2018年7月29日日曜日

災害の夏





先週は暑いばかりでさほど変化もなかったのでひさびさに更新しなかった。なんかダレっとしているな。


台風が来ている。当初は関東から東海に行くはずだったがより角度がつき関西の真ん中を通る予想にきのう突然変わった。もう今夜、日曜の未明に来る。


まずは、なんで台風というと去年から関西を目がけて来るのか理解しがたい。そういう地理といえばそれまでだが、本当にかなわない。地震、豪雨、台風と関西から中国は災害続きである。なにかの呪いか?


あまり読む人もいないんで本音だが、台風大嫌いである。心底ビクビクしている。不安で落ち着かない。裏山が崩れたらどうしよう、家の周囲に置いてあるものが飛んで行って迷惑かけたらどうしよう、てなもんである。家が壊れることは想定してないが、大風が吹いて家が揺れるとビクッとする。


マンションにいると台風はまったく怖くない。東京に居る時はテラスハウスだったから同じような怖さがあった。いま持ち家で山に住んでるからもう台風が来るたびに恐れている。


またこのへん避難所開設しないくせに避難勧告は来るからどうよ?という感覚もある。西宮市のHP見てもいっこも開設していない・・。


昼は直射日光はないもののふつうに暑くて、遅スタートだったので図書館で借りたい本さっと借りてすぐ出て来た。あまり遅くなりたくなかったし。


すると、帰りの山道で頭がボーッとしてしまい、家でエアコンつけてしばし身体を冷やす。いつもは図書館でしばらく読書、身体を冷却するのだが、この日はそれがなかった。最近また体力の衰えを感じてるしなあ。


書評サイトで献本に当選。「鉄道とトンネル」なんか、男の子なら好きそうなタイトル。どこかオタク鉄的な興味を呼び起こす。で、応募してみよ、そう当たるもんじゃなし、と思ってたらホンマに当たってしまった。


トンネル焦点の、工法から地層から歴史から網羅していて期待に応えてくれる本。ちょっと小難しいところもあって特に最初は進まなかったが無事完読。やっぱり身近だった関門トンネルは興味があったかな。昔はやむなくトンネルを掘ってたのに最近は時間短縮や大規模化の手段としてむしろ積極的にトンネルを用いるように変わってきた、というのが興味深かった。


さて、台風の進路予想はやや南北にブレたりしているもののこのへんが暴風域、つまり台風の真ん中付近を通るのは変わらず。未明から明け方。ただ情報を見ていると、ちょっと近畿は雨の量も少ないような・・。


このへんで最も強かった台風は去年10月に来たやつだと思う。12時間もの間吹降りが激しく、神戸で最大風速40メートルを超えた。


今回は地上の最大風速25メートル、勢力も965hpよりは上がらない。雨は、関東甲信東海はひどそうだが、近畿の大阪湾沿いは危機的ではないようだ。念のため市のハザードマップを見たが今回避難所は開設されていない。


寝室のシャッター閉めて、寝る。ときおり風がうなる音が聴こえる。でも家も揺れないし・・とうつらうつら。起きると明るくて、風はなく雨がサーっと降る程度だった。ニュース、近畿では上陸地の三重に近い奈良の被害が出ていた。


警報も解除されたからいつものように図書館へ。森見登美彦「宵山万華鏡」読み進める。モリミーはこういう作品を目指しているんだなあ、と思う。


息子はきょうからの部活合宿に出掛けていった。


午後モリミーの書評上げて、巨人ー中日観る。ワタクシがこのカードを観る、すなわち目的あり、だ。創志学園卒で2年目右腕の髙田萌生が初登板初先発だからである。2年の夏は甲子園に出れず、秋の明治神宮大会で中国大会優勝、ほうと思って見た時は140キロ少しでまとまりも悪い印象だったが、夏には150キロを出した。高校生の成長を実感したものだった。


髙田はしかし、1回は4失点、2回に2失点。カットボールとキュインと曲がり落ちる早いスライダー、腕が緩む遅いカーブ、あとフォーク系もあるのかワンバウンドも見られた。まっすぐは145キロMAXくらいで威力はそこそこ、と思わせた。


