2019年6月9日日曜日

6月書評の2




母親が住んでいたコーポの解約をするときに、書類に名前のある保証人の連絡が必要とのことで不動産屋に電話した。もっと法的になにかあるのかと思ったが、あっさり終わってあとは地元の兄弟に任せる。寂しいな。もう初盆の用意もせねば。

昨夜は風があって寒かった。天気予報では晴れて過ごしやすい、と言ってたので七分袖のオレンジのシャツに紺に犬のポートレイトの入ったTシャツ、ジーンズにスタンスミス履いて神戸ハーバーランドへ。ここのところ狭いエリアばかり回ってたし少々クサクサしてたし。やっぱ神戸の港とポートタワー、海洋博物館の眺めはホッとする。帰りはポートタワーの横を通って元町商店街に戻りテクテク歩いて帰った。元町商店街も、この30年近く変わってないものもたくさんあり、昔なじみとしてはだいぶ楽しめる。ブックオフで太宰とラノベととりぱんを買って帰る。早起きしたからいつものバスに乗れた。商店街も屋根があるからたいして陽には当たってないが、暑かった。風が気持ちいい初夏ー。

◼️永井路子「噂の皇子」

渋く面白い歴史のスポットに光を当てた、興味深い短編集。


表題作のほか、和泉式部が中心の「桜子日記」、国守の横暴と不思議な話を描いた「王朝無頼」、平将門伝説「風の僧」、源頼政と以仁王の変の話「双頭の鵼(ぬえ)」、なんと義経は2人いた!「二人の義経」、関白の子の女漁りに事件が、の「六条夜霧」、歴史に名を残す藤原佐理(すけまさ)のなんとも笑える行状「離洛の人」が収録されている。


「噂の皇人」は三条帝と藤原道長との権謀術数の争いがメイン。左大臣で時の権力者藤原道長は視力が落ちた老帝、三条帝に早く退位してもらい、先帝である一条帝と道長の娘、彰子の子、東宮の敦成を帝位につけたい。三条帝は官僚に手を回すなどして自分を愚弄し続ける道長の思い通りにはしたくない。


そこに、妙な噂の立つ三条帝と娍子の第一皇子、式部卿宮敦明がからむ。道長に押される三条帝・敦明親子の取った手とは。


これまで読んで来た近江・奈良ではなく藤原氏が栄華を極めた平安の話。あまり詳しくないだけに面白かった。


次の和泉式部ものは、お付きの桜子目線。恋多き女として有名な和泉式部、恋の遍歴のドラマ。


藤原兼家の長男・道隆はいったん権力を握ったものの志半ばで亡くなり、三男道長が権力を得る。道隆の娘が一条帝の皇后・定子で女官が清少納言、さきに出てきた彰子の女官が紫式部で2人がライバルだったのは有名な話。そして和泉式部もまた彰子の女官で紫と同僚だった。和泉は紫から、「恋文や和歌は素晴らしいが、素行には感心できない」と評されたとか。


この話、ちょっとエロいな、と思った。この短編集中の白眉の出来だった。


坂東の王、平将門には興味があったし、義経はへえーという話。


歴史好きのツボを突いてくる題材と、もうひとつ。著名な歌人だった源頼政が難しい源平対立の時代をできるだけ争わず生き延びる天才だったり、藤原俊成、小野道風と並び日本の三蹟、文字の美しさで有名な藤原佐理がどうにも失敗の多い人で、その美しい文字は謝文、失策を詫びるための書簡ばかりに残されていたりする。和泉式部だってその才能は明らか。そういう話を集めているところにも面白みがある。


1966年から86年にものされた作品を集めたもの。でも全然古さを感じない。若き日の永井氏の筆致には色気も感じる。


まだまだ読みたい作家さん。


◼️ルイス・サッカー「穴」


不思議なことに、あの人っぽいな、と思ってしまった。少年ファンタジー。穴掘りの目的は・・?


こちらでの好意的な書評で、心に積ん読してました。全米350万部のベストセラー。弱気で運の悪い少年が、友情を理由にワイルドな冒険を経て報われる、というストーリー立て。


いつもデブと馬鹿にされてきた運の悪い少年スタンリーは、有名なプロ野球選手が寄付したシューズを盗んだ濡れ衣で更生施設に送られます。そこは炎熱の、湖が干からびた大地にあり、直径深さともに1.5mの穴を毎日1つ掘るという労働が課せられていました。どうも女性のおっかない所長が穴を掘らせるのは、なにかの目的があるようです。ある時、同じ班のゼロが脱走、彼に読み書きを教えていたスタンリーはゼロを追いかけますー。


理不尽な、ひどい大人たち、個性的な同じ班の少年たち、灼熱の大地にキツい労働。過酷な環境の中で成長するスタンリー。脱走と冒険、物語には100年以上前の不思議な寓話が挿入されます。やがて現代とつながって穴の秘密が明らかに。そしてスタンリーたちは?


最初のほう、スタンリーの罪や所長の設定にムリがあるなあ、とか思いながら読み進めました。ただ、少年たちの序列や親切そうな大人の裏の顔などはいかにもありそうだし、過酷な環境の現実に、こちらも追い詰められるような気がしてきます。ざっと見ればかなりファンタジックな要素が多いのですが、その実マイナスの下敷きはリアルっぽくて厳しい。


ガラガラヘビやタランチュラ、そして絶対王者黄斑トカゲは怖い生物ながらどこかコミカル。苦しみとピンチを経た後の結末にはスカッとします。定番の流れではありますが、そこに至るまでの苛烈な環境、不思議さ、またほのかな友情が効いてきます。やり込められる所長と手下の男2人には、「101匹わんちゃん」の魔女と手下を思い出しました。


読後の充実感もなかなか。私の場合、ゼローニばあさんって誰だったっけ、とちょっと考えちゃいましたが、仕込まれた材料が上手に溶け合ってどこか重みすら感じさせる作品だと思います。


さて、「あの人」。ひっぱりましたがハルキというわけではなく、実はポール・オースターに似てるな、と思っちゃったのです。理由はとても難しい。現実と寓話の間的な風合い、とでもいうか、そのアメリカンな雰囲気なのか・・。


エピローグは短く、スタンリーやゼロのその後は少ししか書いてありません。続編やスピンオフ作品に入っているようです。んー探したくなりますね。


スラスラ読めて良い読書だったと思います。何回も繰り返し出てきて微笑ましいこのフレーズで締めることとします。


「あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいじいさんめ!」

0 件のコメント:

コメントを投稿