2020年3月29日日曜日

3月書評の6




各地桜がピークに向かおうとしている。

この日曜日、福岡はよく晴れた春の天気、関西は曇りのち晴れだが寒くダウンの気候。関東は積もるくらいの大雪。

東京でコロナの感染者が増え、外出自粛要請。大阪・兵庫の往来自粛が先週の3連休に出された関西は現状維持。そう簡単には収まらない。ただ、もう少しだけでも引き締めないといけないかな。次の稿にも。

◼️清家雪子「月に吠えらんねえ 11巻」


半分くらいしか分かってないけどたぶん^_^納得のいく終わり方だったかなと。壮大で難解な実験的文芸マンガ、ついに完結。


全体の、多分20パーセントくらいしか理解してないのですが、途中で読まなくなることもなく、遂に完読しちまいました。自分でも信じられない思いです。シリーズ完読してるのは、他に詩歌好きの私の文芸師匠くらいしか知りません。さっそく師匠にもLINEしようかと思います。「壮大で難解」とはこの年下の女性師匠の言葉です。


さて、全ての謎が解ける巻。このマンガの大きな軸が、文人の戦争協力、翼賛作品を書いた後悔、ということだった。精神的な意味で軍部とともに国民を戦争に駆り立て、積極的に参加させた、多くの若い兵士達の命を散らし、市民にも多大な被害を与えた片棒をかついだ、というものだろう。また、萩原朔太郎、北原白秋をはじめ主要キャストの一部は戦争終結の前に亡くなっているからよけいややこしい。


日本を舞台にしたカズオ・イシグロ「浮世の画家」では、戦争に協力した画家が戦後敬遠され忌避されるようになっていくさまが描かれている。


うーんこのままやはり良くないことだった、で終わるのかな、と思っていたが、三好達治、ミヨシくんの決定的なセリフは、そうそう、そこそこ、というものだった。


戦争は勝ちと負けで大きく善悪が処を変える。残念ながら。その時、その立場で何が出来たか、というのも大事な想像力だと思うし、時代の雰囲気というのも貴重だ。もちろん、厳しく割り切れない現実が残るのも分かる。


しかしまた、その時代の史観に捉われた判断では結局評価しきれないだろうと思ったりもする。


まあともかく、多くの文人を楽しくキャラクター化し、けっこうわけ分からないながら惹きつけられるドラマを作り、見え隠れする壮大な軸をうまく完結させる力にはほんとうに感服。


この作品が持つ魔力というようなものに憑かれた、楽しい時間を過ごしました。通しで読み返すのが今後の楽しみな課題です。


MVPは、やはり室生犀星、犀さんかな。



◼️篠﨑紘一「万葉集をつくった男」


大伴家持の一代記。聖武天皇以降の時代の小説は新鮮で、好きな万葉集の成り立ちが分かって興味深い。少し怨霊系なところにほっとしたりする。


8世紀後半に成立したと見られている万葉集。全204500首以上の歌が収められているが、うち1割以上の歌が大伴家持作であることから編纂に関わったとされる。


聖武天皇、大仏開眼から、平安京遷都した桓武天皇までの時代。家持は平安京を見ることなく没している。私は聖武天皇までの小説はいくつか読んでいるが、その後を題材としたものは未読で新鮮だった。それにしても、奈良時代の権力争いは本当に黒く血なまぐさい。


イメージ外だったのは、大伴家が代々武門であり、貴族中随一の軍団を擁していたということ。筑紫歌壇を主催した大伴旅人、その息子の家持と官位が高い貴族ということは分かるが、やはり文科系のような印象だった。そういえば、たしかに壬申の乱では大伴吹負たちが活躍していた。


万葉集の編纂を手掛けていた大伴家の氏上(このかみ)、家持は、大仏建立の指揮者・行基に、民に幸をあたえる世とするには、大仏と万葉集、新しい仏法という三つの燈火が必要だ、と諭される。


物語はこの理想を芯として、家持が様々な史上の人物と触れ合いながら奮闘する。叔母の坂上郎女、吉備真備、橘諸兄、若き日の最澄、道鏡、政敵の藤原仲麻呂、藤原種継。皇族は聖武天皇・光明皇后の時代から、孝謙・.称徳女帝、淳仁天皇、光仁天皇、そして桓武天皇である。


さらに熾烈で目まぐるしい政争。橘奈良麻呂の乱、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱、氷上川継の乱、そして藤原種継暗殺事件などなど。こんなに激しい時代だったとはと少し驚き。関与を疑われる家持の骨太の対応を見ると文人貴族というのは勝手なイメージだったと思う。


ストーリーは怨霊系の色合いが強く出ている。政争に敗れ強い恨みを抱いて死んだ者たちの生霊、死霊が、勝ち残った権力者に災いを及ぼす。完成した万葉集もまた神霊性を帯びる。


有間皇子、長屋王ら謀反人の歌が含まれているとして、国の書にしたいならば外したらどうか、という藤原仲麻呂の問いに対し、家持は国人すべての歌を網羅したことにはならない、と反駁し、こう述べる。


「謀反人とされる歌には、当人の荒魂が憑いておる。それを鎮めねば怨霊として天に昇り、毒、撒き散らし、天下に害を与えることになりまする。」


あくまでも物語の、創作の言葉ではあるだろうし、本当に言いたいことは前半だろうとも思うが、私にはこの作品に貫かれている霊性、怨霊系の出来事、さらにこうした物言いがすん、と腹落ちした。合理性を求めるのもいいが、後世の菅原道真の例にもあるように、官民に至るまで、祟りを恐れる気風がある方が多少リアリテイがある気がする。タタリ系をあまり入れるとライトノベル風軽さが増すのも確かだし、そこはバランスだと思うけれども。


父母が頭かき撫で幸(さ)くあれて

言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる

                                      丈部稲麻呂


万葉集おなじみの歌も散りばめられている。謀反人も、防人も、皇族から無名の民まで、日本の東西を貫き、荒々しい方言も含まれ、史実の中の人々の心を網羅している万葉集には、私もまた神霊性を感じるのである。


楽しめた。

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