フォアボール、デッドボールに加え、ストレートも変化球も通じずパカパカ打たれる。クイックが遅いと見て取ったドラゴンズは足を絡め盗塁アウトなし。キャッチャーも悪いな・・。2636安打4四死球6失点に3盗塁を決められて降板。ひとことで言えば全てダメ。相手は対策を考えていた。でも、この登板にはどうしてダメなのか、が詰まっていたと思う。まだ高卒2年め。がんばですな。


息子がいない夜はちょっとヒマ。満月に、大きく赤い火星。明日は15年ぶりの大接近だそうだ。前回もよく見えたのをよく覚えている。赤い大きな光は・・ちょっと凶々しいな。


なにか大きなストレスに囚われているんだろうかと思うことあり、身体が最近動かなくなってきたなあと思ったり。ゔーん、どうにも良くないな。きっぱりやろう。


2018年7月17日火曜日

歴史的 続き







大雨の被害はあまりにショッキングで・・長引くだろう。次いでこの酷暑。天はあまりに苛酷だ。


大雨が先週ってうそのよう。先の週末は猛暑もいいとこであった。部屋の気温が36.9度って体温以上。歴史的とはいわないが、7月として記録的な暑さ。京都祇園祭で3日間最高気温が38度を超えたのは140年の歴史で初とか。


涼を取るために外出、涼しい図書館で集中して本を読むのは至福の時間。同じ発想の方が多いようで、10時には椅子がかなり埋まっている。またこの椅子が直射日光の当たらない広い窓に面していて六甲山系がよく見えるから眺めが良くアイスコーヒーでもあれば最高。


とはいえずっといるわけにもいかず、午前行って午後は自宅に帰る。もう考えずにエアコンがいいと思う。身体がおかしくなる前に。


ワンコの散歩も夜になる直前の涼しい時間帯で。ダックスフントは足が短いからアスファルトが熱いと呼吸が苦しくなる。道路に手をつけて、やや熱いがなんとかいけるだろうとクッキーを連れ出す。それこそ先週は大雨だったから、私とのんびり散歩するのは久々だ。


野球はオールスター、テニスはウィンブルドン、そしてワールドカップ3位決定戦、決勝の週。夜は本読めないから昼間集中。よけいエアコン必須。両方観ながら眠気に負けて寝る。夜中に目が醒める。暑いからかと思うがまたこちらの部屋がエアコン気持ちいいからと眠りに来る息子と狭いベッドに2人。この狭さが起こしているのもまた間違いない。


昼の読書は好調で望月麻衣「わが家は祇園の拝み屋さん」カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」読んでしまった。カズオ・イシグロは分厚くとも(今回480P)物語の展開で読ませてしまう。今回イギリスの伝説アーサー王の話を強くにじませていたのには興味を惹かれた。


サッカーワールドカップも終わった。3位を勝ち取ったベルギーの戦いを観ていると、カウンター鋭いこと。間違いなく統一された練習をしている。そりゃ最後決められるわー。


日本代表の監督人事が紙面を賑わせているが、まずはちゃんと総括しよう、と思ってしまう。常々不思議なのだが、技術委員に外国の著名な方がいないのはなぜだろう。


確かに10人の相手に1勝しただけ、とか2点リードしたのに逆転されたとかあったが、じゃあ他の誰がそこまで持っていけただろう。


負け必須と思われたコロンビアに勝ち、セネガルに2回リードを奪われながらも追いついた。で、ベルギー戦は素晴らしいシュートで先行した。みなどこから自分が出来るか考えてみようというとこだ。コロンビアに勝てるほどチーム力を引き上げた、決勝トーナメントでベルギーにリードしたはタダじゃ出来ない。みな結果見すぎてないか、と言いたい。


今回である程度世界に通用する日本のサッカーを構築することは出来た。しかしそこで思考停止するのではなく、今後の日本に必要なことをマジメに議論してよ、と思いたくなる。申し訳ないが、それには今の協会幹部では役不足だ。誰も今の状態を生み出せなかったんだから。


