2019年6月1日土曜日

5月書評の8


今月は、17作品17冊。数を稼いだ感じである。
最高気温は25度から30度ちかく。日により上下あり。朝は少し肌寒いけど、10時半には、少し歩くと汗をかく。

写真は川沿いに咲いている夾竹桃、キョウチクトウだが、強い毒性がある。これもびっくり。
アプリの種類判別が信用できず、自分で調べてるからすこしずつ詳しくなる。

あーでも家で陽射しを避け、風通しを良くするととても過ごしやすい。半袖短パンで、寒くなく、暑くもない。うたた寝を誘う気持ち良さだ。

5月は四十九日があって、令和が始まった。もう大昔のようだなあ。

◼️川端康成「川のある下町の話」


ノーベル賞作家に僭越かもだが、うまい、と思った。


1953年の作品。戦後の名作と言われた「山の音」と「古都」との間の数多い著作のうちの1つ。個人的には新感覚派と呼ばれた戦前の「伊豆の踊り子」「浅草紅団」よりも戦後の作品の方が落ち着いてて好きな方。


医師の伯父の援助で大学を出てインターンをしている、国家試験前の栗田義三は、増水した川に流された幼子を助け、その姉のふさ子の瞳の輝きに強く惹かれる。やがて幼子が流感で亡くなった時、見とったのは義三だった。同じインターンの才媛・民子、伯父の娘で従兄妹の桃子も義三に想いを寄せていたが、彼の心がふさ子にあることを知っていた。ふさ子が住まう長屋は義三の伯父が新しい病院を建設する予定地にあり、立ち退き料を貰ったふさ子は勤めていたパチンコ屋に住み込みで働くことになる。


川端康成が恋愛ドラマを描く時にはどこかに運命的なエッセンスが入ることがある。「山の音」で息子の美しい嫁を可愛がる中年の男が昔憧れていたお姉さんを義娘に投影している。また「千羽鶴」では父の元愛人と関係を持ち、その娘とも惹かれ合う。これらは川端が「日本史上最高の物語」という「源氏物語」の影響があるのかも、と思ったりする。


今回は若者らしい直情的な愛。しかしどこか源氏物語的な色合いが見え隠れする。インテリで裕福なインターンの民子、やはり裕福で、活発で可愛らしい性格の桃子と、貧困に喘ぎ肉親を失う、か弱いふさ子の対比が際立つ。不幸がふさ子に集中し過ぎていてバランスの悪さ、メロドラマ性が強すぎる感も正直あると思う。


義三に想いを寄せつつ彼の幸せを願う民子と桃子、あえかなふさ子、そのキャラの作り方にうまいなあ、と感じた。2人が女性として義三に接近するエピソードも織り込んであり、民子には同僚として好感より進んだ感情を持ち、桃子の父には金銭的援助を受け、桃子の両親が結婚を望んでいるという伏線も張り恋愛物語を分かりやすく複雑化している。また物語を動かすタイミングと仕掛け、細かい伏線も絶妙かなと。


さらに女性の美ー。「古都」の儚げな千重子、「山の音」の義父に甘える若嫁の菊子、「千羽鶴」の屈託のない令嬢ゆき子と、それぞれどういう美しさだろう、女優でいえば誰のようなんだろうといろいろ想像してしまう。今回ふさ子の「まつ毛の長い目の火のような光り」はどんな眼のことなんだろう、と考えてしまった。


ラストは切り方が簡便すぎるかな、とも思うし、全体に他作品で感じたような奥深く醸し出されるもの、は感じなかったが、戦後日本の庶民的な姿を絡めて描いたメロドラマ、悪くはなかったと思う。


引き続き川端シンドローム。


◼️土屋健

「海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲」


陸上は恐竜、では海中は?ワクワクしっぱなしの古生物学史。大絶滅が何回もあったとは目からウロコだった。


恐竜絶滅に関してはやはり興味が湧いたし、本も読んでNHKの番組も観た。海の中、海洋生物に関しては、たまにマンガに出てくるのを見る程度でまったくと言っていいほど知らなかった。恐竜の番組に、恐竜が移動する際の渡渉で水中の巨大肉食生物に食べられるという描写があって、気になっていた。その謎に答えをくれた本。


古生代、約5億年前のカンブリア紀に現れた史上最初の覇者、エビっぽい捕食者、全長1mのアノマロカリス。続くオルドビス紀には三角形の殻にタコっぽい触手を持った611mの巨大生物、カメロケラスがいて、その次のシルル紀、デボン紀に繁栄した、大きなハサミをもちサソリに似た全長2mのアクチラムス。デボン紀には勇猛なイメージの大型甲冑魚、古生代最大、最強のダンクルオステウスらが出て覇権は魚類が把握する。サメ、やがて陸上にも上がる四肢のある脊椎動物や水棲爬虫類も古生代末期に出現する。


