2020年11月4日水曜日

11月書評の1







磯長の翌日は京都へ。建仁寺で風神雷神のレプリカと綺麗な枯山水を見て、秀吉・ねねゆかりの高台寺、少し南へ歩いて七条の智積院で長谷川等伯一門の国宝を見た。東郷青児の美人画とインスタ映えのゼリーポンチもある、四条河原町の喫茶ソワレも行ってきた。どうかな。

京都は最近通ってだいぶ詳しくなれた。また行こう。

◼️黒鉄ヒロシ「マンガ古典文学  伊勢物語」


黒鉄テイスト健在。懐かしいものと出逢った気がして微笑した。


黒鉄ヒロシといえば、「坂本龍馬」「新選組」「幕末暗殺」という漫画シリーズにはずいぶん楽しませてもらったものだ。NHK100分で de名著」の話をしてて教えてもらった本。即買い即読みでした。


一段ずつ、時折飛ばしつつマンガ化していくのだか、やはり有名な段は序盤に多いかな。

初段、奈良の春日のいとなまめいたる姉妹の話、二段の西の京の女、春の雨。付き合っていた藤原高子(たかいこ)が天皇の后になって元の住まいで嘆く四段「西の対」。


月やあらぬ春や昔の春ならむ

わが身一つはもとの身にして


ですねー。高子を盗んで逃げた芥河の六段、駆け落ちかなわず、京都にいづらくなって東へ、最終的には陸奥へと旅するところがやはりクライマックス。


二十三段の「筒井筒」はあまりよろしくない成り行きだが、やはりみずみずしい。


六十九段はいよいよ斎宮との恋。

八十二段 渚の院は、



世の中に絶えて桜のなかりせば

春の心はのどけからまし。


百六段

ちはやぶる神代も聞かず龍田河

唐紅に水くくるとは


名歌ですねえ。今年こそ龍田川行ってみたい。筒井筒の井戸は実在するらしいのでそちらも回りたいな。


黒鉄氏は動物、今回は狸と馬と猪を解説の導入役として起用しているが、これもおなじみの手法の一つ。また女体の絵を多用するのも特徴。時に忠実に訳し、時にふざける。その絵とテンポの良い進行、台詞回しの文調が面白い。


これだ、と懐かしくなる。暗い、黒い画調も特質。笑いの中にもなぜか説得力があるんだよね。懐かしいものと再会できて嬉しい。このシリーズは作品ごとにマンガ家さんを変えているようだが、黒鉄氏にはもっとやって欲しい。


100分で名著」関連でだいぶ世界が広がっている。あと3回、楽しみだ。



◼️池上英洋 荒井咲紀「美少女美術史」


ちょっと読むの恥ずかしい気もしたが(笑)良書だった。網羅的で楽しい。


タイトルの通り、時代の遷移の解説、その底にある社会史が面白く、また著名な画家の絵を網羅していて、読み甲斐がある。得たい知識が少しずつ積まれている感じで好ましい。


さて、美少女・・ほんとに幼い少女は、そもそも子どもの絵そのものが少なかった。子どもは大人の縮小版とみなされており、絵に描く価値が認められていなかったそうだ。


状況が一変したのは産業革命で、経済的繁栄で、ミドルクラスの人口が増加、郊外に住み都会のオフィスに通う彼らにプライベートな時間を家族に割くようになり、余裕もできた。また、機械化で大量生産が可能となったこともあって子ども向けの商品が急増した。


その社会的変遷をベースに子どもの絵が増えていった、らしい。


最初の方に取り上げられているのはあどけない世代の少女の絵が多い。

ジョン・エヴァレット・ミレイはお人形さんのような幼女を書き、

女流ソフィー・アンダーソンは愛らしい姿を描き、

ウィリアム・アドルフ・ブグローはこれぞ美少女、というイメージに合致する絵を見事に描いた。その瞳には、貧困や信仰心、大人の世界への興味、無垢さの背後に隠れた残忍性というものが垣間見える。


この人たち、いずれも、1800年代後半に活躍した方々。少女像の基本は古典的な写実で、印象派など、アカデミズムへの反発が強くなっていく中、ブグローなどはやがて権威や人気を失い、一時期忘れさられた画家となったと。


「不思議の国のアリス」をはじめとする児童文学での少女の描かれ方、ギリシアのニケ、またプシュケー、パンドラ、アポロンとダフネー、ダフニスとクロエーなどギリシア神話等の少女たちに関する考察はふむふむと読み込んでしまう。


また聖書のマリアについて、では、展覧会で「聖母マリアの少女時代」という作品に感銘を受け名前を覚えたバルトロメ・エステバン・ムリーリョが登場してて嬉しかった。


「真珠の耳飾りの少女」のフェルメール、「読者する少女」で有名なフラゴナールも名を連ねる。


伝説通り首が切り離された遺体が見つかったという、女神チェチリアなど他キリスト教関連の題材や、本書のカバーの絵、ルーブル美術館にあるというヘンリー・レイバーンの「花をもつ少女」、シャーロック・ホームズの宿敵・モリアーティ教授が愛したジャン・バティスト・クルーズの官能的な、セクシュアルな絵も取り上げられている。


さらにさらにやはり入ってくるルノワール、ピュールレ・コレクション行けなくて観れなかった"可愛いイレーヌ"、加えてベルト・モリゾにメアリー・カサットと実に網羅的。


ドガにミュシャ、ロートレック、「ハムレット」の婚約者オフィーリアを題材に好んだウォーターハウス、特徴があって好きなモディリアーニにローランサン、そしてピカソに行き着く。


宗教色からの脱却、富裕階級の肖像画から庶民や貧困層の少女たちへの大まかな変遷を見ながらたっくさん絵を観ました。少女が題材、というのはあどけなさ、可愛らしさだけでなく官能やエロチシズムもやはり入ってくる。


これだけ多くの表現を観ていくとなかなか素晴らしいと思ったり。やっぱり幼い子どもの顔や身体の造作は天与の素材に近くとても可愛らしい。女の子独特のコケティッシュさも眩しく微笑ましい。


こんなに楽しめるとは意外だった。



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