからモデルを目指し途中でFBIからスカウトされススムはザ・ちゃらんぽらんでそれぞれが事件にいい役割を果たす、シャーベット・ホームズ一家の本。

まあスピード感はあるし、おなじみで役に立つサブキャラはいるし、気がついてみれば全作が何らかの形で映像に結びついている。なるほど映画監督さん、気の利かせ方を文筆でも発揮したようだ。

なんかねえ、ホームズとつくと主人公が猫だろうが、中身が聖典とは関係なさそうでも読んでしまうんだけれども、今回もそこそこハマり笑、続きものがあってもいいかも的な気持ちになってしまった。ちなみに、この作品にも喫茶店「イレギュラーズ」というのが出てきて、聖典のベイカーストリート・イレギュラーズに言及がある。カントク、年配のディレッタントという風情も感じるけど、実は相当お好きだったりして。

私も昭和だし、けっこうおもしろかったな、ということでコレクション入りしたのでした。

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