海外の著名なサッカー指導者を招き、方向性を定めるのに一役買ってもらわないといけないでしょう。その上で監督を選定する条件が出てくる、と思う。


最近感じたことでした。。

2018年7月16日月曜日

2018上半期各賞





カバーデザイン賞


柴崎友香「ビリジアン」


マンガ的イラストは珍しくないんだけど、タイトルとともに魅かれるものがあった。しかし内容は散文的でつかみにくかった。写真撮る前に売っちゃったので画像はなし。興味のある方は是非ググってください。


人気賞


サキ「サキ短編集」


私が主に出入りしている某書評サイトでこの半期最も投票数(『いいね』みたいなもの)が多かった本。みな一度は読んだことあるのかな?短編集らしい、テクニカルかつクールな作品。



マンガ賞

清家雪子「月に吠えらんねえ」


いやーこれハマっちゃいますねー。朔ちゃん(萩原朔太郎)、犀さん(室生犀星)、白さん(北原白秋)、シキさん(正岡子規)、キョシ(高浜虚子)、ミヨシくん(三好達治)、アッコさん(与謝野晶子)、石川くん(石川啄木)、チューヤくん(中原チューヤ)ら文豪が多数出演。笑いつつ文学的に、社会的に、わけわからない風に展開される。でもいいんだよなあ。


シャーロッキアン賞


キャロル・ネルソン・ダグラス

「おやすみなさい、ホームズさん」(2)


少女マンガ風の表紙、いかにも軽そうなタイトルに敬遠していたが、読んでみるとどうしてどうして。「ボヘミアの醜聞」の裏側を忠実になぞっている、アイリーン側目線の物語。シャーロッキアンの端くれとして、久しぶりに楽しかった作品。


鬼で賞

馬場あき子「鬼の研究」


いやもう、好きだから、鬼。鬼とは、日本の文献における鬼の登場、女性と鬼など多角的に分析している。ちと難しい部分はあったけど、鬼網羅的な本。この日本史の闇の黒さが好きである。


美術賞

朽木ゆり子

「ゴッホのひまわり 全点謎解きの旅」


去年の暮れから今年の上半期にかけて、ゴッホがブーム?に。京都国立博物館ではゴッホ展があり、ボストン美術館展にも代表作が出て、原田マハが「たゆたえども沈まず」という作品を書いて、ゴッホに関する映画も上映されて、ちょっとしたブームなった中で読んだ本。京博のゴッホ展には行けずじまいだったけど、ボストン、映画、本作読んで「たゆたえ」の文庫化を待つのが楽しい。


我らが朔ちゃん賞

萩原朔太郎「猫町」


萩原朔太郎、唯一の小説は児童小説風。さまざまな出版がなされているが、金井田英津子の作画で楽しめるパロル社のものを読んだ。幻想的な物語によくマッチして楽しめた。


希望賞


吉野源三郎「君たちはどう生きるか」


売れるだけあって、物語の成り行きは分かるんだけど、ジンとする。コペルくんをはじめとする少年たちにも好感。社会的であるが、思想的なものはなく、よい作品だと思った。


ベストノンフィクション賞


ナサニエル・フィルブリック

「白鯨との闘い」


1820年、捕鯨船が巨大クジラに襲われた。漂流することになった乗組員の運命。


メルヴィルの小説「白鯨」のもとになった事件。当時の捕鯨がなにせ大迫力。漂流して生き抜くための過酷な運命。集中して読めた本。


奈良賞

 

立原正秋「花のいのち」


秋篠宮の名前の由来となった秋篠寺や斑鳩の中宮寺など半分は奈良が中心となる話。格調高い恋愛もの。読んでほどなく秋篠寺を訪れ、優美な技芸天立像を観た。


黒い舞台劇賞


ウィリアム・シェイクスピア

「リチャード三世」


ドロドロしている、陰惨、とか聞いていたから読むのを先延ばししていた。ワールドカップで日本が負けた後なんかには読めないな・・と思っていたらコロンビアに勝ったから読んだ。確かに謀殺、裏切りばかりで陰惨だが、呪いの色で背景を塗りつぶし、最後にたたみかけ光が射す。バランスよく出来た作品だと思った。

