2020年11月21日土曜日

11月書評の3






大阪モダン。秋によく似合う。昔このあたりに勤めていて、懐かしさも満載。数年前にプロジェクションマッピングも観に行って、冬にもイルミネーションがきれい。また行きたいけど、人が混む今年はあるのかな。

◼️大久保純一「北斎  HOKUSAI


ベロ藍の美しさ、図形の相似・・。改めて感心のため息が。


カラーの絵が豊富にありお手軽に北斎の世界を堪能できるポケット版紹介本。出た時に買おうと思ってそのまま、最近見かけたから手に取った。やっぱいいですねえ、世界の北斎。


水の表現、幾何学、美人絵、挿絵、風景画など北斎の特徴的なポイントに分けて解説してある。


美人図はこれまで、瓜実顔の細身ばかりかなというイメージがあったが、読んでから見ると、硬質な線に柳腰、着衣の模様と色合いなどに見入ってしまう。そのすっきり、凛とした美しさは部分でもトータルでも強い光を放っている。


そしてやはり風景画。1830年ごろから用いられ始めた舶来の化学顔料「ベロ藍」、プルシアンブルーの濃淡で摺り出した画面の深いこと。こちらでは世界中でもっとも有名な日本美術作品、と打ってある「神奈川沖浪裏」そして「千絵の海  総州銚子」などには改めて歎息。


朝焼けの富士、赤富士の「凱風快晴」に黒富士、「山下白雨」もやはりいい。


北斎が図形の相似を用いていることはどこかで読みかじった気もする。ともかく三角形の相似を用い、真ん中の漁師が網?鵜?を放っている三角と富士の三角がマッチしている「甲州石班澤(こうしゅうかじかざわ)」も見事すぎる。


大胆な構図、形に色使い、幾何学模様なんかにも心酔。数年前、入るまでに1時間半もかかった北斎展で観た絵たちに再開。今度はもっとゆっくり回りたい。所蔵美術館も書いてあるので、行ってみようかな。



◼️砥上裕將「線は、僕を描く」


まっっすぐで、心を揺らす。表現に集中し自分に問いかける。実際の水墨画家が書いた、墨絵と人の物語ー。


大学生の青山霜介は、2年前、17歳の時に両親を事故で失い、会話ができず、ほとんど食べずの生活をしながら、変わり者の友人古前くんらとかろうじて大学とのつながりを保っていた。展示会の飾り付けのバイトに行った際、会場を訪ねてきた老人、水墨画の巨匠篠田湖山と知り合い、なんと直々に教えを受ける内弟子となる。修行中の、湖山の美貌の孫娘・千瑛(ちあき)は祖父の挑発に反発、青山と千瑛は次の年の湖山賞で勝負することになる。



本屋大賞3位で、水墨画の物語と評判良かったからぜひに読んでみたいと思っていた。ただ、最初は少し懐疑的に。展開がマンガラノベっぽいな、と。早さは良かったけど。



しかし、さすが専門の技術と経験に裏打ちされた題材からの発展は面白かった。たくさんの水墨画に触れたであろう、そして画家として考え、会話し、苦悩しただろう、ことがペダンチック過ぎずストーリーに落とし込まれ、魅力となっている。



大学の友人である古前くん、川岸さん、大家の篠田湖山、ふだんはガテン系のお兄ちゃん風、でも湖山の弟子で実力者の西濱、超絶技巧を持ち、でも悩める美青年絵師・斉藤など登場するキャラも非常に魅力的。


そして湖山の孫娘で近寄りがたいほどの美貌を持ち、最初は青山に反発するが、水墨画に対してあまりにひたむきで、青山の心に寄り添うヒロイン、千瑛(ちあき)が光る。青山がおとなしくぼっとした存在だけに対比が鮮やかだ。



深い悲しみと同居する青山は水墨画に打ち込むこと、そして彼を取り巻く人々によって成長してゆく。正直ストーリーテリングとしては手練れではないと思ったものの、でも隠れた技巧がほの見える。まっっすぐ、な展開、ラストも予定調和だけど、その清々しさとみなの邂逅に泣いてしまった。こんなの久しぶり。



青山の心のうちの描写と、湖山や西濱、斉藤が描く際の表現に惹きつけられる。だから読むのに少し時間がかかるが、心地よい集中具合。


映画化して欲しいなと。またサイドキャラなんかスピンオフに最適と思うし、続編を読みたくなる。


余談だが、クライマックスを読んでるときのBGMがチョン・キョンファというヴァイオリニストのベートーヴェンの協奏曲だった。チョン・キョンファの柔らかく繊細なタッチが物語と同じく、心を震わす。この本とともに、おすすめです^_^


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