2019年6月15日土曜日

6月書評の3





近畿梅雨入りせず・・のはず。そのおかげでまだ朝晩湿度が低くて涼しい。ぜひこのままひと夏・・と本気で考えてしまう。数年前に雨がちで涼しいまま終わった夏がたしかあった。

相変わらず、読書生活や筋トレその他で毎日忙しくしているが、出かけたり、映画に行ったりということをしなくなっている。母が亡くなってからそのへんやる気がわかない、というのを言いわけにしている。はー、でも半分ホント。しばらくシコるでしょう。

◼️安岡孝司「企業不正の研究」


お勉強と興味。


東芝をはじめ神戸製鋼、三菱自動車など世間を騒がせた最近の不正事例をもとになぜリスクマネジメントが機能しなかったのかをひもとく。前段が事例究、後半は事例をもとにガバナンスとリスクマネジメントの在り方を考える。


経営者および側近の者が不正を分かって実行している場合は、会社の取り組みとしてのリスクマネジメントは効用を発揮できない。そういったケースへの対策を主に探っている本だと思っていい。


個人の考えではあるが、日本社会は社外取締役、社外監査役の機能充実を謳う。しかし、プロフェッショナルは少ない。日本独特の監査役制度を含め、どうもこのへん、この手の本を読むたびに毎回すっきりしない。それと、監査部に技術、財務の経験者がいないマイナス点はもっと強調すべし(笑)。実際に大きな不正のディフェンスをできていない面もあるんだから。



動物園を例にリスクマネジメントと企業価値について考えてみましょう。

動物園の園長には次の4つの選択肢があります。


①動物舎の掃除を12回にする

②檻を修理する

③通路に屋根を取り付ける

④利益重視で何もしない


(どれか1つだけ実行するとすれば)どれが正しい選択でしょうか?


この例題はたびたび登場、少しずつ見解が明かされる。


どの選択肢がどのステークホルダー(利害関係者)のためとなるか、ということやリスク評価として、その施策は何のリスクを低減するのか、どういった効果があるのか、などなど複数の観点から分析する。内容の納得度は人それぞれだろうが、興味を引くのは確かかも。


経営理念と事業リスクの関連付けはちょっとした新局面で勉強になった。最新の事例はたまに研究しなきゃね。この分野の研究が盛んになり、不正検知の精度が高まるため、まだまだ不正、不祥事は出てくると個人的に予感している。


まだまだ修行中。


◼️川端康成「美しさと哀しみと」


京都を舞台にした恋愛感情の交錯。美しい、と思う。映画的。


以前読んだ「京都文学散歩」でたぶん紹介されていた。川端で京都といえば「古都」だがこちらもまた醸し出される趣が違って、より物語になじんでいるように見える。


妻子持ちの小説家・大木は、かつて17歳だった音子との間に子供ができ死産、音子は自殺未遂、精神病院にも入る。大木は音子とのことを小説として書き、彼の代表作との評価を受けていた。


そして今、画家として立ち京都に暮らしている40歳の音子と除夜の鐘を聞こうと思い立った大木は特急で京都に降り立つ。そして大木の前に、音子のもとにいる弟子、美貌のけい子が迎えに現れたー。


数十年が経っても想い合っている大木と音子。2人の間に壁を残したまま周囲が動く。大木の妻文子、けい子に魅力を感じる大木の息子の学者太一郎、そして音子と同性愛のような関係にあり破滅的なけい子。大木と音子は大晦日に会うが、次の邂逅は大事の起きたラストだけだ。


冬の嵐山、5月の鞍馬の満月祭、鴨川の床など季節の京都の風景が散らされる中での葛藤。けい子は北鎌倉に大木を訪ねて2人で江ノ島のホテルに入る。また太一郎をも誘惑し、音子には復讐と宣言する。けい子を中心に官能的な場面も展開される。


大木の接触とけい子の動きに、音子はまた自分を見つめ直し、母、失った子、妖精のように現れたけい子などへ想いを馳せ、「稚児太子図」のような絵を描こうと決意する。


芸術家気質、折々に挿入される絵、親子の情に時代・・複雑な背景に様々なものから織り成される想いの糸。けい子の突飛な行動が物語をひっぱる形たが、中身はしっとりとして芳醇、人の想いは現代でも充分通ずるものがある。


けい子の行動は、生来の性格もあるし、師匠と弟子を超えた愛の感情の発露とも見える。また自分が女としてどう生きるか、ということに挑戦しているようにも見える。私は、音子を画家たらしめている部分、哀しい人生経験への羨望と憧憬があって、自分もそうでありたく飛び込んでしまうという芸術家気質もあるのだろうかと考えてしまった。また生きる手ごたえを得たい足掻きにも感じる。


手法は、最初にビジュアルで想像させる象徴的なシーンを入れる手法、また章に1つは気を引く動きを入れる、日本の美を意識して小道具を出す、という、川端イズムだな、というのを踏襲している。「古都」と同時期に書かれた、ということもあって、よく似ているし、隠れた姉妹ネタがちらっと出た時はそこまで似せるか、と思ったが、今回は大技ではなかった。


「古都」が刹那的な名作なのに比べて、こちらは大衆感あふれるというか土曜ワイド劇場チックというか、そんな劇画のような話。ただ、美しさがよく出ている。「古都」よりも物語に現れる美をじっくりと見せていると思う。主人公の音子にも、けい子という比較対象があるからか、はかなげな美を感じてしまう。


まあラストはもひとつかな。

でも川端の美しさ、心の中に住む、という恋愛感情の強さ、普遍性をしみじみ味わう作品。映画向きかもな、と思った。

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