2018年7月8日日曜日

歴史的





木曜日、夜。大雨が降り続いている。梅雨前線は西日本の真上にあってざんざん降り。朝行くときから傘さしてても靴の中とズボンの裾はびしょ濡れ。はやばやとJR宝塚から三田の間が終日運休となり、有馬の山越えバスはストップ。行きも帰りもなんとか電車バスとも時間通りに来たけれど、帰りのバスは山越えが止まったのでその分人が多く、迎え車で道が混んで遅れた。バス停からはまあ慣れてるが嵐の中傘を支えて山道を辿り着く。


「歴史的豪雨」だそうだ。かなわんな。いろんなことがありすぎる。地震にスーパー豪雨。天災は容赦なく来る。もう勘弁してほしい。交通の混乱がかなわん。規則正しい生活を送りたいわー。


サッカー日本代表はラウンド16で散った。後半アタマに2点リードしたときは勝った、本当にベスト8だ、という気持ちでいっぱいになったが、なんと後半だけで3点を取り返され逆転負け。決勝ゴールはアディショナルタイムぎりぎりのスーパーカウンター。衝撃的だった。


現代表の旅の終わり。いつもの虚脱感に浸っている。よくやった。今のメンバーのこのサッカーをずっと見ていたかった。


あれこれと報道があり、概ね言いたいことは出ている。2002年のラウンド16はボーナスで勝つ気が薄かった。2010年は超守備的なサッカーだった。今回は、このスタイルが日本のサッカーではないか、日本人の特性を生かす戦い方だ、というのを示すことができた大会だったと思う。この意義は物凄くでかい。グループリーグを抜けるだけでも激闘の連続。分かっていたが改めて簡単ではない。しかし次は2大会連続での決勝トーナメントを目指すべきだ。


世代交代は進み、メンバーは大幅に切り替わることだろう。でも私は楽観的だ。中田英寿や中村俊輔がドイツで負けたとき、この先どうなるんだろうと暗澹たる気持ちだったが、ちゃんと本田や長友が出てきたじゃない。


悔しいのが嬉しい。次の4年間に新たな灯火が見えた。


金曜日はJRは電車を減らした。どうなることかと思ったが最初の1本はぎゅうぎゅう。見送って、すぐ次が来た。楽な場所に立てた。着く直前はちょっと混み混み。でも楽な方。


午後から続々と電車が止まり始めたので会社からおふれが出て早々に退社。バスの時間に余裕を持って着くべく出たが、帰り着くまでいつもの2倍の時間がかかった。電車はひと駅ずつしばらくストップ、バスは30分も来なかった。


土曜日、もう雨は激しくはない。どうしようかと思ったが朝から出かけた。図書館とブックオフ。目当ての本見つからず。山越えバスはまだ運行停止。バスも電車も外出してる人自体が少ない。夜、また降り出したと息子が言う。不安が兆しているようだ。親はなるべく何事もないように振る舞う。


日曜日は朝から晴れ、ひさびさに傘を持たず出掛ける。土曜日と同パターン。ハイキューーの新刊買って、ブレンディのブラック買って、ブックオフでは1000円以上買ったら500円引きクーポンを利用して買い物。


カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」

西岡文彦「ピカソは本当に偉いのか?」

芥川龍之介「羅生門・鼻」


でほぼ1000円。カズオ・イシグロの新刊文庫は当面価値下がんないだろうからこの機会に。まあまずの感じかな。


「万引き家族」観た。


カンヌ映画祭パルムドール。これまで観たパルムドールは「愛の風景」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「パルプ・フィクション」「永遠と一日」「息子の部屋」「麦の穂を揺らす風」「オール・ザット・ジャズ」「地獄の黙示録」「シェルブールの雨傘」てなとこ。


