天気も良くて、朝晩はさむ涼しい。誕生日も過ぎて、秋本番。緊急事態宣言も解除されると言う。
もちろんここまでの自粛の経験もあり、昨冬は波が来たこともあり、節度を持って、動こうかな。
この栗は今夜の栗ごはんになりました。
◼️ 葉室麟「緋の天空」
大仏開眼に力を尽くした光明皇后。藤原氏側から見た権力争い。
光明皇后の話はずっと読みたかった。光明皇后は権力争いの策謀の中で皇后となったためかどうも人気がない。光明皇后発願の国分尼寺、法華寺には、光明皇后をモデルとした十一面観音菩薩像がある。私がこれまで観た中でもNo.1クラスに美しく、興味が湧く。
光あふれる、光明子。光明子の光の部分が読みたかった。
永井路子さんの著作を読み、すっかりファンになって杉本苑子さん、黒岩重吾さんにも楽しませたいだたいた。武士もののイメージがある葉室麟さん。一読し、きっと葉室麟さんも、永井路子さん好きなんだな、いやきっとそうだと思ったりした^_^
権力を掌握して専横するという役柄は敵役となりがちで、藤原氏も例に漏れない。この作品は珍しく藤原氏側から描いている。
主に元明天皇、元正天皇といった蘇我氏系の女たちを扱う「美貌の女帝」を裏返したような物語。
前フリは、長くなる。
いわゆる大化の改新、乙巳の変で中大兄皇子とともに蘇我氏を倒した中臣鎌足は藤原姓を賜る。しかし中大兄皇子が即位した天智天皇の側は壬申の乱で大海人皇子、後の天武天皇に敗れてしまう。鎌足の息子藤原不比等は若い頃不遇だったが、やがてその能力で頭角を表し、娘の宮子を文武天皇へ嫁がせ外戚となる。
その不比等は文武天皇の乳母であった県(あがた)犬養三千代をまた妻として安宿媛が生まれた。安宿媛はやがて幼なじみでもある軽皇子と結婚する。不比等が亡くなって後、不比等の子たち、武智麻呂、房前(ふささき)宇合(うまかい)、麻呂らは政敵の長屋王が左道、つまり邪悪な道を学び国家を傾けようとしている、との密告を受けて館を包囲、一族は自尽した。やがて天然痘が流行り、藤原4兄弟は1人残らず死に絶え長屋王の怨念と言われた。
物語の方は後の聖武天皇や藤原氏の政敵長屋王の息子膳夫、道鏡らは子供の頃からの知り合いで仲良く過ごす。しかし互いに想いがあった膳夫と安宿媛が結ばれることはなく道は分かれていく。長屋王は唐人の唐鬼を使ってさまざまな呪詛を朝廷へ仕掛ける。
高市皇子と穂積親王と但馬皇女の三角関係にも触れてある。但馬皇女は夫の通い婚の時代に自ら穂積親王を訪れ、朝、川を渡って帰るシーン、但馬皇女亡き後、穂積親王が詠んだ歌なども心地よく取り上げており、間違いなく永井路子ファンだと確信する。
時代劇は、多くがそうであるようにエンタテインメント的。その点葉室麟はバツグンだ。おもしろ楽しく読めるし、物語が浅くない感じがする。
十一面観音菩薩立像を見ても、光明皇后の手であるという書を見ても、そこにねじ曲がった色は感じられない。まっすぐで、きれいで、聡明にしか見えない。
長屋王の変やその後の乱、天然痘の大流行から夫の聖武天皇は気弱となり、なかなか平城京には戻って来ずに遷都を繰り返した。そんな中、光明子は夫を支え、大仏発願を提案する。
不比等の勢力伸長の道具に見えたり、長屋王の変のショックが大きく、また聖武天皇は頼りないし、その人格はあまり良い方向にクローズアップされて来なかった気がする。
もちろん出来すぎていると思うけれども、私の望み通りに、光り輝く光明皇后が読めたことは良かったと思う。初めて長屋王のイメージが揺らいだ。
奈良ものはもっと読みたいなっと。葉室麟テイストはとても良かった。一昨年の正倉院展では、大仏の開眼法要に光明皇后が付けていったという装飾具が出ていた・・かな?
また読もう、行こう。
◼️ イタロ・カルヴィーノ「不在の騎士」
戯曲のようで面白い。シェイクスピアのようでも、ギリシア悲劇のようでもある。
本友が推してたので興味を持った作品。設定もなかなか興味深く、おとぎ話っぽくもあり、楽しくもある。
白く輝く甲冑の騎士アジルルフォは戦いの腕前は超一流、ふだんは規律に厳しく、仲間達の手柄話も事実と違う部分があれば容赦なく指摘するカターい男。その実体は甲冑だけで中には人が入っていない生き物だった。疲れない、飢えも渇きもしないアジルルフォ。
父の仇のカリフを倒し、1人前の騎士になりたいロンバルドはサラセン人との戦いで窮地を女騎士ブラダマンテに救われ、惚れてしまう。しかしブラダマンテはアジルルフォに憧れていた。
アジルルフォが騎士の位を得たきっかけは15年前、純潔な乙女のソフロニアを悪漢から救ったことだったが、コーンウォール公の子息、トリスモンドという若者が、自分はソフロニアの子で、だから母は純潔ではなかった、と証言する。
自らの存在意義が揺らいだアジルルフォは盾持ちにと与えられた、少々頭の弱いグルドゥルーを連れ、ソフロニアを探して旅立つ。同じく告白により立場が危うくなったトリスモンドは自分の父がいるはずの聖騎士団を探してやはり出立する。アジルルフォの後をブラダマンテが追い、ロンバルドはブラダマンテの後を追ったー。
時は中世、スペインにもサラセン人がいたと書いてあるのでイスラム教徒との戦いが激しい頃。
まずもってアジルルフォの設定が面白い。中身のいない甲冑が実体。白銀の鎧、几帳面で規律に厳しく、理屈っぽい、空気を読まない性格。戦士として相当強い。後半では女色の誘惑を前にして、小粋な会話術を駆使して女性を退屈させず、手は出さずというそれまではうかがい知れなかった完璧な一面をも見せる。
途中で話の展開に遊びが入ったりする。そして労苦の多い道のりを、というかドタバタ的な経過を経て大団円に向かう。しかし、アジルルフォはー。という流れだった。
すらすら読めて、ちょっと変わったエンタメっぽくておもしろいと思う。取り違え、カン違い風味がシェイクスピアみたいだ。
なかなか興味深く読めました。3部作だそうなので、また読んでみようかな。
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