2021年6月26日土曜日

5月書評の4

写真は苺の自家製クリームブリュレ。

さて、Bリーグは宇都宮ブレックスvs千葉ジェッツという決勝となった。どちらもインサイドに強みを持っている。

アウトサイドの役者は宇都宮のほうが揃っている気もする。私の今季2推しは千葉だったので当然千葉応援。宇都宮のプレーオフここまでの強さを考えると厳しいな、と思っていた。

宇都宮はBリーグ1年目のシーズンチャンピオン、一方で千葉は2回連続して決勝で敗れている。去年はコロナのため中止。

宇都宮はライアン・ロシター、千葉にはギャビン・エドワーズというインサイドの帰化選手がいる。東京オリンピック代表の帰化枠は1だ。

結果はインサイドのディフェンスが強かった千葉が初優勝。あの強い宇都宮に勝ったことに意義がある。富樫おめでとう!

琉球のココナッツスリーというディープスリーの名手PG岸本、出たらいいところでハッスルプレーをする千葉のコー・フリッピンが印象に残った。高校のバスケ部同級生たちと、楽しいプレーオフ観戦でした。。

◼️ ジョルジュ・シムノン「メグレ間違う」

屈指の傑作だそうで、面白かった!構成の妙と人間心理。

出会いはいつもながら偶然で、地元の古い商業ビルにいらない本、ここに置いて、という本棚がある。どれか欲しいなら1冊50円。なんと入手しにくいメグレものが良好な状態でそこにあって、思わず二度見、ためらわず買った。

読み進むにつれ、著者の意図が感じられ、読み手もハマっていく感じが味わえる。

パリの凱旋門からほど近い、カルノー通りで若い女性が殺された。女性は自分を囲っている外科医と同じアパートの下の階に住んでいて、自室で頭を撃ち抜かれていた。

62歳の外科医エチエンヌ・グーアンは優れた腕を持つ高名な医師で仕事に全てを捧げるタイプだった。周囲に複数の愛人が居て、それを隠しておらず、妻を含む女たちもグーアンの行いを黙殺していた。殺された"リュリュ"ももとはグーアンが手術した娼婦だった。

メグレはリュリュの家政婦、グーアンの妻、リュリュの若い恋人のバンドマン、グーアンの病院、助手兼愛人と聴取するが、グーアン本人にはなかなか当たろうとしない。そして、グーアンからメグレへ電話が入ったー。

ちょっと遠回りの書き方を。犯罪小説には「顔のない死体は身代わり殺人を疑え」というセオリーのようなものがある、と思っている。書き手は身代わり殺人を扱う場合、読者に気づかれないよう、大ネタについて深く考えさせないために策を弄する。他へ注意を向けるため、次々とアクシデント、トラブルなどを発生させたり、ミスリードの方向に引っ張っていったりする、んじゃないかと思っている。残念ながら小説家の友人はいない。。


今回は身代わり殺人ではないが、動機と犯人には深く納得がいくし、すぐにけりがつく。ラストの方に大ヤマ、クライマックスとしてグーアンとメグレの会見を持ってくるところに構成の妙が見える。魅力的な演出だ。

もちろん、おおきな構成のみではなく、メグレ警視ものはいつもながら心理描写にヒタヒタと迫ってくるようなものを感じるし、次々とメグレが話を聴く人物もキャラクターにクセがあってそれぞれ細部まで面白い。

さらに今回はメグレと聴取される側との会話が短くてエスプリが効いていておしゃれ。やっぱシムノンはステキやな〜と思うゆえんの1つでもある。

少しずつ組み上げて行って、いよいよ大物の本丸との会見、と読みながら気分が上がった↑メグレがなぜグーアンを避けていたのか、なにを、どこで間違ったのかがこの会話に盛り込まれている。


天才の所業は認められるべきもので、犯罪でもないかぎり、何者にも邪魔はできない。パリのブラックジャックともいえる医師は世間並みの葛藤を感じない立ち位置にいる。

映画やテレビドラマでもあり得そうな、でも読み物としては本当に興味深い成り行きに、惹きつけられました。

後で詳しい方の書評を読んだら屈指の傑作とのこと。偶然入手した作品にしてめっちゃラッキーでした。メグレものは面白い、がスタンダード。まだまだシムノンの魅力に浸りたいのでした。



◼️坂口安吾「夜長姫と耳男」

青空文庫de坂口安吾、3つめ。傑作の評価、楽しみに読んだ。

気が強く、どこか夏目漱石の坊ちゃんを思い起こさせるところもある耳男。そのモノローグで語られる。夜長姫への弱さは耽美主義っぽい気もするし、混ぜられるエグさグロさとのミックスが特徴とも思える。ただ、わけ分かるようなそうでないような部分もあるかな。