「万引き家族」はこのどれにもない、ズゥン、と重いものを私の心に残した。


ネタバレです。これから観る方は読まない方がと思います。


立ち退きを勧められている一軒家に、夫婦と妻の妹、年老いた母、そして少年が住んでいる。ろくに働かない夫は少年に万引きをさせていた。妻もパートのクリーニング店でネクタイピンを盗んだり、老母もパチンコ店で他人の玉を使ったりと皆良くない手グセの大人たち。若い妹は女子高生ライト風俗に勤めている。そして夫と少年は凍える寒さの中いつもマンションのベランダに締め出されている少女を家に連れ帰る。少女の身体には虐待と思われる傷があり、一度は送り届けようとするが、室内から両親が酷く争う声がしたため帰すのをやめ、一緒に暮らすことにする。


一家は貧しいながらも楽しく暮らしていた。少女も次第に笑顔を浮かべ楽しそうに笑うようになった。


やがて少女が行方不明としてテレビで報道される。少年は少女に万引きを手伝わせたことを老店主にたしなめられたことから居心地のいい現実に疑問を抱くようになり、わざと万引きを見つかって走って逃げるー。


善と悪が混ざった異世界。夫婦はかつて妻の元夫を殺した前科(正当防衛)があるため名前を変えている。暮らしは老母の年金が頼りで一緒に生活していることは隠し、寄生している。少年は幼少の頃拐ってきていて学校には行かせていない。少女の家庭では夫が妻に暴力を振るい、なかば育児放棄している母親は少女を虐待している。


断片的な会話や、色香の使い方、犯罪、庶民としての人間の描き方など、これは日本の作りではないと思った。構成的に、よく私が観る各地の単館系作品の作りである。説明も多い日本人の人情的ドラマではない。ラストの尋問のカット続きもテレビとはかけ離れている。


さまざまな矛盾の混在と、きれいでなくかつ人間的な場面の作り方をカンヌが認めたのかなと思う。が、どこか重い物を残すといった価値はあれど、もう一度観たいとは思わなかった。


雨は止んだが、広島、岡山で甚大な被害。死者行方不明者合わせて100人を越すなんて。何かが刺さったまま近畿も梅雨明けか。


2018年7月7日土曜日

2018年上半期ランキング!





今年も作りました。上半期は90作品98冊読みました。おそらく新記録。


実は、これだあ~という作品、言ってみればS級のものはなくて、Aランクが上位に来てる感じです。まあそうそうSは出ないのでこんなもんかと。しかし感銘を受けた順に並べました。どうぞー。私の好みですから、必ずしも一般ウケするとは思えません。



1 長野まゆみ「カンパネルラ」

2 室生犀星「かげろうの日記遺文」

3位 鏑木蓮「イーハトーブ探偵 」

4 ポール・オースター「ムーン・パレス」

5位 宮沢賢治「注文の多い料理店」



6位 佐藤亜紀「バルタザールの遍歴」

7位 スティーブン・キング「11/22/63」

8 ウィリアム・シェイクスピア

「ジュリアス・シーザー」

9位 武田百合子「犬が星見た」

10位 室生犀星「或る少女の死まで 他2篇」



今年は文豪ものが多くなってます。

1位「カンパネルラ」長野氏は宮沢賢治の風味がありますが、それだけではない独特の世界を持ち、ファンも多いです。この作品は兄弟2人の絡み、葛藤がとても良かった。川の島の隠れ家的舞台、河川やポイントとなる銀木犀の木が素晴らしい寓話的雰囲気を作っていました。


室生犀星は2位の「かげろうの日記遺文」と10位の「或る少女の死まで他2編」、18位には「蜜のあわれ」がランクイン。室生犀星の小説がいける、というのは発見だった。「かげろう」は王朝もので、主人に仕える2人の愛人の話。キャラの描き分けと対決がとてもよく、感じ入った。


3位の「イーハトーブ探偵」は宮澤賢治が探偵役、当時の環境で活躍させるもので、推理小説出身の著者はかなり本格的なトリックを使っている。それも彩りではあるが、宮澤賢治をそうとう研究したようで、言葉を含めてその言動が胸を打つ。一番大きいのは、もうひとつ人間像が茫洋としている宮澤賢治に命を吹き込み人間として動かしたことだ。今年の一つのテーマが宮澤賢治で、多少は理解が深まったかなあと。5位はその宮澤賢治。


