中秋の名月の日、天気いいかなと思ったら迫力のある入道雲が。こりゃやばいかな〜。最近天気変わりやすくて。
◼️ 高野麻衣「F ショパンとリスト」
ピアノの、詩人と魔術師。物語にすると柔らかくなる。
著者はクラシック音楽関係で広く活躍する人らしく、この本は原案を出し朗読劇で自身が書いた脚本をもとにしたものらしい。
ショパンは好きで、多少の背景知識はある。でも、あの、追っかけがたくさんいて演奏を聴いた婦人が失神したという伝説を持つリストとの交友については詳しくなかった。書評でこの新刊文庫を知り、さっそく入手してみた。
ショパンとリストの出会いから、リストの方がはるかに長生きしたその晩年までを綴っている。さながら迸る情熱をぶっつけあっているような、互いの孤独感を救おうとしているかのような熱い友情。天才同士だからこそ分かり合える関係、それがちょっと日本の若者の付き合いのようなイメージも含めつつ描いてある。
焦点はショパンの生涯、とりわけ、なぜショパンは、いまも謎とされている、パリに出て生涯戻らなかったのか、ということ。ここでは一つの解答がある。
まあその、ちょっとラノベ&マンガっぽいのは否めないし、リストの妻マリーのことなぞ消化不良っぽいんだけれども、きらいになれない。
例えば、原田マハの、有名な画家と絵画にまつわる物語が多くの人に愛されているのは、分かっているエピソードをもとにして物語として再構成している効果、というのもあると思う。
史実を追うだけなら新書系もしくはドキュメンタリー。しかし、読み手としてはやはりドラマになり、活き活きと登場人物が動くほうが、その時代の風俗や背景、史実が頭に入ってきやすいし、印象に残りやすい。
手紙がたくさん残っていれば、行動の裏付けが予測でき、実際に残っている言葉か心に重く響くこともある。多少の経験があれば事実とフィクションの見分けはつくので、了解のもと楽しめるものだと思っている。だから、物語化は私にとってありがたい。
今回も、ショパンの若い頃の動きと人間関係、ジョルジュ・サンドとの交際などの描写をきな臭い国際情勢のベースの中で楽しむことが出来たと思う。なによりリストとの仲には興味が持てた。
びっくりしたことに、リストは、ショパンの生涯を執筆している。昨年、72年ぶりの新訳版が出たそうで、さっそく図書館予約した。
これは、楽しみだ。あまり聴いたことのないリストも聴いてみよう。
◼️ アラン・アレキサンダー・ミルン
「赤い館の秘密」
犯罪は暗い、探偵は明るい、屋敷は赤い。
ポイントは動機かも。
入口は江戸川乱歩が選んだ推理小説ベストテン。ちょっと有名ですね。あらためて並べてみましょう。
1「赤毛のレドメイン家」イーデン・フィルポッツ
2「黄色い部屋の謎」ガストン・ルルー
3「僧正殺人事件」ヴァン・ダイン
4「Yの悲劇」エラリー・クイーン
5「トレント最後の事件」E・C・ベントリー
6「アクロイド殺し」アガサ・クリスティー
7「帽子収集狂事件」ディクスン・カー
8「赤い館の秘密」A・A・ミルン
9「樽」F・W・クロフツ
10「ナイン・テーラーズ」ドロシー・L・セイヤーズ
私の場合7と10は未読で、4、6、9はかなり昔に読んだのでもはや忘却の彼方です。Yはなるほど、名作と言われるだけのことはある、と思った記憶があります。他は比較的最近読みました。
江戸川乱歩「妖虫」という作品には、赤サソリ、という犯罪者が登場します。ベストテンには赤が2つありますね。1位の「赤毛のレドメイン家」は不気味さが前面に出て乱歩好みなんだろうなと思わせる一方、ミステリとしてはもうひとつでした。
さて、くまのプーさんを書いた作家ミルンの「赤い館」。光と影が微妙に交錯します。
親の資産を引き継いだ裕福なマーク・アプレット。赤い館と呼ばれる広大な屋敷に、かつて後見人となり秘書のような役割の従弟、マシュー・カイリーと住んでいました。
数人の客を招いて過ごしていたある日、オーストラリアから、一族の鼻つまみ者の兄、ロバートが屋敷を訪ねてきます。マークは不在で、メイドが粗暴なロバートをマークの事務室に通した直後、銃声がー。