弱冠20歳の耳男は師匠に推薦され、夜長の里の長者邸へ。長者は耳男を含む3人の匠に自分の13歳の娘・夜長姫の護身仏を作らせ、腕を競わせるという趣向を催そうとしていた。夜長姫は耳男の大きな耳を馬みたいと嘲る。耳男は姫の命により機織りの娘奴隷・江奈古の手で耳を切られるが、大したことないと突っ張る。

耳男は蔵裏に立てた小屋住みで化け物の像を3年にわたって彫り続けた。蛇をつかまえてきて生き血を飲み、血を掘りかけの像にしたたらせ、死骸は部屋に吊るした。

やがてできた像は姫に気に入られ、疱瘡が流行った村では病を退散させるとして崇められた。そしてまた、別の病が流行する。夜長姫は村の人々が病でキリキリ舞いして死んでいくのを嬉々として長者宅の高楼から眺めている。

やがて夜長姫は耳男に大量の蛇を捕って来させ、生き血をすすり死骸を天井からぶら下げる。村人たちの死を願って蛇をぶら下げていると思った耳男は、ある決心を固めるのだったー。

耳男は、姫を恐ろしい人だと思いながらも、思慕の念を持ち続けているように見える。それは、なにか事を起こしたり、強く訴えたりするものではなく、興味深く眺めているかのようでその姫の惹かれる部分への、どこか弱い、コンプレックスのようなものと感じる。

グロな場面を経て、無垢すぎるラストへ。残虐な嗜好を持ちながら、夜長姫はどこかそんな自分から逃れたい気をも発散しているように見える。

同じく説話風の「桜の森の満開の下」に似ているかな。嗜虐的な女に仕える男。「桜」では強い緊張感で張り詰めるところ、人間らしい思い込み、感受性の結果にシンボリックな意味合いを持たせている。「耳男」にはそれがなく、向かうところがわかるような分からないようなだが、全体としてどこか腑に落ちるようになっている。ある女への弱さ、が面白い。男なら誰しも持っているような心持ちと想像される。

一つ一つの要素をあとで考えさせる、ある意味ポストモダンの小説のような気がする。

もう少し読んでみてもいいかな。。



◼️ 朝井まかて「残り者」

江戸城無血開城の日、大奥に残った女中たちはー。

大奥で将軍の寵を競う女たちの話ではなく、1000人もいたと言われる奥女中たちの物語。武家の娘も、町人の子もいて仕事も部屋も細分化されていた。

御台所、天璋院篤姫の衣装係のお針子、りつは道具が気になり、自分の仕事部屋である呉服之間に戻る。もはや大勢いる奥女中は混乱の中退去し、誰もいない、はずだった。

りつは天璋院の愛猫、サト姫を探す御膳所の料理係・お蛸と出会う。さらに雑用を受け持つ御三之間のちか、さらに身分の高い御中臈のふき、皇室から嫁いだ静寛院和宮のほうの呉服之間に勤める京都出身のもみぢが次々と現れる。

針仕事の才を伸ばし、天璋院にも褒められたことのある、中庸なりつ。太りじし、百姓の娘で愚直で素朴なお蛸、武家の出で出世心旺盛な強気のちか、凛として美しくリーダーシップのあるふき、いまや朝廷を戴いた官軍、皇室出身の和宮に仕えることから徳川方の女中たちを上方訛りで馬鹿にするもみぢはまた針仕事に抜群の腕を持つ。

それぞれの仕事、境遇を描き分け、翌朝には官軍が入場する一夜を一緒に過ごす中、なぜ残っているのかへと掘っていく。やがて必ずやってくる、憎き恐ろしき官軍の男たち。静かな前夜に漂う緊張感と信じられなさはどこかブッツァーティ「タタール人の砦」をも思い起こさせる。奉公に専心し、立場を築き、突然居場所を失った女たちの心のうちはー。

庶民的な目線のストーリーで、女たちを描きながら、ペリーが来てから江戸城無血開城への断片的な歴史的事実や島津家の天璋院、騒動の末に降嫁した和宮の周辺事情を挿入している。着物の布地、柄、色ほか身につけるもの、奉公の仕組みやしきたりなど詳しく織り込んでいて、著者のバックボーンの重厚さを感じさせる。

上手な人物設定とバランス、巧みなストーリー展開、持続する緊張感と謎、脱出劇など、うまい、面白い小説だと思う。ラストも爽やか。著者の手練手管に巻き込まれる。

朝井まかては直木賞「恋歌」に感動して以来、「すかたん」「ぬけまいる」といった軽妙な作品、また「阿蘭陀西鶴」「眩(くらら)」などそれなりに読んでいる。好きな題材が多く、楽しんでいられる。

小説的おもしろさはじゅうぶん。川端康成が処女作を超えるのは難しい、と言ったのにも通じるが「恋歌」に並ぶほどのインパクトにはまだ巡りあわないのが正直か。今回ちょっときれいすぎなきらいもあったかな。

まだまだ未読の作品もあるし、朝井まかての世界をこれからも楽しみにしている。

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