4位のポール・オースターはアメリカのハルキ的存在。まずまず興味深かった。6位の佐藤亜紀は、よく本を読んでいる人ほどハマる、ファンの多い人、という感じの作家さん。今年の新要素だった。以下11位から20位。


11位 阿刀田高

「新約聖書を知っていますか」

12位 芥川龍之介「地獄変・偸盗」

13位 呉座勇一「応仁の乱」

14位 北村薫「六の宮の姫君」

15位 O・ヘンリ「O・ヘンリ短編集(一)」



16位 ヘルマン・ヘッセ「デミアン」

17位 ウィリアム・シェイクスピア

「ヴェニスの商人」

18位 室生犀星「蜜のあわれ」

19位 百年文庫2「絆」

20位ロバート・ルイス・スティーブンソン

「ジキル博士とハイド氏」


12位 芥川龍之介「地獄変・偸盗」に収録されている「六の宮の姫君」他の作品を読んでから、北村薫「六の宮の姫君」を読むという企画は理解が深まって楽しかった。「太宰治の辞書」もぜひ文庫を買って再読し、同じことをやろう。サキやO・ヘンリの短編集は、新しい世界が広がったと思う。シェイクスピアも秀作揃いだったなと。


今年下半期も文豪や名作系の傾向が続く。いま興味がそっち向いてるから。年末にどんな感想を書いてるのか、自分でも楽しみだ。読んでいただき、ありがとうございました。

2018年7月1日日曜日

6月書評の4




写真は土曜の昼食&おやつ、パンケーキ自宅栽培のバジルのせ、自宅栽培のミントのお茶。鼻に抜けるミントの香りが好きで何杯も飲んだ。

6月は16作品18冊。現代詩手帖は雑誌なので冊数にのみカウントした。よく読んでるな我ながら。今月もなかなか取り合わせが面白かった。

で、土曜はブックオフの店限定、期間限定クーポンがあったから三宮まで出向き、シェイクスピア「じゃじゃ馬ならし、から騒ぎ」、芥川龍之介「蜘蛛の糸 杜子春」など5冊。一番楽しみは中野孝次「ブリューゲルへの旅」。家に帰ってTポイントのボーナス分を使って太宰治「ろまん燈籠」も買い物。積ん読ありすぎるのについつい・・。

で、日曜日は図書館で「ビギナーズクラシック 万葉集」フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」借りてくる。まったく。整理しとかないかん。それにしても、積ん読なんとかしなきゃあ。

高田郁「あきない世傳 金と銀 五」


ダイナミックな変化が重なる巻。ちょっとほう、となった文章もあった。


店主が倒れた桔梗屋を平和裏に買い上げた五十鈴屋。幸は夫で店主の智蔵に江戸へ出店したい気持ちを伝える。資金を貯めるため、幸は商いの知恵を絞る。そんな中、故郷の津門(いまの兵庫県西宮市の地名)から母の急死の報がー。


商いの工夫、家族の変化、悲しみと、希望と悲哀が合い混じる流れ。どの出来事も小さくはなく、また商いの仕掛けも派手で、浮き沈みがずいぶんと詰め込まれている。


長いシリーズで、そのような書き方だからか、それでも冗長な気がするのはなぜだろう。


呉服屋の話なので、鶸茶(ひわちゃ)色、松葉色、銀鼠(ぎんねず)色、黄檗(おうばく)色など色に関する表現は多彩なのだが、今回は鴇(とき)色と、鳶色を調べてしまった。とび色の瞳に~♫はすぐ口ずさめるが、そういえば調べたことなかった。色彩はイマジネーションを刺激する手段である。今回は帯にこだわりがあり、ファッション性も高い話。


巻中、売りたい売りたい、ではなくて納得して買ってもらうほうが良い、的な言葉があり、ほうっとなった。日々売上げに関わるシビアな仕事をしている人が見たら甘いかも知れない。ただ、ようは自分の想いだけで商い、仕事を動かしてはならないということを感じて、そうだよなあ、となった。


前にも書いたかも知れないが、私は女性主人公の話は、どうもヒロイン像を多部未華子に投影してしまう。東野圭吾「白夜行」もそうだったな。角田光代「八日目の蝉」はドラマを先に見たから檀れいだったけど。


今回の幸も、多部未華子。女衆からその商才を伸ばして商家の主人の妻となり、さらに麗しく、自ら着物のモデルとして人前に出たりする。うーん、高田郁のヒット作「みおつくし料理帖」の主人公・澪は違ったんだけど、今回は華やかだし、多部未華子風味が強いかな。


巻末に「みおつくし料理帖」特別編の予告が。こりゃ楽しみだ!


