宮部みゆき「荒神」
度重なる襲来。魔物の、パニックエンタテインメント。
奥州の小藩、香山藩の山里で、一夜にして村の逃散が起きた。生き残っている者はほとんどいない-。ほどなく藩主の嗣子が亡くなり、藩は不穏な雰囲気に包まれる。隣国の永津野藩主の腹心・曽谷弾正の妹である朱音は、行き倒れていた少年簑吉を見つけ、永津野で面倒を見ることにする。
グロテスクな怪物は何度も人を襲い、喰らう。「進撃の巨人」が爬虫類化したような強さ。奥州の山奥に立つ砦への襲撃、破壊は圧巻だ。不気味さから激しさ、変身と終局と、襲撃の描写も出し入れのバランスが考えられていると思う。
少しずつ怪物の特徴が分かり始め、そして終盤、怪物の成り立ちや主人公たちの秘密、また恋慕の感情や意外な事実が次々と明らかになり、最後の対決へと向かい、喪失が訪れるという流れがドトウのようだ。
怪物の迫力と、その獰猛さ、グロテスクさが際立って怖い。また怪物と香山、永津野両藩に亘る登場人物たちがパニックの中活躍し、最後は大きな問題を解決する方向のすがすがしいラストを迎える。
複雑な状況を設定して、道筋をつけ、大団円に向けるという、巧妙に設計した図案に沿って息もつかせぬ展開を組み立てるのはもはや巨匠の宮部みゆき氏の、熟練の筆致だろう。
時代劇、エンタメ、人智を超えるものへの恐れなどをうまくあやつっていると思う。また、文章の様々な部分に知識量が見え隠れする。NHKBSでドラマのPRを観て、こんな物語だったのかとちょっと驚いた。結局オンエアは観なかったんだけど(今、観たい!)想像が膨らんだ。
面白かったし、一気に読了した。
私は宮部みゆき氏は尊敬に値するし、それは多くの愛読者が証明していると思う。私の周りの読者友だちにも悪く言う人はいない。
ただ、私は、以前から宮部氏には違和感があって、今回もどうにもひっかかった部分がいくつかあった。ストーリーに設定を合わせているような感じ。既視感。今回も感じてしまった。他の作家さんではスルーしているとも思われるが、なぜか、てなもんである。
「小暮写真館」では感じなかったんだけどね。これも読み手のクセということで取り置いておこうかな。次に読む機会が、やっぱり楽しみだ。
エンサイクロネット編
「今さら他人には聞けない疑問650」
雑学好き。たまにこういうの読むと面白い。
「仕事」「金儲け」「外国」「日本」「食べ物」「スポーツ・芸能界」「身近なもの」等々の?を都合650も取り挙げ、解説したもの。短くまとめてる必要からか、多少おおざっぱだなと感じるものの、ふむふむ、となる。
興味深かったのは「女子学生は卒業式に袴をはく?」とか「新学期はなぜ四月に始まる?」で、理由そのものというよりは、そうなった経緯が面白かった。女子学生の袴は、価値観が逆転しているし、伝統的に思えた四月スタートも、明治の最初の方は違ったのが意外だった。
また満年齢はいつが基準なのか、とか、サイドのネタだったが、その針毛だけが注目される動物のヤマアラシってすごい害獣だった、というのが面白かった。
初版初刷が2002年であり、その頃からは常識も、社会通念も変わってるな、と思わせるところもあり、感じる部分もあった。
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