2021年11月17日水曜日

11月書評の1


◼️ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン「地球人のお荷物」

ハチャメチャなSFコメディ。破壊的パワーで笑える。

トーカ星のホーカ人。ホーカ・シリーズということで2冊にわたっているらしい。ご紹介でシャーロック・ホームズのパロディ「バスカヴィル家の宇宙犬」という短編があると知り読んでみた。笑えます。

哨戒艇の不時着でトーカ星に降り立ったアレグザンダー・ジョーンズ(アレックス)星間調査部隊少尉は、地球そっくりの環境に居た、テディ・ベアのようなホーカ人と出会う。

30年ほど前に地球人類はホーカ人を認識し、教化のために地球の文化・文明をトーカ星に持ち込んでいた。ところが天真爛漫でエネルギッシュすぎるホーカ人は、本で読んだり映像を見たりしたものにすぐ感化され、お芝居の世界を作り上げて、なり切りの楽しみをどこまでも追求する者たちであった。

アレックスが着いたときの話「ガルチ渓谷の対決」では西部劇の世界、続く「ドン・ジョーンズ」ではオペラ「ドン・ジョバンニ」の舞台世界、「宇宙パトロール」では星間宇宙戦争、そして「バスカヴィル家の宇宙犬」ではもちろんシャーロック・ホームズの長編「バスカヴィル家の犬」の世界が模倣される。マンガみたく思い込みとなりきり、現実とのギャップが当然あるがハチャメチャなりになんとか解決していくといった流れ。

おもしろかったのは「ドン・ジョーダン」。アレックスにはタニという大変嫉妬深い美女の恋人がいる。また地球でホーカ人代表団の世話を引き受ける公式ホステスのお色気レディ、ドラリーンがアレックスの部屋でわざわざシャワーを浴びるなどちょっかいを出してくる。嫉妬に駆られれば任務も仕事も関係なくなるタニが押し掛け、ホーカ人たちは覚えたてのドン・ジョバンニにアレックスをはめ込んでオペラの筋もちゃんと絡めつつ騒動を巻き起こす。深いのかそうでないのかは分からない笑。

もちろんもちろん、「バスカヴィル家の宇宙犬」もかなり楽しめた。このハチャメチャなノリは嫌いではない。おとぼけホーカ人のホームズがいてレストレイドもいて、星間麻薬密売人のナンバー・テンがおそらくステイプルトンで、テンを追ってきた星間検察局捜査員のホイットコム・ジェフリイはグレグスンに、アレックスはワトスンにされてしまって、どこかストーリーと役割、アレックスのモノローグが聖典そっくりになってくるのがオモロかしい。

ほかは正直イケイケすぎるのとマネッコする世界のスタンダードな知識が分からないから筋は分かる気もするが行間は読めない、この理解でいいのかと思いながらもスラスラ読み進む、っといった感じだった。

まるで吉本新喜劇を小説化したような。楽しめた一冊でした。


◼️幸田文「雀の手帖」

幸田文100日ぶんの名文エッセイ集。やっぱり好ましい。マイフェバリットの1つ。

幸田文は小説「流れる」「おとうと」「きもの」と読んて、いくつかのエッセイも堪能。小説も良いけれど、やっぱり随筆が抜群だと思う。

読んで明瞭な特徴がまずことば。
「とぱすぱしている」「ごろっちゃら」「からっ下手(ぺた)」「ばっ散らけた」「ぼろっ鳥」「やりてんぼう」「白っ剥げた(しろっぱげた)」

などと、ふだん口にされているのか、感覚的に造ったのかという、しかし語感の良く、ようすがよく分かるようなワードを使う。文章にリズムと新鮮さを与え、なぜか安心感まで漂う。チャーミングだ。

幸田文は幼い頃から家事の手伝いをして、酒屋に嫁に行き、出戻った家では主婦で、父の幸田露伴の死後その思い出を書き綴り文壇に注目された人。

その書き物にはことばばだけでなく、主婦の手仕事感、庶民の雰囲気が色濃く漂う。またユーモアも微笑ましい。

2月を生活周りの音で振り返った「二月尽」、同じく風で鳴る松の音を聴く「木の声」、お手伝いさんのおかしな思い出「気負い」、子どものいたずらを描いた「とうふ」など名文だと思う。「吹きながし」では少女の頃両腕に畳2枚を抱えた時に風が吹いて怖さを感じたというエピソードが出てくる。たくましい!笑

関東大震災に遭い、身体の弱った父を抱えて空襲に怯えた幸田文。この本では時の皇太子と美智子妃のご成婚を悦んでいて、生前母が美智子さんの時は人気がすごかったとよ、とよく言っていた当時の雰囲気が伝わってくる。戦前戦後を歩んだ日本人の感覚が根付いているのを感じ、知らず心を委ねていたりする。幸田文らしくきものを愛する気持ちもほの見える。

「墓参」では毎年墓参の時に行く店の変化、若旦那の縁談から子どもが出来て夫婦ともに貫禄がつくまでを書いている。特に口をきくわけでもないが、「元気かな、あ、元気だ。これでよし」と思うと。自分にもそういう店があるし、こうしたさりげない心情の描写もなかなか小粋だな。

名文の才かそれとも環境か、娘の青木玉も小気味いい文章で幸田文のまた別の面を描き出していて「幸田文の箪笥の引き出し」なぞは味わい深い。

読んでない作品も多いし、まだまだ楽しめそうでとても嬉しい気持ちになる。

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