川口和久「投球論」


図書館持ち帰りOKの時にチョイスした本。意外に面白かった。


川口は1980年に社会人のデュプロから広島カープに入団。晩年にはFAで巨人に移り、リリーフに転向して活躍した。あの頃を知るプロ野球ファンとしては、そこまで球速はなかったが、本格派というイメージだけあった。


読んでみると非常におおらかというか、フォアボールも出すがインコースのストレートを「本線」にビュンビュン投げて三振を取る、というのが信条だったという。


自分でもアメリカ車みたいにガソリンを無駄遣いしながらパワーで押す「無礼な」ピッチャーという言い方を繰り返ししている。しかし本を読み込んでいくと、プロで生きていくために繊細な部分も押さえている。それを読み解いていくのが面白い。


インコースのストレートで勝負するためにどういう投球の組み立てをするか。身に付けなければならなかった変化球は何か。自分はこんな投手なんだ、これでいいんだ、思っていた、という書き方のイメージとはうらはらに、アドバイスも聞くべきは聞き、目標を持って取り組んでいる。どうやってプロの投手になっていったかがよく分かる。だから巨人でリリーフに転向した時に、考え方を転換し、地道なトレーニングも積み重ねられたんだな、と思わせる。


一方で、酒を飲むのも豪快。ひと昔前の、マンガのような選手だな、と思う。


巨人に入った時感じた違和感、リードの違い、マスコミの取り上げ方、チームの派閥などの話も面白い。広島と好対照をなしている点も興味深い。


以前、渡辺俊介の本を読んだり、黒田博樹の「メジャーでは素直なまっすぐを投げたらひどく打たれてしまうから、自分はいつも動かしていた」という述懐を目にしたりすると、最近は小さく動く変化球が全盛の時代なのかな、と思ったこともある。しかし、例えば大谷翔平にしろ、最近よく観ている西武ライオンズの投手たちにしろ、空振り、見送りを取りに行っているな、と思うことが多い。時代は意外に早くひと巡りして来たのではないかと個人的に思っている。


川口は自分はストレートとカーブで勝負してきたピッチャーであることにささやかな誇りを持っているという。そして、それでもやはり、あくまで三振を狙うような投手が続々出現することを祈りたい、としている。この本は1999年に出版されている。


川口は今、大谷翔平を観て何を思っているだろうか。たしかに川口のように生き様は豪快ではないが、別の意味でチョー豪快なのは間違いない。


巨人の甲子園遠征の時の宿舎が、私の家の最寄駅のそばだった。駅の売店で、ジャージ姿の川口とすれ違ったことがある。

「あっ!川口だ!」のあと、

「・・細くて、シブいな」と思った。


ウィリアム・シェイクスピア

「リチャード三世」


リチャードがとにかく殺しまくる、初期の陰惨な作品。しかし収まりが良い気もした因果応報もの。


15世紀、ばら戦争渦中のイングランド。王エドワード四世の弟グロスター公リチャードは王の座を欲して兄のクラレンス公を手始めに、有力者や王の息子などを陰謀を用いて次々と亡き者にする。危険を感じた側近らは逃げ出し、挙兵するー。


最初の方、前提がつかめず読んでいてやや違和感を感じたが、これは「ヘンリー六世」の続きものだとのこと。解題を読んで得心した。


病死した王エドワード四世の妃エリザベス、エドワードの母、つまりリチャードの母、ヘンリー六世の未亡人などから激しい呪いの言葉が発せられ、効果を強めている。


リチャードの母、エリザベス、そしてクレランス公の遺児が三代で嘆き回る場面など舞台劇の特徴を踏まえた演出は上手いと感じた。またラスト近くのリチャードに殺された者たちの亡霊が入れ替わり立ち替わり現れ呪いの言葉を吐く畳み掛け方も面白い。


