2021年6月26日土曜日

6月書評の3

バレーボールのネーションズリーグ、日本男子は7勝8敗で16チーム中11位。絶対的エースのオポジット西田が途中ケガで出場できなかった。ただ、女子のレギュラーチームはほぼ同じ顔ぶれで戦ったものの、男子は入れ替わりが多かった。

ブランコーチの考えは。少しうまくいってないなと感じたな。でもまだ積み上げのびしろあると思うホント頑張ってほしい。

◼️ 梶よう子「北斎まんだら」

春画を軸に、北斎、娘お栄、渓斎英泉、高井鴻山が活きいきと動く。ちとエッチ笑。

映画「HOKUSAI」を観に行ってきた流れで、なにか北斎の物語を、と以前メモしておいたこの本を借りてきた。

古希を迎えた北斎と、娘の絵師お栄・葛飾応為と弟子の善次郎・渓斎英泉と長野・小布施の豪商の総領息子で弟子入り志願にやってきた三九郎・高井鴻山のひと騒動。

京で10年花鳥画を修めた謙虚なボンボンの美丈夫・三九郎も、散らかり放題の北斎家では下手とはっきり言われ、下働きをさせられ、善次郎とお栄の情事を目撃し、はては下帯1枚になって吉原の花魁と絡みのモデルをさせられる。

折しも善次郎が北斎の贋作が出回っているのを嗅ぎつける。また、かつて悪行を重ね信州に追いやった北斎の孫・重太郎が江戸に帰ってきているのが分かるー。

あまり詳しいわけではないが、北斎は展覧会で多くの作品を目にしてポケット版画集を買い、解説で北斎の技術の深さや絵画に対してのエネルギーに感嘆した。また朝井まかて「眩(くらら)」で葛飾応為の生涯(大半は北斎とともに生きた暮らし)を読み、また最近原田マハ「たゆたえども沈まず」で北斎らがヨーロッパの画壇に与えた影響について見識を新たにしたりと、私が美術に持つ興味の中心のひとつになっている。

知れば知るほど、北斎は興味深い。映画でも喜多川歌麿、東洲斎写楽、北斎が作品に挿絵を担当した戯作者の柳亭種彦らが描かれていた。

こちらでは、美人画を得意とした英泉のほか、歌川一門や滝沢馬琴らも話に出てくる。主人公が小布施岩松院の天井画などに関わる鴻山、というのも興味をそそる。

主要な画題が春画で、しかもかなり具体的。ベースには男女のまぐわいの匂いが散らされていてアダルト。

助平で軽い善次郎、まじめな三九郎、色気豊かな出戻りのお栄は抜群の腕を持つ。魅力的なキャラクターが活きいきと動き回る。北斎は画狂一徹。父の代筆も辞さず、北斎と共同作業をすることに魅力を感じているお栄と、なぜ自分の絵を描かないのかとやきもきする善次郎と三九郎。展覧会で見た応為の絵、吉原の格子窓のある家へも作中で言及されていた。

映画で北斎は、柳亭種彦の書く妖怪ものに興味を惹かれていた。三九郎が心にしまい込んでいる秘密がそこに繋がっていて、暗合を楽しめた。

北斎は幾何学模様を駆使しているのが1つの特徴。巨大な桶を真ん中に描いた「尾州不二見原」や漁師の網紐と崖の角度が後ろに見える富士山と対を成している「甲州石班澤」などはお気に入りの作品。作中、お栄が三角と丸、対角線で「神奈川沖浪裏」を描いてみせるシーンには心で快哉を叫んでしまった。


梶よう子は直木賞候補にもなった「ヨイ豊」で歌川一門を取り上げているとか。こちらも興味がある。

親娘そろって「画狂人」。北斎・応為関連の本は、先々また探して読むだろう。やっぱりいいね、北斎。

続編ないかしら。


◼️ 小林一男「エルミタージュの緞帳」

美術の本ではなく、NHK特派員の記録。ソ連時代からロシアへの劇的な転換。

ソ連からロシアへの過程の本は思い入れを持ちやすい。あの頃は天安門事件にイラク戦争、そして東欧圏共産主義国家の崩壊、ベルリンの壁開放、少し前には昭和の終了など、ドラスティックな出来事が多すぎた。

特に国際情勢には興味を持っていた時期で、新聞もよく読んだ。ルーマニアのチェウシェスク政権の最期などはショッキングだった。

NHK特派員として10年以上もモスクワ勤務をし、大勢のソ連要人と知り合いとなりインタビューを行ってきた著者が自らの体験談をもとに、当時国の内側から見た姿、ソ連、ロシアで何が起きていたのか、をつぶさに語っている。

ゴルバチョフの登場は華々しく、聡明な指導者のもと、ペレストロイカとグラスノスチでソ連は秘密主義の一党独裁恐怖国家から変わるはず、ソ連と西側の融和は進むはず、と考えた人も多かっただろう。しかし急激な変革は必ず反作用を呼ぶ。

自分の保身を大事とした層が首謀しついにクーデターへ。クリミアに幽閉されたゴルバチョフはエリツィンによって救い出され、両者の力関係に変化が生じるー。

ゴルバチョフも信じ合ってきた仲間、シュワルナゼらを信用しなくなり、旧勢力と妥協する。そしてバルト三国の独立宣言、チェチェン紛争と地域の活発な動きに悩まされ、軍事行動も取る。ここへん会社でもよくありそうですね。

引いて見てみると、ゴルバチョフはその熱意と聡明さによって突っ走ろうとしたが、しかし慎重ではなかった。エリツィンは教養という点ではゴルビーの後塵を拝していたものの、情報と決断力で勝っていた。もともと怨み憎んでいたゴルバチョフ追い落としのため冷酷な策を弄する。

日和る要人たち。権力争いの果てにあったものはソ連の崩壊。民衆はそれまで自分たちは世界で最も進んだ社会にいる、と自信を持っていたのが、実はまるでダメだったことが明らかとなり、真逆のことをしなければならない自信喪失した状態に陥った、というのが興味深かった。

精力的な取材、インタビュー、要人との付き合いもスパイ小説現実版を読んでいるようで、楽しくもある。

ベルリンの壁崩壊ものはいくつか読んできたが、ゴルバチョフのソ連には何が起きていたのか、原因と結果ー。やはり面白かった。またいつか、同じテーマで読むでしょう。

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