◼️谷崎潤一郎「細雪」中
阪神大水害でこいさんが・・なにかとこいさん・妙子中心の巻。
「こいさん」とは末娘のこと。冒頭、阪神大水害で消息が分からなくなる四女妙子。なんとか生還を果たすが、職業婦人の地位が確立されていないこの時代、パリに遊学して洋裁を学びたく、本家と資金の交渉をする。一方、言い交わした中の奥畑から心が離れ、丁稚上がりの板倉に恋する。本家との橋渡し役、次女の幸子は振り回されやきもき。東京滞在中には強い台風に遭い、隣のシュトルツ夫人一家ら知り合いの外国人はヨーロッパへ旅立つ。
目まぐるしい展開の中、板倉の妹から急報が・・!
幸子はこいさんの希望を叶えてやりたいながらも、分家としての自分の立場と家柄を大事にする。幸子の心のうちがとつとつと語られる。
中巻らしく、波が逆巻く感のある進行である。途中、銀座や神戸での食事シーンが散らされ、埠頭での別れも彩りか。読んでてやはりどこか源氏物語を想像してしまう。
家が没落しそうになってるとはいえ、この一族の行動にはやっぱり裕福だなあと思う。それとも現代に余裕がなさすぎるのか。
何の予備知識もなく、いよいよ最終巻へー。
◼️谷崎潤一郎「細雪」上
冒頭から3姉妹のにぎにぎしい雰囲気を想像できる。普通で、芳醇な上巻。
最初の場面にすっと入りこむ。出かける用意をしている次女・幸子、手伝う末っ子のしっかり者・妙子、いつも見合いが破談となり卅にして独身、幸子の1人娘・悦子の面倒を見る三女・雪子。舞台は兵庫・阪神間の高級住宅地、芦屋(蘆屋)の幸子夫婦の家。ホームドラマの出だしを見ているようである。
またいかにも関西の女姉妹たちがせわしいときにあれこれとお喋りをする、独特の風情がよく出ていて、登場人物がのっけから多いので関係をつかむのにちょっと考えるけれども、不思議に暖かな雰囲気に好感を持ってしまう。
本家の長女・鶴子は1人異質な感じだが、雪子の見合いを本家の調べの結果断ったり、東京転勤に本来は雪子も妙子も一緒に行くべき、という、本家のどこか異質な印象にマッチしているかな。
物語の中心は次女である幸子。雪子は幸子宅を気に入ってほぼ住んでいるような感じ。運が悪いという未年の女で知らない人の前ではへどもどしてしまう性質で、あまりものを言わず柳のようなイメージで、しかしミステリアスな魅力を感じさせる。妙子は創作の才があり、すでに収入を得ていて、電車でひと駅の夙川にアトリエを持ち、言い交わした男性もいる。うまく書き分けてるな、と感心する。
物語は雪子の2度の見合い、本家の東京転勤を中心に動く。合間に昭和10年代初頭の世情や見合いの際の、あれこれと七面倒くさいやりとりや感情が混ざる、幸子は見合いを挟み流産してしまう。
谷崎の、一文が長い筆致がまた物語によく合う。以前読んだ、与謝野晶子訳の源氏物語を思い出す。そういえば谷崎も源氏を訳していて思い入れがにじむ。
そしてなんといっても有名な、京都、平安神宮や嵯峨の桜のシーンが、季節と関西の雅やかな雰囲気、絆を醸し出す。
上巻から、粘っこいけれど豊かな匂いがして、さらに、サクサクと読める。幸子の家などは、自分の生活圏でよく分かるし、最近廻った京都の、往年の雰囲気を読みながら実感する。
さて、続きはどうなるのか、楽しみに中巻へー。
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