今回は道化らが軽くおちゃらけた台詞をのたまうような場面はないが、長い台詞が活き活きとしており、疾走感がある。小さな仕掛けも多く、呪いから因果応報の、晴れやかなエンドになっている。だから収まりがいい。


シェイクスピアの作品の中でも好んで演じられる人気作というのも分かる気がする。事前に読みかじった情報は陰惨、ドロドロしてる、という感じだったんで、特にワールドカップ日本戦の後に読むのは暗い気分が深まりそうで、やめにしようとか思ってたんだけど、当時。


日本もコロンビアに勝って、セネガルにも凄く面白い試合をやってくれたし、読んでみると意外に物語の流れがまずまずで、呪いの色から混乱、結末へという構成に意外な深さを覚えたりした。


シェイクスピアも数えて10冊を超えた。「アンソニーとクレオパトラ」とかそれこそ「ヘンリー六世」、「から騒ぎ」「じゃじゃ馬ならし」まだまだ読んでみたいな。


熊谷達也「まほろばの疾風」


好きな作家、好きな題材。楽しんで読めて満足。蝦夷の英雄・アテルイの物語。


武士の時代も好きではあるが、いまはより古代のほうに惹かれている。そこまで多くの書籍を読破したわけではないんだけれど、なんというか、見えないもの、ある意味黒く暗い躍動感に魅力を感じる。国内的にも国際的な動きも面白い。


奈良京都の朝廷に従わないものはすべて鬼であり蝦夷であった。関東でさえ坂東と呼ばれ未開のイメージを持たれていた。九州にはクマソがいたし、各地にも土蜘蛛と呼ばれ蝦夷がいた。そんな歴史の陰の部分にも大いに興味をそそられる。


大規模な反乱を起こした中ではやはり北の蝦夷が最も知られ、ヒーローであるアテルイ、朝廷軍の坂上田村麻呂はいくつもの作品で取り上げられている。舞台にもなっている。


8世紀末の陸奥国。巫女より生まれる前にアテルイという名を授けられた男子が誕生した。12歳の時、成人の儀式で単独の狩りに出たアテルイは鹿を追う山中で巫女モレと出逢うー。


アテルイには朝廷に帰服していたが後に蝦夷をまとめ大反乱を起こす呰麻呂という父が居た。父に取り立てられたアテルイはやがて蝦夷連合のリーダーとなり朝廷軍に強力に対抗するが、坂上田村麻呂が指揮をとるようになるとその知略の前に押されるようになる。


蝦夷の反乱を取り上げた作品では、高橋克彦の「火怨」がある。アテルイら蝦夷連合の戦い、計略をつぶさに描き出していて、大変面白かった。こちらの方では、モレは男性でアテルイの盟友となっている。

また、熊谷達也は呰麻呂を主人公とした「荒蝦夷」という作品もこの後に著している。呰麻呂はまさに権謀術策にすぐれ、女を政治的な道具に使い、残虐な手段も躊躇なく行う。生々しく残酷さもあったが、私はこの作品に読み終わるのが惜しいと思うくらい魅力を感じてしまった。


熊谷達也は東北出身で、初期の作品から拘りと、誇りを持って描いている。男臭く、女性の描き方や性的な描写はおっさんっぽい。(笑)直木賞を受賞した「邂逅の森」で好きになり、いまも折に触れ読んでいる。


今回のアテルイは若者らしい苦悩を抱え悩み続ける。そのあまりのピュアさはちょっと甘いなと思う。モレを女性にしてロマンス風味も漂う。「荒蝦夷」と好対照であるが、呰麻呂を現実的なリーダー、アテルイは明るく正しい英雄との書き分けは鮮やかとも言える。


熊谷達也も、古代も、さらには蝦夷と呼ばれた人々を題材にした作品も、もっと読んでいきたい。