いやー怖いけどホントに胸が高鳴る光景を想像してしまう。形状もSFチック。


しかし古生代から中生代、約25000万年前くらいの時期、70パーセント未満の生物がいなくなった恐竜絶滅よりもさらに大規模で、全生物の81パーセントとも言われる数が姿を消す大量絶滅が起きる。何が原因かは不明だという。


正直びっくり。大量絶滅は複数回起きていたというのも驚いた。恐竜絶滅こそが古代生物学史上最大の大事件だと思っていた。


続く中生代、地上は恐竜、海中は魚竜。タラットアルコンは全長8.6mでワニの顔に魚のボディで迫力満点。これが恐竜をも食べてたんだろうか。そしてドラえもんのピー助、フタバスズキリュウの仲間のクビナガリュウ類が大繁栄する。


さらに魚竜類が衰退、絶滅した時期に大型のサメ、クレトキシリナが出現する。さらにさらにモササウルス類。魚竜、クビナガリュウと並び中生代の三大海生爬虫類と呼ばれるらしい。プログナソドン、ティロサウルスは全長10mを超え、高速で泳ぎ回り魚、ウミガメ、アンモナイトをバリバリ食べていた。形は魚竜よりもどっしりとしてジュゴンのような感じ。顔はやはりワニのよう。イルカのような形の種類もいるようだ。1700年代後半、のオランダ・マーストリヒトで見つかったモササウルス初の化石は「マーストリヒトの大怪獣」として有名になり侵攻したナポレオン軍がパリへ持ち帰ったとか。


やがて恐竜を滅ぼした小惑星衝突が地球を襲う。この時点で6600万年前。新生代になると全長20mを超えるクジラが誕生した。最初の方のバシロサウルスはまだ顔がワニ。ハクジラ類はすごく獰猛そう。歯の1本が36センチもあり、伝説の怪物の名を持つリヴィアタンはこの時代のトッププレデターだった。


中生代末期の大量絶滅を生き延びたサメ類にも超大型種のメガロドンが誕生した。獲物を噛む力はホホジロザメのなんと10倍。しかしこの新しい超大型種は260万年前には姿を消していく。原因は分かっていない。


ここから現代へと繋がるようなのだが、ここまででもずいぶんとエキサイティングで怖くて面白い。顔形も多くは凶暴そうに描かれている。化石にはこれらプレデター的生物に噛まれた後が見つかっているそうだ。


時代の流れに沿って海洋生物を見ていくのはとても面白かった。ワクワク感でハンパなく満足した。



◼️三島由紀夫「永すぎた春」


明るい小説。バランスを取る重りか。


エゴイスティックな名作「金閣寺」と並行して連載され、ベストセラーとなった作品。東大の裕福な家の息子と古本屋のマドンナの、山あり谷ありの婚約生活。「永すぎた春」という言葉は流行語になったとか。


東大法学部の学生、宝部郁雄は大学の近くの古本屋、雪重堂の娘木田百子と婚約する。郁雄の父が結婚は大学を卒業してから、と主張したため、婚約期間は13ヶ月の永きにわたることとなった。郁雄の試験中、フィアンセに会えない百子は本の振り市に出かけ、いとこの一哉と会う。帰り道、郁雄の家に行ってみようとした百子に一哉がついてきて、窓から2人を見かけた郁雄は嫉妬で激昂する。


1月から12月に章が分かれている。上のエピソードの一哉は事件を起こし、邦雄と百子の結婚に暗雲が漂う。他にも、郁雄がつた子という年上の女に誘惑され部屋まで行ったりとか、そのつた子の恋人で邦雄の友人の吉沢が百子を誘ったりだとか、2人の間にはそういう類の波が立つ。百子の兄で文学青年の東一郎は入院先の病院の看護婦・浅香と恋に落ちこれまた婚約する。このことは後に災厄となる。


なにより存在感のある、いかにも裕福なおばさま的な感情と行動が物語を動かしていく。東一郎の婚約者、浅香の母親の底の浅い陰謀など、邦雄と百子の「敵」がはっきりしている構成となっている。


婚約期間が長すぎたゆえに事件も起き、また当人たちの心にも邪魔な想念が湧く、といった幸福であるがゆえの不幸を逆説的に描く、という形らしいが、基本は若い2人の青春物語であり、明るく分かりやすい大衆小説だと思う。頭がよく回って活発、邦雄を愛する百子のキャラクターが伸びやかで純粋でヒロインとして好感が持てる。ただやや平板でクセがなさすぎるかな。


名作「金閣寺」と同時期掲載された作品で、片やエゴイスティックな男を主人公とし、人間を描いた本格小説、こちらはメロドラマというか、朝の連続テレビ小説的とでもいう感じ。ただ、どちらにもクセのある大学の友人が大事な役どころを果たすところは同じだったりする。


つぶさには分からないが、この同時並行連載自体が三島由紀夫の仕掛けだったんじゃないのかな、なんて考えた。




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