一方、たまたま近くを旅行していたアントニー・ギニンガムは、赤い館に滞在している友人のウィリアム・ベヴァリーを訪ねていったところ、銃声がしたといって事務室の扉を叩いていたカイリーを見かけます。声を掛けたギニンガムはカイリーとともに建物を回り込み、フランス窓を破って中に入ります。事務室で射殺されていたのはロバートでした。
行きがかり上、館に留まることになったギニンガムはベヴァリーをワトスンにして、探偵役を務めようと決め、捜査に当たります。
不在のマークは見つかりません。女優、友人の夫人と娘、少佐らの客は早々に赤い館を後にします。警察の捜査からも有効な手がかりは出てきません。メイドはドアの外から「今度はわたしの番だ」というマークの言葉を聞いたと証言しました。
マークが故意に、もしくは暴発事故でロバートを死なせ、逃亡を図っているのか・・?素人探偵ギリンガムは慎重に調査を進めます。決定的な証拠がなかなか出てこない中、ギリンガムは不穏な事情が横たわっていることを感じます。
ギリンガムは生活には困っておらず、人間観察のため、職を転々としている、という設定。捜査はテンポ良く進み、次々と材料が出てきて、犯人も絞り込まれてくるような展開で、そう多くの容疑者がいるわけではありません。
マークが出てこないこと、動機らしきものは少ししか見当たらないこと、がミステリ的ポイントかなと。
特徴としては、なにしろギリンガムとベヴァリー、ホームズ&ワトスンの2人の関係が良好で明るいこと。若いころの光源氏と頭中将もかくや?いやステージが違いすぎるかな。やはり殺人の裏には明るくない事情があるもので、この2人と孤独な犯人という対が際立って見えます。
ラストの方の仕掛けはちょっとしたスパイスが効いています。まあ正直多くの客、ほかの材料からもう少し怪しくできたかもとは思います。犯罪に結びつく流れがやや突飛な感じもしますね。
屋敷の特徴である赤そのものはあまり強調されていませんでした。ちょっと残念。
1921年、「赤毛のレドメイン家」と同年に発表され人気を博したというこの作品、いまのミステリ好きの目で見れば、いわゆるミステリ黄金期の作品たちは、面白い反面、ディテールに抜けがあるようにも見えるもの。今回もギリンガム&ベヴァリーの捜査の進展にずっと焦点があるため、どこかで犯人もしくは他の誰かの逆襲があるかも?なんて考えました。
とはいえテンポの良さ、解決のくだりはスッキリした推理小説、という印象です。あれもこれも、と長くなってもキビシイし。今回はポンポンと出てくる材料が遠いのか近いのか考える、その過程が楽しめる明快な作品、だったかな。
ミステリを書くというと、いや、ユーモアあふれる作品を書いてくれ、と言われ、「赤い館」を発表すると、読者は探偵小説の新作を待っていると言われ・・とミルンはあとがきで嬉しそうに綴っています。探偵小説とはかくあるべし、という論も楽しい。
しかしこの作品の後、くまのプーさんが大ヒットしたミルンは戯曲などそれっぽいものはあるようですが、本格的なミステリはついに書かなかったようです。ギリンガムandベヴァリー、明るい2人のシリーズが読みたかった気もしますね。
今回読んだのは2019年に出た新訳版です。「事務室」は書斎かなやっぱり。ベヴァリーがギリンガムを呼ぶときの「あなた」とともにちょっとした違和感がありました。
ちなみにベストテンの中で色名がついているルルーの「黄色い部屋」は密室トリックものとしてミステリ的なおもしろさを持っています。
「黄色」のスピンオフ部分もあるという続編「黒衣婦人の香り」も買ったけれどいまだ積読で、本編を忘れかけてたりするので両方いっぺんに読むべし状態です。ベストテンの残りを読んで、忘却の彼方作品を読み直して、「黄色」と「黒衣」を読んでやっとコンプリートですね。
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